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鑑定士ハリエットと失われた記憶の指環
鑑定士ハリエットと失われた記憶の指環
雲井咲穂
ミステリーサスペンス
2025年01月07日
公開日
3.5万字
連載中
誰にも言えない「秘密の力」を抱えるハリエットの骨董店に、謎めいた旅行者アルフレッドが現れる。 彼が購入したのは、姉を殺した犯人に繋がる、唯一の手掛かりだという「オパールの指環」。 とある事情から、彼と共に「本物」のオパールの指環が競売にかけられるオークション会場へと潜入することに。 そこに待ち受けていたのは、美しい指輪に隠された哀しい真実と、過去の忌まわしい記憶だった。 「人の心や記憶を読み取る」能力によって、他人との繋がりに恐れを抱くハリエット。 心に深い傷を抱える青年と共に、指輪を追い求めながら、事件の真相に迫っていく。 果たして、オパールの指環が記憶する真実とは? そして、――二人が選び取った未来とは?  ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 ーーーーーーーーーーーーーー こちらの作品はアルファポリスさん、小説家になろうさんで掲載させていただいております。 誤字脱字文章校正等のチェックを掲載後も随時予告なく行っております。その点をご了承いただけましたら幸いです。

第一章

第1話.夢の中の現実

 ――真っ白な、雪のような。





 ちらちらと降り落ちるのは花びら。


 赤い液体がまるで血潮を振った後のようにあちらこちらに散っている。


 助けを求めて泣きわめく金髪の女性の傍らで、男が倒れていた。


 白い上着の背中に赤い環のようなシミがいくつも浮き出て、音も無く背中全体に広がっていくのが見えた。


 ひれ伏した男の肩口から白い手袋の先へ先へと、鮮やかな緋色の液体が影のように伸びていく。


 背後で上がる、怒声や絶叫。


 淡くピンクを帯びた霧が視界の脇でまき散らされ、耳を劈くような重火器の騒音の合間を縫って、逃げろと訴えていた声がぱたりと消えた。


 余韻を引きずるように火薬の匂いが鼻をかすめる。


 静寂へと向かう空間の中で、ただ唯一、喉を裂くような悲鳴を上げて男の体に縋りついていた女が、突然何かに気づいたようにびくりと体を跳ねさせてこちらを向いた。


 南洋の海色パライバブルーの瞳が恐怖に見開かれる。


「――――!」


 突き出した手の中に冷たい感覚。


 指先一つ。


 続いて、二つ、三つ、四つ。


 金属の軽やかな音が、足元から耳に跳ね返って届く。


 渋れるような感覚が全身に駆け巡る。


 乾いた音が指のその先から聞こえたかと思えば、白い煙が立ち上り、視界から女の顔が消えた。













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