王宮の医務室。
そのサイの力でルナを無事完治させたファスター。
寝台に横たわるルナと傍らの兄。
兄は回想から現実へと戻って行く。
当時は知り得ぬ妹の想い迄をもサイによりその記憶から全て読み取りながら。
あの日々の全てを理解した兄。
『助けたつもりがこんなにも大切な人を傷付けていた……』
静かに溜め息をつき、目を瞑る。
その上でその思い出を大切に胸に仕舞いつつ、二人へのサイキック治癒を無事に終わらせた。
だがまだ眠りから目覚めぬルナ。
その夢の中、何を思うかその両頬には、再び幾筋もの涙が伝っていた ―――――
* * *
* *
*
翌早朝。
窓の薄明かり。星々は暁に姿を消して行き、空は次第に青白んでゆく。
静かな病室でスヤスヤと聴こえてくる
その反対側のベッドに存在を感じ、そちらを見るとルナも横になっている。
既に目覚めていたルナは天井を仰いだまま、その視線はぼうっと虚空を見つめている。
「……生きてたね……私達、やり遂げたんだよね?」
「……」
そのルカの声掛けに反応もせず、反対の方へ寝返るルナ。
ヤッパリ怒ってる。
いや、そんなもんじゃない。 パートナー解消さえも……だって、ずっとずっと嫌がってた。
死よりも嫌がってた事をしてしまった……人の気持ちも考えず。
「ルナ……ゴメン」
いくら待っても返事などもう無い。
しかしその謝罪への無視は完全に空気を凍りつかせた。
やり場を失くし物憂げな顔のルカ。どっと押し寄せる後悔に思う。
あれだけ釘を刺されていた。
ルナはこの事だけはきっと許さないだろう。
いっそ守った末、自分は死ねたらよかったのに……
そう渇望してももう遅い。切り出される最後の一言をただ沈痛な面持ちで待つルカ。
と、そこへノックの音。
ファスタ―が入ってくる。二人ともベッドの上で半身を起こした。相変わらずの限りなく優しい眼差しを向けながら労いの言葉をかけて来た。
「二人共、目が覚めたかい。お疲れ様。キミ達は本当によくやってくれた……余りにも偉大な一歩、心から感謝するよ。しばらくはゆっくり休んでいいからね」
その一言で計画が成功裡に終わったと二人共確信した。ルナはこの人には何故か素直になれる。
ある意味当然だが。
その感謝と
「もう大丈夫です。何とかお役に立てたんでしょうか? 何かまた助けられっ放しで……」
「そんな事はない。キミ達がいなければ完全に計画は失敗していた。誰ひとり欠けていても達成出来なかったが……特にキミ達がね」
「……それを言うならファスタ―さんこそです……作戦や指令、防御に攻撃、排除作業と更に代案迄も考えて。一人何役もスゴ過ぎます。それに比べ自分なんか全然……」
「いや、一時キミは諦めかけてしまっていたけれど本当によく持ち直した。あんな巨大なモノをフィジカルだけで根気よく……他の誰にも出来なかった。心から礼を言うよ」
「あの時ファスターさんが励ましてくれなければ出来ませんでした……全然ダメなんです。『今出来る事をやり抜く』 ――― 一番大事にしてた事も満足に出来てなかった」
「だがあの時のキミはそれをやり抜いた。言うほど簡単な事じゃない。それどころかその時はキミの頑張りに
「いえ、ファスターさんに全部支えて貰ったから……自分をおいてでも見ててくれた」
微かに首を横に振るファスター。
僅かに口角を上げて
「――― それでも私の自慢の部下だよ」
まるでいつかの様なやりとり。
温かな手が肩に置かれた。
背中を一気に駆け上がる電撃のようなショックと武者震い。
世の中はやっぱり不条理だ……
だってこれは何かの罰? 試練?………神様は何故このセリフを再たこの人に言わせるの?……
こんなにもあの人に似ている、この優しい眼差しをした、この人に……
ただただ切なくて、その両の目からは声もなく雫が溢れ出していた。
「それでも……」
ひとつだけ分かったことがある。力尽きるまでやり抜けたその理由……。
「誰かのために戦って、生きて、死ぬ……あの時はそう言い聞かせて頑張りました」
「うん……なかなか出来る事じゃない。とても立派だよ」
思わず、クスッ……と苦笑いのルナ。
「カッコつけちゃいましたが、もうサイで読まれちゃってますよね。
そう、これはあるパーティーで共闘した少年少女が『この世界に
その時やっと分かったんです。 ずっと気にしてた言葉を『偶然』聞けて……」
徐々に柔らかくなるルナの表情。
「
それが誇りに思えて……だから自分も……って」
「誇りに………」
どれ程それを待っていたか。
「………キミはもう……そう受け止められるのかい?」
―――再会した日、『助けないで欲しかった』と、昔日の想いにあれほど囚われてたこの子が……
「……出来る自信は……不確かかも知れません。でも少なくとも今は……ただひたむきに約束を貫いてくれたあの人の想いを…………恨むより感謝したい……」
少しうつ向いていた顔を上げて続ける。
「自分も兄の様に悔いなくやり抜いた事で、そういう自分で在りたいと……少しだけ自分を肯定する気になれたのかも知れません。
そしてあの人がしてくれた事も間違ってなかったって、少し思えたんです……」
妹の成長を心の中で密かに喜ぶかのように穏やかに
―――うん、前を向いた今ならきっとこの
……これは救ったつもりの俺の罪……
毒親なんかより、もっと傷つけてしまってた。
それでもズット……
耐えて、頑張って来たんだね。
ルナ……
今まで辛い思いをさせてしまってゴメンな。
でもようやくこれで本当に果たせるんだ―――
『あの日の約束』を。
〈―――だからボクは約束する。ルナの事、絶対に守りきってみせるよ。例え離れ離れになるようなことがあったとしても―――〉
――――だから…………届け!
手かざしもせずその優しげな瞳にサイの力を込める。
ファスターはその強大な異能を尽くし、ありったけのサイ・メンタル