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第83話  キミは……私の切り札だ!






 一方、新たな指令にたじろぐ面々。そもそも縦・横・高さが千mという物を改めて眼前で見ると何と巨大な事か、それはもはや一つの大山だ。各々が繰り出す魔法大技でもビクともしない。


 その内スーパーラヴァは火炎触手:プロミネンス攻撃を始める。

 四天星達を寄せ付けず、皆逃げるだけとなって只々途方に暮れる。


 その間、電気系魔法では解体に寄与出来ないと踏んだエマは壊滅状態のサイキック部隊を少しでも救おうと、斬られた十五人をその移動速度で一所へ掻き集め、邪魔して来る魔物たちと闘いながら治癒を始める。



「クッソォ……なんてヒデェ傷なんだ……焼けただれてやがる……」



 レーザーでの損傷は大きく、焼けて消失している部位が大きい者は救えない。また、救えそうな者も魔法治癒に手間取り時間がかかる。


 ルナ達も今出来る事を必死に模索する。


「ねえ、ルカはサイキックが得意、ルカのサイで何とかアブレーション出来ないの?」


 試してみるもファスターの数十分の一程度、


「これじゃ何時間あっても足りない……」


 と項垂れる。四天星達の大技でさえ、どの結果も小さ過ぎる。



 だめだ……せっかくここまで……



 絶望で完全に力が抜けてしまうルナ。

 瞳の光が消え、伏目で虚ろに濁ってゆく。



――― 虐待を受けていた頃の諦めの眼と現実逃避の心に逆戻りとなる。



 やっぱりどの世も不条理だ……

 いい人達バッカリ損をする。

 結局ボクは無力だ……物理フィジカルなんて……

 手も使わず物ひとつ壊して浮かす事も出来ない。

 ボクは何の為にこの世界に来たんだ……



 と、そこへ突然ファスターのテレパスが脳内に飛び込んできた。



《ルナ、この声が聞こえるか?》

《!!…… ファスタ―さん!》


《見ての通り私は今、手が離せない。だがあらゆる事を想定して今まで量子演算智をして来た。そしてこの状況での答えはそう……

 ――― キミだ! キミがやるんだ!》


《えええぇ!……いくら何でもムリです!……だって皆みたいな遠隔から出来ることなんて何も……ボクなんてこの中で一番……無力なんです……》



《いかに魔法力に長けた強者《つわもの》でもこの巨大な魔の塊を私の様にバラすのは厶リだ。

 何十年と練り続けた魔力だから魔法での解体には時間が要る。


 だがキミは今や物理フィジカルステータス60万以上だ。誰にも無い神から与えられし力。


 その移動速度はサイや魔法のそれ、即ち空間を飛ばしての瞬間移動と違い特別な意味を持つ。


 その超高速で実空間移動しても摩擦で燃え尽きず存在を許される熱や衝撃への耐性は、今や隕石の大気圏突入速度にさえ耐える。


 最大倍率で活動を望むキミはあの超溶岩熱にさえもあらがえるはずなんだ。近づいてみろ》



《って……信じろと ?!……くっ……でも……でもあなたが言うならやってみるしか……》


「いくぞっ! 今の全力っ! ステータス最大60万っ!」


 最大倍率で備え、おそるおそる近寄ると格好の餌食とばかりプロミネンスが頭上から襲いかかりルナを勢いよく呑み込む。


 だがその猛攻を難なく片肘で受け止めるルナ。


 損壊はおろか、


「……ホ、ホントだ……火傷すらしない……」



《少しずつでもいい、その|死の鉤爪《リーサルルクロウ》でバラバラにしろ。

 今のキミなら鋼鉄だろうが溶けかけた岩だろうが切り裂ける!

 そして空へと弾きとばせ、後は皆で上空まで運ぶ。

 最後にBROSに宇宙へ吹き飛ばして貰う!

 仲間達がキミを支えるから、信じて全力を尽くせ!


―――こんな窮状を考えて呼んだキミは

        ……私の切り札だ!――――


 分かっての通り3時間以内に全てだ! 演算ではギリギリ間に合うはずだ》




「……でもそんな……こんな巨大な……

    ムリです……

      ボクみたいな劣等種なんかに……」





 眼前の視界の全てを埋め尽くし、尚はみ出す程の巨塊にたじろぐルナ。


 こんな……いくら耐熱が出来たって……

 あんなに巨大なの絶対ムリだ……


 ―――自分の数百億体分を前にそう感じぬ者等いない。


 幼少期から虐待を受けていたルナの目は死にかかり、スーパーラヴァへと吸い込まれてゆく。


 察したファスターは想いを伝意した。


《……ルナ……心配しないで。大丈夫》



 ハッ!……



 ルナの記憶の彼方に焼き付いているその言葉に反射的に浮かぶ懐かしい光景と感触。

 温かい掌が優しく頭に載せられた気がした。


 そして続けるファスター。



《世界が、世の中が不条理だなんて言ってる場合じゃない。

 ――――キミしかいないっ!


 他の仲間の魔力と比べる事なんてないんだ。


    人より劣っててもいい。


 出来る事なんて人それぞれだ。


    神から授かったものしか無い。


 それでも……


 

    こと……

      ……それが人生なんじゃないのか?》



『ルナ…………

    ボクは今出来ることをやり抜いたよ……』




 自らを盾にルナを守りぬき、虐待まみれのルナの人生を命を賭して変えたありし日の兄の言葉。

 包帯だらけの兄を掴んで泣きじゃくったルナ。


『……この恩を返す迄……もう何からも逃げたりしないっ!!』


 そう心に誓った忘れもしない光景が脳裡に浮かぶ。

 最も大切な思い出のひとつ。



 お兄……ちゃん……………………



 心に火が灯り始める。



 ……ボクは弱い自分を女であるせいにしてた。そしてお兄ちゃんみたいに優しくて強い男の人になれたら人生納得できると思った。


 でもそうじゃない。本当になるべきは、あの人の様に……

『最後迄やり抜ける人』だったんだ!

 それこそが求めてた自分には無い漢の強さ。


 だったらお兄ちゃん、

 どうか! 今だけでもその強さを!

 力を……

 ――――貸してください!!



「やりますっっっ! !!」


 と吼えて、大怪物を前にして仁王立ちで構えて睨みつける。


 意を決して想いが溢れると、敵勢あいての望む逆、心身が『おとこのジェンダー』と成ってパワ―のギアが桁違いに飛躍する。


 全霊を身にまとうと眠れる精神力サイすらも開眼、完全に目の色が変わり、全身オーラ発光と共にまさに総毛立つ。


 そして荒ぶる鬼神と化してリミッターが吹っ飛ぶ。



「うおおおおおおおおおおおおおお――――っ、

 うなれっ!  死の鉤爪リーサル・クロウ!」


  〈裂閃ティア―――――――ッ 〉


 天才魔道具師により創られしロッドの柄部から放たれる光のムチ。


 光速のエマさえも切り裂いたそれに加え、端部から繰り出す『死の鉤爪』の超振動を与えての神速のムチの前には巨大な敵も物ともせず触れた瞬間に木っ端みじんへと化す。


 焼けつく炎の溶岩の触手・プロミネンスの熱では倒せないと巨大な大怪物が悟ると、より多くの触手を溶岩ワ―ムへと実体化して喰らい殺そうと巨体から湧出。


 迎え撃つルナは次々とバラバラに散らしてゆく。



 ―――時間との戦いが始まる。







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