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異世界の異世界

死んだはずの幼なじみの優梨が異世界でユーリとして転生したらしい。ユーリは異世界からさらに別の異世界に連絡する能力を持っているらしく……俺の許にユーリから連絡が来るようになったのだった。


「おっはよ~!今日も一日頑張ろうね!」

「おはよ。朝から元気だな」

一日の始まりに早速優梨から連絡が来た。

「そりゃもちろん!まーくんに負けてらんないからね!」

ふんと鼻息が聞こえるほどの勢いで元気を振りまく。

「負けるはずないわ……」

「しかし……今日は遂に私もデビューの日……。あんまりまーくんに構えないのだ……」

優梨は残念そうにそう言う。

「ほっ……」

「なんか今胸を撫で下ろさなかった?」

「気のせいだ」

「私も働かないといけないからね。ナビゲーターとして戦線に投入されるの」

「それって大丈夫なのか!?」

「あ、心配してくれるの?」

「うっせ」

つい過剰に反応してしまい照れくさくて突き放してしまうが何せゲームみたいな異世界だ。どんな危険があるかわかったものではない。

「でも安心して。戦線と言っても敵と真っ向から交戦するんじゃなくてこの能力を活かして声を伝えることが仕事なの」

それならまぁ接触がない分危険性は少ないか……。

「でもそれって携帯電話でするのか?」

「そんなものはないよ」

きっぱりと否定される。

「じゃあどうやって?」

「似たようなものがあってね。ノーフっていうんだけど……なんていうのかな、木の幹にモニタがついたようなやつ」

「スマートフォンを木のモチーフにしたような感じか」

「理解がいいね。そんな感じ。それに指示を送るからそれに従って行動してもらう感じなんだよ」

要するにナビゲーター職ってやつか。

情報を戦線に伝える…………。

「もしかして……」

「理解がいいねっ!」

「いやいやいや!付き合いきれんぞ!俺に構うどころか俺が構わなければならないじゃないか!」

「大丈夫大丈夫!ほんとに困った時だけだから!」

「ほんとかよ…」

結局俺は面倒事を押し付けられるらしい……。

「じゃあとりあえず説明しとくね」

「やらせる気まんまんじゃないか……」

「このガイドなんだけど、基本的に1ガイドにつきひとつのパーティを受け持つの。今回は初めてだから戦士のお客さん1人」

「お客さんって……」

「依頼式で毎回違う人をガイドするからね。ここで活躍しないとあとが無いのだ……」

割と切羽詰まった状況らしい。ここで助けてやれなければユーリとしての評判が落ちるかもしれない。

「わかったわかった」

俺が数回も協力してやれば評判や慣れもあってひとりで出来るようになるだろう。

「まあ今回は戦士さんも初心者だしダンジョンも低レベルだし多分大丈夫だよ」

「ちなみに予習とかは……?」

「……ん?」

しらばっくれているがこの様子ではしていないに違いない。

「いやその仕事つくならちゃんとわかっておけよ……」

「だって戦うのはイヤだし~」

「そんなシビアなのかそっちの世界は……」

「多分ショップ店員なんてもっと難しいよ。基本的に買い取らないものはないから相場も全部覚えないといけない……」

「あー、それは確かに……。ゲームでもなんでこんな序盤のとこのやつがラストダンジョンの敵モンスターの素材買い取るんだって思ったよ」

「それに波のように押し寄せる冒険者……!私にはやってられません」

あいつが頭を抱えている様子が目に浮かぶようだった。

「この2年間どうしてたの?」

「2年間?そういえばこの前も口挟めなかったけどそう言ってたっけ……」

年数を聞いた優梨は不思議そうな声を上げる。

「え、違うの?」

「もしかしてまーくんのところは……」

「うん。2年間」

「どひゃあ……それは確かに寂しかったろうねぇ……」

「まあピークは超えたって感じだからいいんだけど」

現に電話がかかってこなければ俺はいい感じにこいつとの思い出を糧に勉強できたかもしれんのだ。

「これからはいっぱい話せるからね」

「う……うーん」

「なによそれ!」

煮え切らない俺の返事に立腹したように声を荒らげられる。

「いやなんか……うん」

嬉しい半面もう諦めていたことでもあったし厄介事を押し付けられることにも正直気乗りはしないのだ……。

「もうっ!とにかく私はまだこの世界に来てから1ヶ月くらいしか経ってないの」

「1ヶ月!?復活に時間かかったんだな……」

「だけど私は1ヶ月まーくんがいないだけでも辛かったんだよ……」

「それに加えてこっちじゃお前死んでたんだからな。俺がどれだけ辛かったか……」

「あれ?誰のせい?」

「ぐ……」

んなこと言われたら何も言えない。

「なんて、ごめんごめん。誰のせいでもないよ」

「まったく」

そこを茶化されたら流石に俺も嫌な気分になるぞ。

「ユーリが所属してたギルドの人たちが詳しく教えてくれてね。色々助けてもらったの」

「やっぱりそうだよな。お前がそんなにたくましいとは思えない」

「むっ!」

「いやほんと。お前の説明聞いてもちんぷんかんぷんだったもん」

「ほんとややこしいよね。でも生きてる!それでいいじゃない」

うまいことまとめたような感じだが現状を解決するには至っていない。ましてや謎の多い異世界なのだから……。

「いいのかな……。ユーリの身辺もちゃんと調べた方がいい気がするが……」

「ま、合間合間にね」

「ユーリはなんで死んだんだ?」

「わかんな~い」

「……」

「ま、合間合間にね」

「適当なやつだなぁ」

結局優梨は自分の身に起きていることに関しても追求する気はまだないようだ……。

あっちに来てまだ1ヶ月じゃ世界に慣れるだけで精一杯か?

「えーと、どこまで話したっけ」

「ナビゲーターのこと」

「そうそう。この世界にはね、ガレフっていうダンジョンみたいなのがあるの。地下に広がる不思議な世界なんだ」

「異世界の異世界って……」

「まあ今私がいる世界ではただの異世界だから」

「またややこしい……」

「そのガレフにも色んな分類があってね。レベルが決まってるの。私がこれから行くのは最も安全なレベル1のタセフィ区」

「へぇ。確かにゲームっぽい」

「内部もかなり変化するの。でもこの区域の範囲だけは変わらないからそれを基準につけられてるみたい。ダンジョンも入れる人数が決まってるの」

「まさに異世界だな……」

「とりあえず朝に戦士さんと顔合わせして私はダンジョンに入らずにダンジョンの前でキャンプを組んでガイドするの」

「へえ。頑張れよ」

「だからまーくんもよろしくね!」

いきなりなんかよくわからないお願いをされる。

「なにを……」

「こういうの詳しいでしょ?」

平然とそう言い放つ。

「いやお前のいる世界とこっちのファンタジーが共通してるとは限らないだろ……」

「え~」

「ま、困ったことがあったら連絡してこいな」

「は~い」

俺は電話を切った。

「やべ、急がないと遅刻だ」

朝だって言うのに長く話しすぎた。時刻は既に家を出る時間に差し迫っていた。

急いで学校へ行く支度をして登校を開始した。

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