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第72話 どんな命令にも従わねばならない





 ポシェットから出るようルカに言われて魔法のてんとう虫を握りしめて現れたノエルが、そのあどけない顔を不安そうにして手渡しする。


 ファスターはそれをそっと摘まんで目を閉じると、全情報を一瞬で解し、一つ溜め息と共にある種の陶然とした面持ちで得心した。



「やはりそうか……ありがとう。そしてこれにはが含まれている。いや、私にとってこれ以上の手土産はない!―――最大級の感謝だっ!!」



 僅かに武者震いするファスターを見てルナとルカは想像以上に役に立てた事を感じ、笑みと小さな頷きでアイコンタクトをとる。


 そしてファスターへ向き直ると直訴するルナ。



「ジャナス族の自分勝手な種の保存。そのしわ寄せとしてこんな悲惨な事が……。

 こうした子がまだ大勢……この悲しみを止めなきゃって。……だから撃退なんてしたくなくて。


 ほっといたら他の地域ではどうなってるか……


 だって今回の捕獲作戦では抵抗への配慮から殺処分も可能になってますよね?! 中にはただ戦いが好きで参加してる者もいる……


 でも他の誰にも相談出来なくて……なんとか手厚く保護してあげたいんです! どうかこの子達にまともな人生を!」



「……確かに……その気持ちは分かる。しかし敵地出身、血筋も敵の最高部族の眷族けんぞくという事に他ならない。この者たちを預かるには私もそれなりの重責を負う事になる」


「そこを何とかお願いできませんかっ! 他に誰にも……」


 そのファスターのまなじりは優しくも何かを教示するかの透徹さを持ってルナを射ぬく。


「……では条件がある。キミたちは私の配下となれ。私の当面の計画にキミ達は有用だ。私にその力を貸す忠実なパートナーを募っていた。それになるならこのハーフたちを丁重に預かり、他地域への指示も出そう」


 何かを試すような面持ちのファスターに、助けてくれた日を思い出すルナ。


 ……あの日ボクは試された。そして今、この人は恐らくこんなボクらの力が欲しいとかじゃなくて、もっと大事な事があると言いたいのか……


 そうだよね、ただ預けてお仕舞いじゃダメなんだ。身元保証人としてこの身を差し出す責任と覚悟が要る、きっとそう言ってるんだ……。うん。だったら。――――ただ……



「本当ですか ?! ……でも現場が実際に協調してくれるか……心配ですっ……」


「私が認めれば立案は通る。 そして現場へは欲と名声に飢えた者の多いハグレ者たちの事、身の安全な保護を条件に懸賞金を懸け、栄誉賞を与えればカンタンに遂行される」


「確かに……ただ、連邦政府は認めてくれるでしょうか?」


「心配するな。なんなら私は今、ある面で


「ええええっっっ?!?!……」


「フッ。だからさっき言ったろう。キミはまだ私の地位を理解していないと。それよりむしろキミが部下になったら今後どんな命令にも従わねばならない。どうする?」


 その瞬間、ルナは真剣味の増した表情となり、ゴクリと固唾を飲み込んだ。



 ……ど、どんな命令にも……










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