目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第10話 地下

 カンカンカンと足音を響かせて長い階段を降りるとそこには、扉が1つあった。全員、顔を見合わせ頷くと、鴉飛がギギギギと扉を開けた。そこは、壁一面白く何も無い部屋だった。その部屋の真ん中に神社にいたあの白いロープの男が立っていた。ロープの男は、ドアが開く音にきがついたのか、ゆっくりとこちらを振り返り片頬を上げた。

 「まさかここまで来るとはね」

「来たさ。わざわざきてやったんからだ名乗ってもらわないとな」

 綾人は不敵な笑みを浮かべ男に言い放った。

「名前⋯そうだな⋯水蛭神ひることでも名のるとしようか」

「水蛭神。水蛭神ねぇ。自分で忌みの神を名のるか」

 志鷹は「ふっ」と笑い言うと、水蛭神の顔から笑みが消えた。

「忌みの神だ?我は「日る子」太陽の子だ!尊い「日の御子」だぞ!今の人間界に新しい日を差す神の子だぞ!」

「何が太陽の子だ。人の命を弄びやがって」

 志鷹が言い放つと水蛭神はわなわなと震えした。

 「お前には理解できないのだ!私は⋯私のように何の罪もないのに怒鳴られバカにされ笑われ不当な扱いをする奴らが蔓延る人間あの世界を待っ更にし新しい世界を創るのだ!ただ、普通に生きていた。なのに。なのになぜ⋯なぜ不当な思いをしなくてはならなかった!」

 水蛭神はまるで癇癪を起こした子供のように地団駄を踏み声を荒らげた。

「大したことを並べているが、要はお前はただお前を不等な扱いをした奴らに復讐したいだけなんだな」

「違う!私は皆の幸せを思って!」

 志鷹の言葉に水蛭神はキッと志鷹を睨んた。

「幸せを願うなら人の命をこんな風に扱わないよ」

 綾人は冷たく言い放った。すると、水蛭神は再び笑みを浮かべた。

「命?命だと。どうせこの九泉きゅうせんにいる奴らすでに命なんぞ終わっている。ここは黄泉の国!死んだ者が閻魔様に判決をしてもらうまでの仮の場所だ!そんな奴らを神の私がどう使おうと勝手だろう。私は命を再利用してやったんだ。むしろ感謝されるべきだ!それをお前たちが⋯お前たちが邪魔をしやがって!」

 男の声はみるみる低くなり、その体や両腕両足はブクブクと膨れ筋肉質になりその頭からは角が生えた。

「自分勝手な自論だな。反吐が出る」

 綾人は水蛭神であった鬼を睨みつけ低い声で言うと綾人は刀を抜いた。志鷹は拳銃を抜きかまえた。

「これは天罰なのだよ!私に不当な扱いをした奴らも!お前たちも!」

 水蛭神は綾人に鋭い爪で切りつけたが。横に身を捻ったが、かわしきれず綾人の頬をかすり、そこから血がスーッと流れた。

「大丈夫か?探偵」

「大丈夫です。かすっただけです」

 静かに綾人は志鷹に言うと頬の血を腕で拭った。その時、グラっと地面が揺れ2人の体を揺らした。片膝をつき顔を上げると、地面を殴った水蛭神の前6体の泥人形がゆらゆらと体を揺らしていた。

「志鷹さん、月見里さん、コイツらは僕がひきつけます。その間にお二人は水蛭神を攻撃してください」

 鴉飛はそう言うと、2人の前に立ち泥人形に切りかかった。

「助かります」

「オノレ!邪魔バカリシヤガッテ!」

 水蛭神は鴉飛をその大きな手で捕まえようとした時、「パン!」と乾いた銃声がした。「グワァァァ」と悲鳴をあげ水蛭神は手を抑え、後ずさった。

「お前の相手は俺だろ。こっちを見ろや」

 拳銃をかまえ志鷹は言うともう1発水蛭神の頭にむけて放った。しかし、水蛭神はその弾を手で掴み地面に落とすと、志鷹を腕でなぎ払った、軽々と志鷹の体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

「がはっ!」

「志鷹さん!」

 綾人が振り返り叫ぶが志鷹から返信はない。その時、背中に衝撃が走り地面に叩きつけられた。

「ぐはっ!」

 意識が飛びそうな程の衝撃が体を駆け巡った時、水蛭神の手がギリギリと綾人の首を絞めた。

 (くそっ⋯落ちる)

 意識が飛びそうになった瞬間、再び「パン」と乾いた破裂男がし「グワァァァ」と悲鳴をあげ水蛭神は綾人をほおり投げた。力が入らない体は宙を舞ったが、地面に叩きつけられる前に誰かに抱きとめられた。

