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第65話 霊巫王の野望



洞爺湖の中心には、約3万平方メートルの人工島が浮かんでいる。

この島は探索者協会の資金で作られたプライベートアイランドで、島の下には洞爺湖のダンジョンへの入り口が繋がっている。


今、数人で作られた探索者チームが集まり、手続きを終えるとエレベーターに乗り込み、深さ150メートルの湖底にあるダンジョンの入り口へと向かう。


「皆さん、このダンジョンが『魂の監獄』アストラル・プリズンと呼ばれている理由、知っていますか?」

先頭を歩く探索者が微笑みながら問いかけた。


後ろにいた初めてこのダンジョンに入る探索者は、手にしていた情報を基に答えた。

「このダンジョンに住む特殊なモンスター、仮面ローブが関係しているんですよね?」


「その通り」先頭の探索者は頷いた。


「仮面ローブはVII級のモンスターとして評価されているが、その強さはある意味IX級に匹敵する。彼らはあらゆる生物の姿に変化する能力を持っていて、接触を通じて人間の心――つまり、魂を腐食させ、最終的にはその魂を食らって傀儡にしてしまうんだ。

 噂によれば、過去30年間で、仮面ローブに魂を食らわれて傀儡くぐつになった探索者の数は千人を超える。 このダンジョンは最も危険というわけではないが、最も慎重に対処すべき場所だ。だからこそ、ダンジョンに入る前に互いを確認できる手段として暗号を決めたんだ。見た目で誰かを信じてはいけない」


その言葉が終わると、転送ゲートの光が一瞬瞬き、五人の探索者は「魂の監獄」へと足を踏み入れた。


「魂の監獄」の中は広大で、中央には巨大な城のような建物がそびえ立っている。それが「魂の監獄」内で最も禁忌とされる場所――「黒魂の城」だ。



ここは仮面ローブたちの王、そして「魂の監獄」で唯一の伝説級モンスター、「-」の巣でもある。



黒魂の城の深部、王座には黒い衣服をまとった男性が座っている。

その額には縦に走る瞳のような傷跡があり、まるで3つ目の目のように見える。彼の眼差しは鋭く、年齢は四十歳前後だろう。

その姿は一度見たら忘れられない印象を残す。


もしライーン会長が今ここにいたなら、間違いなく驚愕するだろう。

この男性こそ、夜帝そのものであるからだ。



王座の前には、全身に冷徹な殺気を纏った女性の剣士がひざまずき、深く礼をしていた。

「王よ、また新たな探索者が入りました」


夜帝の姿をした霊巫王はその報告を受けて一瞬目を輝かせると、声を低くして問いかけた。

「何人だ?」

「五人です」

「……少ないな」


霊巫王は少し眉をひそめ、続けた。

「最近、任務の達成率が低すぎる」


女性剣士は頭を垂れて答える。

「おっしゃる通りです。しかし、私は既に‘心音共鳴’を使って、彼らにどんな手段を使ってでも探索者を王の領域に誘い込むように命じました。きっと近いうちに探索者の数は大幅に増えるはずです」


霊巫王は静かに頷き、続けた。

「ジーナ、お前も分かっているだろう。テホムの扉を開けるには、あと126体の魂だけだ。私が深淵から力を吸収すれば伝説を超えるのも必然となる。その時、この『魂の監獄』は単なる監獄ではなく、世界を支配する基地となる」


ジーナは深く頭を下げ、敬意を込めて言った。

「王が伝説を超え、現世を一統する日をお祈りします」


霊巫王は耳障りな笑い声を上げ、その後、まるで独り言のように呟いた。

「なぜ、私はここ数年ずっとこの男の姿をしていると思う?」


ジーナはその問いが自分に向けられたものではなく、彼自身のクセ的な自問自答だと理解しているため、黙っていた。


「この男がかつて私を殺しかけた。彼の強さは今でも私の胸に恐怖を刻んでいる。だからこそ、私は二十年以上にわたり、テホムの深層にいる恐ろしいものに見つかるリスクを冒してでも密かに扉を開け、伝説を超えるために計画を進めてきた。…そして、あの男が守ると誓ったクソったれな億万の人間たちを、すべて私、スタンフェニの傀儡にしてやる」


霊巫王はにやりと笑いながら続けた。

「彼の姿を使うのは、常に自分を警戒させるためだ。私は彼よりも強くならなければならない……」


________________________________________


川谷の背中に寄りかかっていた静香は、突然、その瞳に異様な光を宿した。


彼女は仮面ローブの一員で、任務は人間界で情報を集めることだけでなく、十分な数の探索者を「魂の監獄」に誘い込むことにもあった。

これによって、霊巫王がテホムの扉を開ける計画を加速させるのが目的だった。


が、彼女にも人間界で生き延びるための条件があった。

それは定期的に人間の血肉や魂を摂取すること。


目の前にいる川谷は、彼女が選んだ命を維持するための貴重な食料だった。


しかし、心音共鳴で受け取ったメッセージを瞬時に理解した静香は、飢えを堪え、最初の意図を変えざるを得なくなった。


(我が王のためには今は我慢しなければ…。チッ、今すぐに死ななくて済むとは、本当に運が良い奴だな。そういえば、こいつが探索者なら、仲間たちもきっとそうだろう…)


静香は川谷の首を優しく締めると、涙声で言った。

「川谷さんっ…!こんなに私に優しくしてくれる人は初めて…本当に…感謝してるわ…」


川谷は静香の突然の涙声に驚き、慌てて慰めた。

「えっ…。静香さん、そ、そんな大したことじゃ…」


「でも!実は一つだけ告白しなければならないことがあるの。先ほど、偶然、川谷さんとご友人さんの会話を聞いてしまったんです…皆さんが、三星の霊魂珠を購入したいと思っていること」

「えっ、静香さんも霊魂珠のことを知っていたんですか!?」


「もちろんです」静香は微笑みながら言った。

「私は探索者ではないけれど、亡き父はGamma3級の探索者でした。そして、父は洞爺湖の「魂の監獄」を長年探索してきたんです。このダンジョンについてはほとんど誰にも負けないくらい知っているわ」


静香は少し間を置くと、川谷を見つめながら続けた。

「…だから、もう私の家に戻らなくても大丈夫です。川谷さんのお友達と合流し、私が詳しい情報を提供するのはどうかしら? これで、あなたたちも霊魂珠をたくさん手に入れられるし、私も川谷さんのために力になれるわ」


静香は一瞬だけ目を伏せ、声を少し低くして言った。

「ちなみに、父が亡くなる前に言っていたの。「魂の監獄」には隠された場所があって、『霊巫の墓場』という場所なんです。そこには霊魂珠が地面に散らばっているほど多く存在するんですよ。私がその場所の地図を描いてあげられるわ」



川谷はその言葉に疑うことなく信じた。

なぜなら、彼は自分の「運」に絶対的な自信を持っていたからだ。



(ふぅ、静香さんみたいな美人でも俺の魅力には勝てないよな~!それにしてもちょっとした魅力を振りまいたら静香さんがどんどん僕のために力を貸してくれるってやっぱり僕って………………)



その頃、宮本たち一行は九尾の追跡のもと、必死に川谷がいる方向へと向かっていた。

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