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第74話 どうしてそんなに優しい目で見るんですか








「でも……なら何で……どうしてこんなにも心が救われていないんですか? こんなので本当にあの約束は守られたんですか?……


 あなたが何者なのか、どんなに証拠が無くたって私には……。


 だってっ!


 物心がついた時からずっと追い続けて来たっ!……でもきっと、それでも人違いだ、って言うんでしょうね…… はぅ……


 だったらぁぁっっ!


 だったらどうして助けてくれた日も!


 ……今でさえっ!……んくうぅっっ……


 ……ずっと…………………………


 っそんなに優しい目で見るんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っっ!! 」


 叫び声は裏返り、唇は固く噛み締められ、ついに涙が零れ落ちてしまう。



「……うぐうっっ」



 それを豪奢な大理石の床へボタボタ落とし、握りしめた拳と肩は震えたままに、また叱られるかと身構えて再びゴクリと唾を飲み込む。


 鼻奥を通って降りてくる涙と共に。


「……優しい目?――― フッ…………」


 ファスターは一瞬目を反らし、ルナ達に背を向けて窓から遠くを見て諭す様に云った。


「……私の顔は昔からこうだ……でもそんなに優しく見えるのなら、また何か困ったことでもあれば話して見ると良い……。

 ……もう下がってもいいぞ……次も期待している。そう……希望通り、任務が遅れている地域に加勢出来る様、私から掛け合っておこう」


 予想に反してその声は叱るどころか更に優しさを増していた。


 はぐらかしとしか思えないその答えに肩を透かされ、だが追い討つ言葉も浮かばずに、これ以上追求出来そうもない事を悟ったのか、俯いて鼻を啜りながら仕方無く引き下がるルナ。


「……はい…………失礼します……」


 その向けられたファスターの背に心なしか漂う何か。

 ルカに背を押され、何度も振り返りながら後ろ髪を引かれる想いで出口へ向かうルナ。


 フィジカル100倍拡大視でピアスを探ったが、確かに耳上部にその存在は確認出来たものの、デザインまでは掛かる髪がギリギリ邪魔して分からない。

 透視も試みるがサイを阻止するこの強大な結界の中でルナのつたないサイキック能力など通用する筈もない。


『今この人の前に回り込み、その本当の表情を見たい……』


 その想いを必死にこらえて謁見の間を後にした。



  * * *



 一つの情報がファスターを大きく動かした――――


 連邦政府に造反してでも賭けに踏みきるための確証がルナ達により遂にもたらされ決心し、奮い立っていた。



 ……地下深奥への最大の障壁『地獄の門番』。

 その排除の機会チャンスは一度きりだろう。仮にもし第二、第三の門番が存在すれば取り返しのつかぬ失敗……


 それが二の足を踏んできた理由。


 だがルナ達のもたらした情報は本物だ。スーパーラヴァは闇の全勢力を長期間費やしただった。それが遂にハッキリした!!!

 ならばこの要所責めの価値は明確!


 ――――もう迷わない。ここを墜とす!


 その決心を固めたファスター。


『それにしても……』


 思わぬ所から地下の真相が、しかも詳細に手に入り、ルナ達に感謝していた。


 一方で遅々として進まない各国の浸食地奪還作戦。

 その抜本解決策としてファスターは、ルナ達が任意の地域で加勢出来るよう連邦政府へと口利きをした。



   * * *



 その頃、王宮を後にするルナ達。

 ただ黙り込みトボトボと帰路に就いていた。


 肩を落としうつ向き、赤くした目を前髪で隠して時折涙を溢しながら引きずる様に歩を進める。



 何度か見たルナの尋常でないトラウマを想うと、ルカも腫れ物に触るようにただ寄り添うことしか出来なかった。

 慰めの言葉を喉元で止めては音の無い溜め息にして吐き出すのを繰り返していた。



 そうして歩き続けて数時間経ったろうか。ルナへとようやく声に出せたのはこれだけだった。


「何もしてあげられなくてごめんね」


 そう言って気遣うルカへ申し訳なさそうに首を横に振り、


「ズズッ……こっちこそゴメン……泣いてばっかで……んくぅ……」


 目も合わさずに袖で涙を拭うルナ。


「……でも、あんなに何もかも似てて……どう考えても……はぅ……。ズッ……どうして!……どうして!……ああぁぁ……」


 遂にしゃがみ込んで膝を抱える腕の中に顔を伏してしまうルナ。 もう泣き声さえも抑えられなくなっていた。


 人けの少ない街中に虚ろに響く少女の大泣きの聲。


 きっと本人にしか分からない苦しい想いが有るのだろう、と察するルカ。しかし一体何をどうしたらそんなにも心を病めるのか。想像し切れないまでも想う。


 救ってあげたい―――と。


 だが神官から教わったトラウマの地雷。下手をすれば精神崩壊も有りうる事を告げられていたが、本当に他に何もしてあげられないのか。


 いっその事、サイで全ての記憶を覗き見ようかと固唾を呑む。ただそうやって最大の理解者になるのをどれ程の切ない想いで逸らそうとしてくれてたか。


 ―――やはりルカは裏切れなかった。


 今は最大のが唯一の誠意。ルカも胸が張り裂けそうだった。それでも包み込む様な慈愛の眼差しでルナを見つめて寄り添い、思う。



 だからそう、今はただこんな事しか言えない……





 ルカは深く息を吸って、真心を込めて想いを吐露していった。






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