「大丈夫ですか?!月見里さん!」

 見れば漆黒の翼を広げた鴉飛が綾人をお姫様抱っこして飛んでいた。

「はい⋯ありがとう⋯ございます」

 ガラガラな声ではあるが綾人が礼を言うと鴉飛はほっとした表情を浮かべた。

「あの人形は全て片付けました。あとは水蛭神あいつだけです」

 鴉飛は志鷹の横に綾人をおろしながら言った。

「月見里さん、これを飲んで」

 降りてきた綾人に甘美瑛は小瓶をわたした。中には透明な液体が入っていた。

「甘美瑛さんの涙です。飲んだら傷が治ります」

「で、あんなバカ体力があるやつどうやって倒す?」

 志鷹も飲んだのか同じ小瓶を甘美瑛に返し口を拭った。

「頭を切り落とすあるいは、頭に弾を当てれば倒せるはずです」

「なかなか難しい注文をする」

 鴉飛の言葉に苦笑いをしながら綾人は言い小瓶の中身を一気に飲み干した。すると、今まで痛った体から痛みがみるみる引いていった。

「そのためには動きを止めるぞ」

 志鷹はそう言うと立ち上がった。

「了解」

 綾人はイタズラっぽく笑うと甘美瑛に小瓶をわさ走り出すと水蛭神の足を切りつけた。「グワァァァ」と水蛭神は悲鳴をあげると、キッと綾人を睨みその大きな手で綾人をなぎ払おうとした。避けられない綾人の表情が強ばったその時、引き裂くような破裂音がしたと同時に、水蛭神は再び悲鳴をあげその手を抑えた。その瞬間、鴉飛がその腕を切り落とした。水蛭神の悲鳴とともに血しぶきが舞った。しかし次の瞬間、水蛭神は飛び上がり壁を蹴り綾人と鴉飛の頭上を飛び越えた。そして、おりたった先には甘美瑛がいた。水蛭神の腹が割れ中から白い手が現れると驚いた顔をする甘美瑛を掴みそのまま飲み込んだ。

「この!」

 志鷹は甘美瑛の腕を掴むとそのまま飲み込まれてしまった。

「甘美瑛さん!」

「志鷹さん!」

 鴉飛と綾人が叫んだ。その時、腹から何かが飛び出した。

「グワァァァ」

 その時、水蛭神は悶えると腹から血を流しはじめ再び腹が割れ中から甘美瑛を抱き抱えた志鷹が転がり落ちた。

「大丈夫ですか?!」

 志鷹と甘美瑛に綾人とが駆け寄ると二人は立ち上がった。

「あぁ。大丈夫だ」

 志鷹は言うと自分についた粘液を気持ち悪そうに顔を顰めながら言い拳銃の弾を詰め替えた。

「僕も大丈夫です。ありがとうございます志鷹さん」

 甘美瑛は言うと志鷹を見た。

「甘美瑛さんの回復が欲しいぐらい疲弊してるんです。あとす⋯!」

 鴉飛が最後まで言い終わる前に、水蛭神は鴉飛を踏みつけた。

「「「鴉飛さん!」」」

 3人が叫んだが、よく見るとその足を刀一本で鴉飛は受け止めていた。

「こんにゃろ!」

 志鷹は「パンパン」と拳銃を発砲したが、ニヤリと笑う水蛭神に手で叩き落とされてしまった。しかし、志鷹はニヤリと笑みを浮かべた。

「王手だ」

 そう呟いた。水蛭神が背後から気配を感じた時には、綾人の刀がその首を切り落としていた。水蛭神の体はその場にバタりと倒れた。

「ははははは。お前ら!いつか後悔する!後悔するぞ!はははははははは」

 切られた水蛭神高の首は高笑いをすると、体ごと灰色になり、やがてまるで砂の山のように脆く崩れ落ちていった。やがてそこには灰色の砂の山ができた。

「やっ⋯た」

 肩で息をする綾人に志鷹は歩みよると笑みを浮かべ綾人を見た。

「お疲れ」

 そう言うと自分の拳を突き出した。綾人も笑みを浮かべると自分の拳をコツンと志鷹の拳に当てた。

 その時、ドドンと音と共に天井からパラパラと細かい破片が落ちてきた。見上げると天井が崩落しはじめていた。

「逃げましょう!」

 鴉飛の言葉を合図に全員、部屋を飛び出し施設の割れた窓から飛び出した。振り返ると今までいた施設は瓦礫の山になった。

「⋯終わりました⋯ね」

「だな」

 ホッとしたような言葉を朝焼けの白い息にのせて綾人が言うと、志鷹は短く返し、志鷹はタバコに火をつけ白い煙を吐いた。

 その時、視界にジジジっとノイズが走り綾人と志鷹は顔をおさえた。そして自分の手をみると透けていることに気づいた。

「おいおい。まさか神殺しの罰とかか?」

 志鷹は自分の手から綾人に視線を向け鴉飛と甘美瑛を見るが、二人は何も起きていない自分の手を見たあとに驚いた顔で二人を見た。志鷹は苦笑いを浮かタバコを吸うとふぅと吐くと鴉飛に持っていた銃をわたした。

「ジタバタしても仕方ないってことか。あとの報告は頼んだ」

「⋯承りました」

 そう言うと鴉飛は志鷹から拳銃を受け取った。

「回復ありがとうございました。本当に助かりました。これお願いします」

 綾人は笑みを浮かべ甘美瑛に刀をわたすと、甘美瑛は泣きそうな顔で頷くと刀を受け取った。

「月見里」

 志鷹に呼ばれ綾人は志鷹に向きに直った。

「色々迷惑かけて悪かった。⋯ありがとうな」

 志鷹は手を差し出した。

「こちらこそありがとうございました。志鷹さんと仕事できてよかったです」

 綾人は笑みを浮かべその手を握った。そのまま二人の体は朝日の中でキラキラと輝きながら透けていきがて、二人の意識も暗転していった。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?