そこは今日も明るいネオンが光っていた。それはいつだって変わらない。いつの日だって同じ。エロと欲望にまみれたその街は、表側からは俗に裏街と呼ばれていた。その神々しい明かりは神のためのでも、神によるものでもない。ネオンと呼ばれるこれらは、LEDが主流の癖に、燃費の悪い電球の方が明るくてかっこよく見えるから不思議。この裏街では珍しくもなんともなく、寧ろ象徴的な光ですらある。そんなこの街ではどこでも見ることができる光が、今宵は卑猥のためではなく、まだまだ大人の世界の大人になるには早い少年たちのために光っていた。
子供の遊び道具にはみえない程立派な木刀を手にした一人のガキが目を閉じ、意を決して開いて言った。
「チュウカ、今日こそてめえを殺す」
「ケケ。面白い。そうかよ。それは、おもしろいなぁ」
そこは通称エロ通りと呼ばれた、いや、チュウカがそう呼んでいる通りのど真ん中だった。通行人も端に寄って、壁の方へと体を避難させて事の成り行きを見守っていた。一対一。ガキ対ガキの喧嘩。獲物は木刀対短いビニールパイプ。ビニールパイプは先の先端のほうが折れ曲がって、繋ぎ口になっている。
「おい、いつものデカイ剣はどうしたんだよ」
「無くした。どっかに置き忘れんたんだろうな」
デカイ鉄の塊。それは身長を有に超える大きさで、その造形から偽中華包丁と呼ばれていており、それが故に彼のことは、この少年のことはチュウカと呼ばれることが最近は多かった。それをなくした現在、果たして今度はなんて呼ばれるのだろうか。悪魔、獣、イタチ、ネコ、クロネコ、と呼ばれて今はチュウカ。いろんな呼び名が、通り名が彼にはあった。その時その時に合わせて様々な呼ばれ方をしていた。そうやって生きていた。そういう生き方だった。
「まあ、どうでもいいけどよ。やるならやろうぜ、そろそろ。ほら、精々構えろよ。いっちょ前に構えろよ。気張っていこうぜ、……おらっ」
チュウカはそう言うと飛んだ。一回転膝を抱えて宙返りしそして、ビニールパイプを振り下ろした。相手のガキもそれに応戦して、反射的に木刀で攻撃を受けて、流した。チュウカは着地し、低姿勢で走った。ガキが木刀を大振りしたので、それを避けて今度は横に一回転、蹴り飛ばした。
見事に蹴りがクリーンヒットしたガキはヨロヨロとしながら無茶苦茶に木刀を振り回す。しかしそれは空振りばかりで、当たる気配はしない。運動神経の塊、百戦錬磨のこの街最強のチュウカには、はっきり言って無駄な攻撃だった。それが真剣であっても同じだろう。彼にはかすりもしない。ビニールパイプは支えとして、支点として使い、宙をひらり、ひらりと舞うチュウカは攻撃を避けてはそのガキを蹴り続けた。
「もう、終わりかよ。やっぱ面白くなかったな」
ガキはふらふらしながらも地に刀をつけてなんとか立ち上がり、鼻血を拭いて叫んだ。気合を入れるために刀を一度振って、攻撃するために振りかぶって、そのまま突っ込んだ。チュウカは、それを見るとより笑い応戦。ビニールパイプでいとも簡単に木刀を受けとめて遥か上空、空の彼方まで吹き飛ばした。通りのどこかでカラカランと音が鳴った。
チュウカは最後に一回転、一蹴りお見舞い。その本気の一撃でガキの気奪い、卒倒させた。その日も、その夜もただチュウカがこの街でひとり吠えたのだった。