部屋から出て行ったエンリを窓から見送って。
「バトルロワイアル、か。懐かしみたいけど、懐かしんだら身体が痛くなってくるや」
学院内で競争を生むなんて発想が真っ先に出てきたのは、間違いなく極魔時代の考えが染みついているからに違いない。
回復魔法を覚える機会からは遠のいてしまうけれど、なんだかんだでまずは最低限以下の現状を何とかするのが先決だろう。
ただ、一つ解決して次の問題に向かってなんて悠長なことをしている時間はない、そんなこと考えれば考えた瞬間に事件は迷宮入り待ったなしだ。
結局、同時に片づけられるならそうするべきで、決着をつけられずとも同時に進行する程度のことはするべきなのだ。
「上手く学院全体を巻き込めたのなら……応手を絞ることは難しくなるはず」
きっかけを与えても違和感のない位置に俺は今いる。
だが、発生した事象に手を加えてコントロールしてしまっては相手の応手が容易になるわけで。
バトルロワイアルをきっかけとして、学院内各所で生まれた波という予測不能要素で本命を隠す。
「今のところはこれしかない、よなぁ……」
当然俺も仲良くバトルロワイアルへ真剣に向き合うなんてことはしない。
というか、真剣に向き合ってはダメだ、極炎だとバレること間違いなしだし、そもそも相手側のレベルが低すぎる。
これを機に、教員や怪しいと思える貴族や学院生をピックアップすることが第一優先目標だ。
「ふぅ……しっかし、バトルロワイアルかぁ」
ベッドに寝転んで懐かしむことなく、かつてを思い出す。
炎にしか適性を持たない変異的魔法使いとして宮廷魔法使いになって、なったと思えば何の間違いか極魔試験に合格して。
同期のエンリからはもの凄い目で睨まれたっけ。七光りを持ってたわけでもないからただただ殺されるんじゃないかってな視線だけで終わったのは幸せと思うべきかどうか。
「社会的に、あるいは魔法使い的には成功を掴んだって話なんだろうけど」
そんな風になんて、一瞬たりとも思う暇はなかった。
今はもう当時という言葉を使うべきかもしれないが、極魔はやっぱり国が誇る魔法使い集団なのだ。
宿舎から一歩出れば誰かに狙われて、飛んできた魔法をレジストするなり回避するなりすれば別の誰かに間を置くことなく狙われる。
極魔に上がりたてってのは一番狙われやすいわけだ、先輩たちより弱いだろうからな。
そうやって上がりたての人間を狩って、自分が極魔の席を奪い取る。それこそが俺の経験してきたバトルロワイアルだ。
そんな集団の中で文字通り生き残るためには誇張なく命がけの日々で、ここで死ぬなら戦争でも死ぬのだから気にするなと言われた時はぞっとしたもんだよ。
「しかも言ってきたのが極風ってのがまたなぁ……う、胃が痛くなってきた」
――いいじゃネェか。戦争中に屍が残らねぇくらいぐちゃぐちゃになって死ぬよりは。
さも極風から当然かのように言われて、周りにいた先輩魔法使い連中は誰も否を唱えなかった。その通りだと頷いてすらいたっけ。
控えめに言っても狂ってる。
でも、極土すらそんな狂気を肯定していた。
――戦争なんて狂ってる人間にしか起こせないからね。
「平和万歳、だよ。本当に」
――戦争という狂気を終わらせるのは正義感でも使命感でもありません、より強く狂っている狂気でしょう。
極水は笑顔で言い切った。
だからこそ、だけど。
戦争が終わった時、最後になるだろう一戦を勝利できた時の皆の笑顔と涙が脳裏に焼き付いている。
同時に、喜びを分かち合いたいと思っていた顔がない悲しさだって。
「もう二度と、戦争なんて起こさせない」
その想いと決意は強くある。
今の平和を手放さない、必ず守り抜く。
「やれやれ、我ながら、なんともだよ」
知らない間に握り込んでいた拳を開けば指先がじんと痺れた。
ほんと、そうするためにも回復魔法を覚えることに集中したいんだけどなぁ。
「ともあれ、なんちゃってバトロワか」
当たり前だが、今の学院生たちにそこまでのモノを求めたりはしない。
ただ何かのために戦おうとするというのは、強さを目指すためのスタートラインだ。
勝ち残り、すなわち勝者がフォルトゥリアの運営権を手にすることが出来るなんて言えばこぞって参加者は集まるだろう。
俺からすれば景品がしょうもなすぎるが、純粋に魔法の腕を磨くよりも顕示欲を磨くことに執心してる奴らには丁度いい。
問題は。
「ルルとクルス、それにユニアと俺で組むか」
バトロワ中の動きやすさを考えればこの組み合わせで動いていくべきだろうな。
ルルとクルスが仮に負けても、俺が負けなきゃそれでいいわけだし……いやいや。
「あー……身分隠すってのは大変だよまったく」
ルルさんとクルスも認められる位には強くなって貰わなきゃ。
まだ企画が通って開催までは少し時間があるだろう、そろそろ詠唱術の研究も終わっただろうし本格的に鍛えていくとしますか。