昔、昔のお話です----
この世に魔族の王たるものが現れ、人々を恐怖で支配していました。
このままでは人が滅亡すると思われた時、一人の勇気あるものが現れます。
人類の希望を一身に受けたこの者は途轍もない力を発揮し、魔王を倒しました。
そして人々が幸せに暮らせるこの国イドルム・アドヴェントス王国を建国なさいました。
その後も幾度となく繰り返される魔王の復活。
ですが、その度に勇気あるものが現れて人類を救います。
人々の期待を受けたこの救世主様のことを、『
これがこの国に伝わる神話、逸話ーー
このお話が本当かどうかわかりません。
しかし、今もなお魔王や魔族たちの侵略は繰り返されています。
そんな世の中だからこそ、人々は『
◇
「行ってきまーす!」
「あれ?
今日からだったっけ?
気をつけて仕事するんだよ」
「はーい」
アリサは元気よく家の扉を開けると、母の見送りを背に受けて飛び出していった。
今日から『仕事』のスタートだ。
今までは『養成所』でレッスンと訓練を受けて頑張ってきた。
それが認められて『勇者ギルド』へ登録することがかなった。
アリサが目指す『
まだ始まったばかりだが、この先のことを考えると嬉しくてたまらない。
「よし!
今日も明るく元気よく!
目指せ、『
そうアリサ自身につぶやくと、『勇者ギルド』へと向かっていった。
――『勇者ギルド』アンジュドシエル
ここがアリサの所属するギルドである。
ギルドハウスの前で、一息ついたアリサは、扉をノックして元気よく挨拶をした。
「おはよーございまーす!
今日からお世話になります!
アリサ・ウィルシナです!」
ギルドハウス内に大きな声を響かせる。
「うぃーっす。
朝から元気だな」
奥の背もたれ付きの椅子にどかっと座っている男は手を軽く上げて挨拶をする。
この男はギルドマネージャーのリュウ・ダンボイズ。
過去に『
どこの記録にも残っていないようだが、自身は『やっていた』の一点張りである。
謎ばかりの人物で眉唾物の話ではあるが、実力は折り紙つきである。
アリサたちをスカウトして、このアンジュドシエルを立ち上げた本人である。
アリサも最初にリュウが声をかけてきた時は、詐欺か何かと疑っていた。
だが、リュウの実力を垣間見た際に、本物だと思い、この人の下で『
それ以前に他の『勇者ギルド』からは声がかからなかったと言うのもあるが……
「おっす!
遅せーぞ!
もっと早く来いよ」
ソファに座っている背が高く筋肉質な女性が、荒い言葉でアリサを迎える。
この女性は、ロマリア・ベルナル。
アリサと同時期にこのギルドに入った駆け出しの『勇者』である。
熱いハートの持ち主で、何事にもパワフルに取り組む熱血漢。
周りの面倒見も良く、ここでの姉貴的存在である。
「……おはよう……」
扉が開いた瞬間にちらっとみて挨拶をした小柄な女性。
この女性は、サラ・オルフェリア。
一足先に『勇者』として仕事をしているこのギルドの先輩である。
アイテムや装具や魔装具などに興味があって、昼夜問わず改良をしたり、新アイテムを作ったりしている。
今も、何かしらのアイテムの改造に余念がない。
以前は別のギルドにいたとかいないとかで、そこを追い出されてここに来たという話である。
「これで全員揃ったな」
リュウは3人の顔を見渡して話を始めた。
「まずは、これを渡すぞ」
そう言うと、ブレスレットをアリサとロマリアに手渡した。
「わーっ、これがフェイムオーブですか?」
アリサは喜びのあまりに声が出て、マジマジと眺めている。
「ありがとよ」
ロマリアはぶっきらぼうにお礼を言った。
その様子を見ながらリュウは話を続けた。
「これで、まぁ、一応『勇者』ってことだ。
駆け出しのBランクだがな」
「Bランク?」
アリサはランクのことがわからないのか、不思議そうな顔をする。
「おめー、養成所で習っただろう」
荒げた声でロマリアはアリサに突っかかっていった。
「あっ、あー、なんかありましたねー」
アリサは慌てて取り繕っていた。
「じゃ、おさらいといこうか」
リュウは、この国の『勇者』の仕組みについて話始めた。
ランクはB、ベースメントから始まり、ノービス(N)、ポピュラー(P)、スーパー(S)、アルティメット(U)、レジェンド(L)の6つのランクがある。
最初はみんなベースメントから始まる。
レジェンドは魔王が復活した際に任命される『真の勇者=トップスター』がなれるランクで、アルティメットから選ばれる。
今は魔王が復活してないから、レジェンドは空位となっている。
ランクを上げるためには、ヒーローアクティビティ(通称:ヒロアク)をこなしつつ、
一定の
と言ったような仕組みの細部についてアリサたちに説明をしたのだった。
「
「生中継されるんですね」
アリサはフェイムオーブのついたブレスレットを裏や表の隅々まで見やった。
「『
と言うのが、初代勇者の言葉だからな」
リュウは自慢げな顔で初代勇者の言葉を言う。
「でも、それって初代勇者様の言葉じゃないの?
なんでリュウが自信満々に言うの?」
リュウの態度を不思議に思ったアリサは疑問をぶつける。
「えっと……
それはだな……
まぁ、そんなことは気にするな。
で、このフェイムオーブが……」
リュウは再びこの国での『勇者』の仕組みについて続けた。
フェイムオーブは、民の思いを自分たちの力にかえる魔石を使った装置である。
以前は同じ魔石を持ったもの同士を共鳴させて力に変えていた。
ただ今は装置の改良も進み、ヒロアクキャストTVでの視聴がフェイムオーブを通じて、魔石に送られて、力に変わると言う仕組みになっている。
ちなみにフェイムオーブはランクが上がるとより多く持つことが可能である。
「……という感じだから、しっかりと覚えておけよ」
「はーい」
アリサは元気よく返事をした。
でもいまいち細かい仕組みはわかっていないようだ。
「さてと……
一通り説明もしたし、ここからは『
リュウはアンジュドシエルが請け負った『
いくつかある『
「チェッ、つまんねーな。
薬草採取かよ」
ロマリアはふくれっ面をしながら文句を言う。
「あのなー、これも立派な『
つべこべ文句を言うな!」
不満そうなロマリアにリュウは一喝した。
ロマリアも仕事だとは理解していたが、やっぱり討伐とか派手なことをしたかった。
その思いが口に出てしまったのだが、その余計な一言で周りの空気が変わった気がした。
そのため、ロマリアはわざとおどけて見せてリュウをからかった。
「パワハラだー、パワハラ!
ここの上司はパワハラだー」
「お前なー……」
頭を掻きながらリュウは苦笑いをした。
サラも顔が引きつっていた。
その場に微妙な空気が流れる。
「…………」
みんなが苦笑いをしているなか、アリサは思いっきりの笑顔で言った。
「これが私たちの初『
張り切っていきましょう!」
その一言で雰囲気が変わった。
アリサの前向きな笑顔と言葉で、場の空気が動き出した。
「よっしゃー!
『アンジュドシエル』、出発だ!」
ロマリアが先頭にたち声を上げる。
「おーっ!」
「……おー……」
アリサは元気に拳を上げて答える。
サラは気恥ずかしそうにしながらも、ゆっくりと手を上に上げた。