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第94話 あの約束は、嘘じゃなかったんだ






 ルナを導くべく、ただ静かに見つめるファスター。そして。


 その熱い想いを治癒ヒールに変え、ヒビ割れだらけのそれへ注いでゆく。 一層優しい声で、


「いいパーティーとの出会いだったね。でもキミがそんなに大切に思えたなら、それはきっと偶然なんかじゃなかったんだよ」




《……そう、これは『必然』だったんだよ……》

 と、密かに深層意識へとサイで埋込むファスタ―。




 鼻をすすかすれる声で、


「はい」


 と目を細めるルナ。愛しそうにその思い出―――力をくれた少年パーティーのあの言葉を反芻はんすうする。



 《 誰かの為に生きて、死ぬ。だから戦うんだ!》



 なら、この言葉はファスターさんが言うように、何処かで見守ってくれてるお兄ちゃんが、あの少年少女達を通じて伝えてくれてたのカナ……



 遥かなる兄に想いを馳せるルナ。すると何やら目眩のような感覚に捕らわれ、気が付くと心の奥底の世界に佇んでいた。





  : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。. 。.





『助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………』



『意味がない……こんな自分は生きてる意味がない……意味なんて無いんだよ……全て無意味だ……


 ………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………


 赦せない……何もかも……全てが。……何も聞きたくない。何も見たくない。……何もかもどうだっていい。


……この世の全てが壊れれば良いのに……。


 赦せない……何もかも……全てが。……もう何も聞きたく…』




『ルナ……』




『!!』




『その声は!……どこっ?……どこなの!』



『ここだよ』



『お……にぃ……本当にお兄ちゃんなの?!』


『うん、そうだよ』

『お兄ちゃんっ!』


『おいで。こっちだよ』



『もう……行っても……良いの?……』


『うん。今までそんなにボロボロになるまで、よく頑張ったね。だからもう……こっちに来ていいんだよ。治してあげる』



『お兄ちゃん……姿を見せて!』


『それなら明るい方へ進んでご覧』



『あっ!!……お兄ちゃんっ!』


『さぁ、ここから出るんだ』


『けど……』


『じゃあ先に行ってるよ』



『……待って! もう独りにしないで!』


『大丈夫……。ゆっくりおいで。こっちに来れば大丈夫なんだよ。ホラ、だんだん治ってきた』



『そっちに行けば会えるの?』


『いつか必ず逢える。それまでずっと見守るから、信じてこの道を進むんだ』


『ホントに? 約束出来るの? 前の約束は……』


『ルナ。こうして約束通り、見えない所からでも見守ってるんだよ』


『うん……確かにこの異世界でも。だけど……私はあなたを救えなかった……私なんて居る意味がない。ついてく資格もない』


『そんな事ない。それどころかキミがこの世界を救った。希望を繋げた。だからそんな風に自分を棄てないで』


『……』


『ホラ、そんなツライ顔ばかりしてちゃ駄目。ルナはせっかく可愛いんだから』



『かわ……いい……』


『うん。スッゴク可愛いよ』


『!!!!!』



『!!!……………………はぅ……』


『……ぅぅ……く……』


『……ルナ……」



『……ん…………ありが……とう……』



『ありがとう……』



『……うん。やっと笑ったね。ヤッパリその顔が似合うよ』




『……お兄……ちゃん……』




『フフ……。うん。そう、そして誰より頑張ってきた。この異世界でもね。 そんなキミで在ろうとする限り見守り続けるよ。……だから新しい約束をしよう』


『新しい……約束……』


『うん。この世界を救いきれたら、その時は本当に逢えると約束する。それまで信じてこっちに向かい続けて。

 その約束をするか、全て諦めるか、今、キミ自身が選ぶんだ』



『……私は……逢いたい……逢いたいよ!…………でもお兄ちゃんは?!……この世界に来る時、神官が、逢いたがってないって……』


『折角助けたのだから当然だけど、でも逢いたかったんだよ』


『ホントに?』


『うん。さあ、だから涙を拭いて、あの光に向かって……』



『分かった。進むよ……そこにお兄ちゃんが居るなら、絶対に会いに行く。こっちだね。必ず待っててね。 新しい約束だからね』



『もちろんちゃんと待ってるよ。だからルナもこの事を忘れないで。

 いいかい、全ては偶然なんかじゃないからね』



『……うん』




 : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。. 。.




 そして幻覚から戻ったルナに突如、一つの確信が飛び込んで来て、眼を大きく見開いた。



 ……必然……そう! 必然だったんだよ!


 偶然とか試練なんかじゃない! 色んな事を通してどこかで見守ってくれてるサインなんだよ、きっと!


 そう思えた途端、兄との思い出の言葉達にこの世界で何度も遭遇したのは決して偶然ではなかったと確信した。


 そしてそれらが次々と脳裏に巡ると、その瞳に光りが戻ってくる。




   ∙  •  ✶  ✷




  ルナ、心配しないで。大丈夫



  じゃ、お兄ちゃんの為に

     もっと可愛くなったら嬉しい?



  貰ったものはこっちの方が大きいんだよ



  ルナ……ボクは今出来ることを

          やり抜いたよ……



  それでも僕の自慢の妹だよ



  この世界に生まれてきた意味、

       ルナが教えてくれたんだよ





 ✷  ✶  •  ∙  … ☪︎






 ……この世界に来てからやたら思い出の言葉に巡り合わせになって……きっと寂しさからかと思ってた……でもこれって。



 ああ……ずっと、転生してもずっと

 こんなに見守って貰えてたんだ……

 あの約束は、嘘じゃなかったんだ……





『―――だからボクは約束する。ルナの事、絶対に守りきってみせるよ。例え離れ離れになるようなことがあったとしても』




 実は入室時からファスターはその強大な力で〈サイ・精神メンタルヒーリング〉によりボロボロだったルナの心を癒やし続けていたのだ。


 それは隣りにいる高位のサイ使いのルカにさえ気付かれぬ様、穏やかな海の如く、優しく、深く、そっと包み込むように――――。



 そして互いの想いとサイの治癒ヒールがルナの空虚を全て満たし、そして遂に溢れ返った時、二人は同じ幻影を見た。


―――地の底に沈んていた魂が光の手によって優しくすくい上げられる様を。



 それは悠然と天へいざなわれ、あの焦がれ続けた星に達すると満ち足りた様に朝空に消えていった。


 そうしてファスターの心眼で覗き見るルナの中の心象風景…………それはあの荒廃し尽くされたものから美しく晴れ渡る高原の様なものに変わっていた。







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