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第9話「ちょっとだけ、さきっぽだけ」

 千里の道も一歩より、なんてのは爺さんがよく言っていた言葉で、お前は一歩が大きすぎるとよく怒られたことを思い出す。


「近道なんて無い、か」

「言うまでもないことだけどな」


 改めて、だろうか。

 どうすれば魔法の腕がより早く磨かれるかっていう問いに対しての答えに、クルスは深く頷いた。


「そう、だよね。近道はない、かぁ」

「あるいは生まれ持った素質や才能のことを近道と言えるのかもしれないけどな。けど、もたらされたものに恵まれたのなら恵まれた分だけ期待値とでも言うのかな、到達点は高くなる。結局は同じことだと思う」


 スタート地点は違っても歩く距離は変わらないものだ。

 寿命にしてもそうだし、剣術の腕だって魔法の腕だって同じ。


 天才が胡坐をかけば秀才に迫られる。

 もちろん、凡人が胡坐をかいたのならどうしようもないけれど。


「とはいえ、だ。使命的な重圧はないにしても俺たちはそんな当たり前を無視して強くならなければならない。となると当たり前の努力を超えなければならないわけだ」

「覚悟はしているとも」

「う、うん。ばっちこーい、だよっ!」

「わふっ! わたしもがんばるですよっ!」


 やる気を示してくれて何よりだ。

 当然極魔の死んで覚えろみたいな訓練をするわけじゃないけれど、気合いとやる気は大事だし。


「これを見てもらっていいか?」

「これって……あ、赤本っ!?」

「ルル? 赤本とはなんだい?」


 まぁクルスは分からなくても仕方ないか。

 驚き過ぎたのかあんぐり口を大きくしたまま固まってしまったルルに変わって説明しましょうかね。


「この国のトップ魔法使いが書いた魔法指南書、みたいなものだよ。極水様なら青本、極風様なら緑本みたいにな。これは赤だから極炎、サマが書いたものだな」

「――えぇと、当然の疑問をぶつけてもいいかい? いいよね? 良いって言ってくれたまえ」

「極水様から預かった。それだけの話だよ、クルス」

「それはそれであり得ないような気がするのだけれども……なんともやっぱりルージュは常識外れが過ぎる」


 突っ込みどころが多すぎて困るのは確かだから何とも言えない。

 だからクルス、その目を止めてくれ。そしてどうか隣のルルに気付けをしてあげて差し上げろ。


 というか預かったも何もまぁ、自分の持ち物なんだよなぁ。

 見込みある魔法使いに渡していいなんて許可はあったけど、エンリに渡そうとしてみたらまだ・・結構ですとか言われてさ、真実赤本は誰の目にも触れられたことないものだ。


 ……あぁいや。


「ルル、ルルー? 気持ちはわかるし俺も預かった時同じことになったからさ、そろそろ戻ってこーい」

「――ふぇ」


 自分で思い直しても中々にありえないなこれ、気持ちはわかるとかウソだよごめんなさい。


「改めて、だけどな。先んじて中身を見せてもらった限り、本物かどうかは判断付かないけど今の俺たちに活用できるものには違いなかったんだ」

「ふむ」

「どれどれ?」

「わふ?」


 身分を隠してって言うのはつらいね、どうも。


 開いたページを見るために三人が顔を寄せてきて――狭い。っていうかユニアはまだ難しい文字読めないだろっての。


「えぇっと?」

「マナ・サーチ? うん? これはいわゆる探知魔法というか、感知魔術のことだよねルージュ。これがどうしたんだい――って、これは……」


 そう、探知魔法だ。

 基本的に自分の周囲へ魔力を散布して周辺の魔力を感じ取るというものではあるが。


 これには一つ応用方法がある。


「こんなこと、可能なのかい?」

「理論上は、としか俺には言えないけど。ここに書かれているってことは、少なくとも極炎様はできるってことだ。不可能じゃないなら、やってみる価値はある……いや、価値しかない」

「で、でも。相手の魔力を感じ取れるなら、感じ取った魔力自体を燃やす、なんて……神技っていうか、すごすぎるっていうか……」


 それなり以上に実力差は必要だが、明らかな格下相手は……まぁうん、俺と戦いになる前に終わる。


「もちろん同じことを、なんて無理だよ。けど、着目すべきは探知や感知技術を磨けば敵対相手に先制攻撃できる可能性が高まる」

「言っている意味はわかる、けれどもねルージュ」


 クルスが何を危惧しているのかはわかる。あぁ、顔を青くしているところを見るにルルもかな。

 こういうところ、想像力が働くという一点を見ても非凡だよね、素晴らしいと思う。


 けれども、ルージュとしてではなく極炎として言えば自惚れるなの一言だったりもする。


「そのあたりは心配しなくていいと思う……まぁ、そうだな。想像だけならあまりピンとこないのも仕方ない。ちょっと、俺相手に試してみようか」

「ため、す……って、えぇっ!? る、ルージュ君っ!?」

「正気かい? 確かにキミの魔法操作技術は僕たちにすれば天上人と言っていいレベルだが……それでも」


 自分で提案しておいてなんだけど、あぁいやこれもレベルが低下しているというのなら仕方ないと納得しておくべきかな。


 見ればユニアでさえも大丈夫ですかと言わんばかりの目で見てきている。

 あまり魔法について詳しくないはずだが、それでも危なそうって言うのはわかるか。


 はぁ、よろしがんす。


「心配しなくていいよ。やり方が記載されていれば、対処の仕方も記載されていたから。そして、まぁそうだな。魔術を磨くってことがどういうことなのか、しっかり体感してみると良いよ」


 エンリに動けと指示をした以上、そんなに時間があるわけじゃない。

 ちょっとくらい、訓練の強度をあげても、構わないよね?

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