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第58話 模倣犯は情報収集衛星?(3)

「あら、なんかメール来た」

 四十八願がそのとき気づいた。

「『花子』さんからだけど……誰だろう、花子って。ぜんぜん思い当たりがないけど」

「花子さん? ユーザー名にしてはひどく雑な決め方だなあ」

「迷惑メールじゃない? それにしちゃ雑だなあ」

「でもあれ? 識別子がおかしい」

「何? 識別子って」

「メールの識別に使うデータですよ。普通は見られないんだけど……あれ、ええっ!!」

 四十八願がPCで何か操作しながら驚いている。

「識別子のcreatorのpropertyが0000-sat-03009C_IGS-1Cになってる……これは」

「IGS?」

「多分これ、情報収集衛星本体ですよ。そこから送られてきてる。『花子』さんのメール」

「え、花子って!」

 佐々木が慌てて資料を見せる。

「『初日爆破事件』の主犯は『びっくり男』、副主犯格が『花子』、そして重要関係者が『太郎』と言われてました」

「衛星の『花子』からのメールにもそのほかの名前がありますよ!」

 四十八願は驚いている。

「模倣犯? しかも情報収集衛星が発信源で? なんで? まったくイミがわからん……」

 鷺沢が思案の顔で液晶パネルを見つめる。

「きっと誰かがリモートで操作してるんでしょうね」

 四十八願がさらに操作して調べる。

「誰だろう。それに衛星をいじれても爆弾は直接しかけるしかない。だから誰かがそれを実行犯としてやらないと」

「それとは別に衛星がメールや予告電話の踏み台に?」

「多分そうだろうなあ」

「でも模倣犯なら、そのはじめの『初日爆破事件』の3人に何か関係ありそうだけど」

「今警察でも調べてます。はじめの事件の『ビックリ男』は今、東京拘置所で死刑を待ってる」

「あの事件、死者6人負傷者69人っていう大きな爆破事件だったもんね」

「で、『花子』って呼ばれた女性は?」

「始めの事件だと『ビックリ男』こと学生自治会長・大谷益男を支える副会長だったらしい。名前は高梨詩織。そしてその恋人だったのが『太郎』こと鈴木和秀。太郎はノンポリ、つまり政治的にとくに思想信条はなかったらしいけど、花子との接触でいろいろ複雑だったという。花子は当時学生運動に熱心で、太郎のノンポリぶりにいらだちを隠さない事もあったという。だが事件の爆発で太郎は花子を身を挺して守って負傷し搬送され、その時から花子は行方不明になったそうです」

「じゃあ、今もそのまま?」

「ところが事件から1983年、南米シエラボリス共和国でクーデター事件が発生。激しい銃撃戦があり、邦人にも犠牲者が出た。そしてそのリストの中に花子の名があった。革命家・高梨詩織、として」

「南米で革命家やってたの?」

「わからない。調べても最初の事件後の足取りがはっきりしないのよ。公安部の資料でもそう」

「太郎は?」

「学園紛争が下火になった頃、普通に就職してサラリーマンとして東京郊外に住みはじめ、結婚して2人の子供を得て、そのあと定年を迎え現在に至る。多くの孫にも囲まれていると」

「そうなのか……」

「一人は死刑囚、一人は海外で革命家として射殺され、一人は幸せな老後……」

 四十八願が想像している。

「そういう時代だったんだろうなあ。同じ入学した学生がそのあとそうなっちまうなんて。今からは想像も付かない」

「なんともですよね」

「でもそれと情報衛星がどう繋がるんだろう。しかもその情報衛星を踏み台にしてなんで予告電話かけたりしてるのか。これ、ただの趣味でこんなことやってるとは思えない。なにかもっと大きな理由があるんだろう」

「出来の悪い推理小説じゃないんですからねえ」

「ほんとそうだ、でも、なんか引っかかるんだよなあ」

「なにが」

 佐々木がイヤそうに言う。

「花子さん、本当に死んだのかなあ。たしか南米って政治腐敗もひどいけど報道も腐敗してるような。そういうところで正確な報道を期待できるかなあ」

「まさか、鷺沢さん、花子が生きてる可能性を?」

「そんな気がする。そして何かこの件に関わっているような」

「それ調べるの、私たちですか」

「他に誰がいるのよ」

「そりゃそうだけど、一民間人が国家権力に気軽に捜査オーダーしないでほしい」

「国家権力が民間人に推理頼むのもね」

「はいはい、そこでレベルの低い言い合いしないでください。とくにこの件、まだ真犯人も捕まってないからまだ爆破事件が続く可能性がありますから。ちゃんと調べて犯人を検挙しないと危険ですから」

「だよねえ」

「あとリモートで衛星を踏み台にしている発信源を突き止めないと。多分そこが真犯人に直結してるはずですから。それは私が調べます。鷺沢さんは佐々木さんの捜査の支援お願いします。私はそういうの苦手ですから」

「四十八願はインドア派だもんね」

「外に出て調べ物とかしたい、って思うこともあります。でも私には出来ないので」

 四十八願はちょっと寂しそうに言った。

「そうだよな」

 佐々木も思わず黙ってしまった。

「そうだな。だから、これ終わったらサンライズ出雲、乗ろうな!」

 鷺沢が言う。

「そうですね。私、寝台列車乗るの初めてです」

「佐々木さん、せっかくだからA寝台シングルデラックスにしましょう」

「まあ、そうね……この大きな事件解決したら、それぐらいはいいわよね。私のお財布の話じゃないし」

「そうですよ。あ、そうだ、一緒にみんなで行きません?」

「って、思いっきり何かのフラグですよこれ。危ないですよ!」

「もうね、フラグがビンビンに立っちゃったよね」

「鷺沢さん、下品!」

「キモイ」

「うわっ、ごめんごめん! これだからおっさんは嫌われるんだよなあ」

「もういいです。鷺沢さん、署に行きましょう。石田さんも待ってるし」

「そ、そうだね」


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