全土の制圧……やってやる!
ルカ、キミが居てくれるなら!
ルカの後押しに応える様に更なる加速で捕縛して、捉えた魔物をポシェットへ。
続々と投げ込まれた者らは、内部では地に落ちる前にノエルのシャボン玉に宙で捕らえられ、森の収容所へとベルトコンベアの様に運ばれて行く。
無我夢中で捕獲に勤しむ中、セイカ喪失直後のレイとの会話を思い出したルナ。
『哀しい顔してるけど負けないで。だってキミの力は俺らよりそれに適してるんだから』
あのレイの言ってくれた励ましはこういう事だったのか、と、滞っていたそれを驚異的に巻き返してゆく。確かにこんな速さで対応できる者など居ない。
光速移動のエマでさえ全動作が早い訳では無い。
〈見分けて、捕縛して、連行〉
となれば日常動作全てが速くないと無理である。
―――取り戻される自信に瞳の輝きが増すルナ。
やがてその加速による空気摩擦で体が燃え光り始める。走り回る光の軌跡が流星の様に尾を引いて、意気揚々と街中を駆け抜ける。
《もう千里眼探索も指示するテレパスさえも追い付かなくなってきたっ、だったらルナッ、あの技、今こそ使おうよ! さあ、行くよ~》
〈サイキック・ユニティーッ!〉
二人の精神合一技が発動。脳内でルカの千里眼の視覚と位置情報がダイレクトに共有。
《うわっ、はははっ、ルカの千里眼ってこ~んなに見えてるんだぁ! 指示なしで索敵出来てロスタイムゼロ! もう超快適~。どんどん見つかるぅ~~~! 》
《どうルナ、遣り甲斐あるでしょ!だってこの活躍で大好きな可愛い子達が安心して暮らせる様になるんだから。
そうだ! 今まで助けたカワイイ子でも想ってジェンダーチェンジでもしてみなよ、そしたらもっと速くなれるかもよ! あ、でもそれじゃ女子にしかなれないか。フフフッ 》
そう言われ、禁句の『カワイイ』に耳がピクリ。
その瞬間浮かんだのはルカの顔。
あれほど落胆していた自分。一人なら未だまだ塞ぎ込んでいただろう。その自分がこんなにも早く前を向けたのは。
感謝と愛しさに瞳が潤んだ途端、想いが溢れてルカの望む逆、男のジェンダーにチェンジする。結果、ルカでさえ度肝を抜かれる異次元のスピードへ。
《ちょ、なっ! なになにルナって男になったらこんなにパワーアップするの~ ?! ケタが違う !! キミ以上にこんな風にこなせる人なんて絶対居ないっ!》
《クスッ、人一倍 物理《フィジカル》重視で転生したボクがここで役立たなかったら意味無いよ! 》
ルカのくれた勇気。
摩擦で
激しく行き交う光と熱気が街中に満ちあふれると、その明滅と
退魔を肌で感じた人々に戻りゆく安堵の表情にルナもつられて迷いが消える。そして全開となるパワー。
《そう……だからルナ、今はただ前だけ向いて突き進め!
キミは
文字通り皆の希望の光に!
ありったけの力で、
行っけぇぇぇ――――――――――っ!》
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――っ!!」
その雄叫びと共に
同時多発に出現するそれは途轍も無く複雑な集積回路を暴走する電気の如く、
それは街全体が強烈に明滅する程だった。
そして……
捕獲が進むにつれ魔物に浸食された国々に蔓延っていた瘴気もその
突如気付く二人。
《あれ? 何かもう魔物が何処にも見つからないよ、ルカ ?!……これがセイカちゃんの言っていた最も望ましい結果……》
《そうだよルナッ!……やった!……遂に……遂にやり遂げたんだよ、これは!》
その瞬間、上空のルカの元へと飛びついて両手を掴み、無邪気に市街の全掃討に喜々とするルナ。
「やった~っ、ありがとうルカッ! キミのお陰だよ! キャハハハハハハハ……」
ルナ、前世での約束……『人助け同盟』
今その大きな目標の一つに届いたんだよ。
良かったね!
私もあの日の約束を果たせて本当に嬉しい!
……でも私、本当はその顔がただ見たくて。
これからも全力で支えるから……
また一緒に頑張ろうね。
宙を舞い狂うルナに猛烈な勢いで引っ張り回され上も下も分からなくなる程振り回される。
「うわっ、ちょっ、ルナ、コラ、わわわ……」
と困り笑いのルカ。
お兄ちゃん、見てた ?!
今度こそ褒めて貰えるよね! だってこれは独りじゃなくて、ちゃんと仲間とやれたんだよ。
スゴイ進歩でしょ?
ねえ、もし褒めて貰えるなら、何かそのサインだけでもいいから見せてほしいな……
その瞬間、『モチロン、自慢の妹だよ……』
そんな優しげな声が頭の中に直接鳴り響いた様な気がした。
えっ ?!
辺りを見回すも、またしても誰もいない。
ちょっと苦笑して空を仰いだルナだった。
* * *
こうして光るチョウバエが、今、魔物の存在する方角、即ち北の戦争の地へと一斉に向かい出した事を各地の監視団が確認。
遂に全市中に潜む一万超に及ぶ魔の者を一旦退治しきった人類。それは百年前でさえ成し得なかった偉業。しかも僅か十日足らずでの制覇だった。
連邦政府から全世界へと発信される撲滅宣言。
それは歴史的快挙だった。
やがて積年の念願達成に戦士達への褒章を望む声が各地から沸き起こる。
「なあ、今戦地で戦ってる人達にも凄く感謝してるが、俺達にしてみれば今この生活がマトモに出来る事がどれだけ嬉しいか」
「そうだ。いつ娘が居なくなるか常に怯え続け、奪われた人達の辛さにもずっと付き合わないといけない、そんな人生に初めて歯止めをかけてくれたんだ」
「おーよ、少しは表彰式かなんかで称えてやってくれよ。街の皆も顔ぐれー見てーって言ってるんだ」
「そうだそうだ! 表彰式の中継を是非頼む~!」
そう、確かに遠くの戦争より身近な事件の方が、より深刻に感じてしまうのは誰もが実体験している事だ。止まらぬ身近な愛すべき人達に降りかかる悲劇の連鎖の終焉。どれだけ待ち望まれていたか。
世界は狂った様に歓喜に包まれた。