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第71話 世界の中心 ラグレイシア





 遥か東の辺境の地より爆速の飛行術で三人が目指すのは、世界の中心ラグレイシア王国。

 それは大陸の中心よりやや北に存在する。遥か上空からでも分かる巨大な街が。


「あ、見えてきた!」


 そしてその王都ラグール。歴史あるその街は何処よりも栄えていたことを誇示するように石造りの建造物がどこ迄もひしめく。


「うわー、なんて立派な街……」 


 ルナ達は首都中心部にそびえ立つそのラグール宮殿へと徐々に高度と速度を下げながら近付いていく。


 城壁を前にしてフワリと降り立ち、見上げるその荘厳さに圧倒される。前世で言う所のヨーロッパの大伽藍や城の様だ。


 巨大な門に立つ衛兵へと不躾ぶしつけに早速ファスターを訪ねるルナ。だが不審人物扱い。


 奪還掃討・捕獲作戦一番乗り。その任務について直接報告を、と粘るルナ。


「その報告なら連邦政府へ行きなさい」


 だが諦めず、第一級戦士・隊長ファスターと面識があるとして『あの時のお礼』かたがた状況報告と『耳寄り情報』を持ってきた、――― などという強引な取り次ぎ要請に当初あきれ顔の守衛だった。

 まして非常事態宣言の厳重警戒の最中さなかだ。


「子供達が何を言ってるんだ。帰りなさい」


 だが余りに熱心な少女による懇願に、だめ元で聞いてやる、と言って先ずは政府に確認する。その活躍について政府も確認を急いだが、監視団からの返答が。


『間違いありません』


 え?! と、訝しみながらもこの報告を持って一応王室へも取り次ぐ衛兵。すると予想に反しその要望が通ってしまい、


『ウソ?! 今は政府要人でさえ通さないのに……あり得ない』


 と何度も首を傾げる守衛。





 遂に宮殿内に通されるルナ達。

 すると、そこは途端にヒヤリと一変する湿った空気に満ちていた。ノエルをポシェットに仕舞い、静謐な城内へ踏み入れる。


 靴音の長い残響音。

 巨大な大理石の柱群が支える交差ボールト天井のとんでもない高さ、そこにあしらわれた大絵画、ハイサイドには天界を思わす極彩色のステンドグラス。


 その絢爛豪華たる圧倒的な大空間と煌びやかな装飾にアングリと口を開け、『はぇ~……』と眺め回すルナとルカ。


 そして謁見の間に通されて暫く待つと、そこへ悠然と現れるファスター。

 レイメイとはまた違った趣の好青年ぶりだ。

 ついルナは兄の面影を追ってしまう。




 やっぱり似てる…………




 何故、たかが一戦士隊長が謁見の間などという破格の場を使えるのか―――

 それを不思議に思えるほど世間を分かっていないルナ達。それでもその威圧感だけは肌で感じながら緊張するルナとルカ。ルカの肩から下がるポシェットの中で大人しく待つノエル。


「よく来てくれたね。楽にするといい」


 砕けた調子と例の優しい眼差しで声を掛けるファスター。思わず少し緊張が緩む二人。


「捕獲作戦ではよく働いてくれた。しかも驚くべき早さ。王に代わって謝意を伝えよう」


「ファスターさん……あの時は救って頂いて、本当にありがとうございました。……それと、もしかして先日、雷撃の転生者エマさんの攻撃に突っ込んでしまった時にも……ですか?」


「数ケ所にギガダンジョンの衛兵クラスの魔人が直々に侵攻して来たと聞いて緊急の見回りをした所だった。急いでいたから声もかけてやれなかったが無事で何よりだ」


「そ……そうでしたか……ありがとうございました。……それにしてもこんなにスゴい所にいた方だったんですね。何も知らずお礼のお便りさえ出さずに大変失礼しました」


「フフ……構いませんよ、でもまだキミは私の立ち位置を分かっていないだろうけどね」


 え? これを見ても分からない程の立場って何?……それにしてもこの異様な重圧の結界は何だろう……

 そしてこの人の……サイキックステータスが……



 なっ?!………

 さっ?……

 さぁ!?……

 300万さぁんびゃくまぁぁん~~~~~ !?!?!?!?!?!



「敵にはいきなり王の首を取ることが出来るヤツがいる。この結界はその為に張っている」


 考えをアッサリ読まれている、と気付くがステータスからしたら当然の実力か、と得心する。それよりいきなり王の首を取れるとは……


 あいつかっ! と思わず声を漏らすルナ。


「そう。キミがやられた敵。あのゲリラ的極限攻撃を阻止せねば国民、いや世界が絶望してしまう。

 奴は地上で短時間しか行動出来ないが我々の士気を挫く為に狙って来る事は十分あり得る。

 故に平和の象徴としてのこの宮殿と王を守らねばならない。だからここを短時間しか離れられない。我々も大戦か捕獲に参加したいがキミの活躍を見てとても安心したよ」


「お安い御用です。出来ればもっと任せて欲しいです。……でもここにずっといるのはそういうことだったんですね……ところで敢えてお会いして頂きたかったのはこの為なのです」


 肩から下げたポシェットから拘束したハーフ7人を引き出してファスターの前に差し出す。やや色白で虚ろ気な目をした少年少女達。

 だがどう見ても普通の人間だ。



「無理矢理働かされてた悲しいハーフの子達なんです。見た目が人間そのものだから……」


 ファスターは優しくハーフの一人の頭に手をかざし、捕縛リングにサイパワーを注ぐと、まるで煌めくガラス片の様に弾けて消えた。

 そして何やらそのサイキックで読み取る。


「アンドロジャナスとのハーフ!……こんな利用されて……可愛そうに。だが知らされてる事は少い様だ。ならば遺伝子に刻まれた親・先祖の強い願望、それも探ってみよう」


 直接手を額にあてて、より深い瞑想のような半眼状態で集中する。


「種の保存、交配、ハーフ、両性具有、仲間、人質、低確率、地殻、放射線、制限時間……これは……そうか、やはりそう言うことだったのか……」


 何かわかったのですか? と、遺伝子からの記憶さえ読み取る能力に驚き、見守る。


「種を存続させようという思い、それは分かっていた……が、それが強まっている。どうやらヤツらは地底の放射線の事情で焦っているようだ……」


「! それなら詳しい情報が有ります。あの連れていかれた子から連絡が入ったんですっ!」


『!!……』――― 一体どうやって?

 と言わんばかりの目をしたファスター。


 ポシェットから出るようルカに言われて魔法のてんとう虫を握りしめて現れたノエルが、そのあどけない顔を不安そうにして手渡しする。


 ファスターはそれをそっと摘まんで目を閉じると、全情報を一瞬で解し、一つ溜め息と共にある種の陶然とした面持ちで得心した。




「やはりそうか……ありがとう。そしてこれにはが含まれている。


 いや、私にとってこれ以上の手土産はない!……


 ―――最大級の感謝だっ!!」


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