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第41話 入学試験

翌日。


 メルリス魔法学校の入学試験、当日。


 メルリス魔法学校の校門前、二人は準備万端な状態で並んで立っていた。


「ふぁ〜……試験って嫌だな〜」


「はぁ、居眠りするなよ」


「はいはい、にしたって……試験参加者の人数おかしいでしょ。絶対倍率えぐいって……」


 二人の前にも後ろにも長蛇の列が連なっている。前は辛うじて先頭らしき人物が見えるものの、後方に関しては最後尾が見えない。


 なんなら並んでいる物達は種族がごちゃ混ぜだ。


「さすが若者が夢を見て挫折する街だな。元々この国は広い国土を持つ、そんな国のあちこちから集まっているんだ。こうなるのも妥当だろう」


「“若者が夢を見て挫折する街”って、試験前に縁起悪いこと言わないで?」


「ふん」


 だんだんと列が進んでいき、ちょっと時間がかかったが校内に入ることができた。


 入るときに受験者だとわかるよう、バッチが配布された。


 校内は石作りで広く、教室には大小様々なシャンデリアが吊り下げられており、廊下には蝋燭がつけられていた。


 案内されるがままについて行くと試験参加者全員が入るであろう大きな教室、それこそ大学にある講義をする場所のようなところに行きついた。


「広……」


「これ、照明も魔法でやってるな」


 案内人に前から順に座っていくように言われた。席に付くとメガネをかけ、校章の入ったローブを来た二十代くらいの男が入ってくる。


「私は試験官を勤めるザベル・イービズです。今から問題用紙、解答用紙を配ので、そのまま待ていてください」


 ザベルは眉一つ動かすことなく言いきる。杖をふり、「飛べ」の言葉と共にと問題用紙と解答用紙が魔法で浮かび上がり、受験生達の手元に飛んで行く。


 この教師、詠唱を省略した。さすが王国が作った魔法学校に勤めている教師なだけある。


「今から始まるのは筆記試験、科目は基礎の五つと魔法学を会わせた六つです。それから私の自己魔法の効果でカンニング等の不正行為は即刻わかるのでやめるように、もし当たり前のこともできず私の忠告を破る愚か者がいた場合__」


 愚か者って、事実だとしても棘のある言い方するなあ。


「即座に試験を受ける資格を剥奪し、校舎から追い出す」


 ザベル自身が凄んでいること、そして魔力で圧をかけたことにより一部の生徒の顔色が悪くなった。


「それでは、始め」


 ザベルの言葉を皮切りに一斉にペンを走らせる。


 永華はこの世界にもカンニングとかあるんだな、何て能天気なことを考えながら用紙に書かれた問題を解いていた。


 その大半がマッドハッド氏に教えてもらったものでスラスラと解けていく。ただ時折引っかけ問題や明らかにレベルの違う問題が混ざっていた。


 これ、じいさんに教えてもらってなかったら危なかったかもしれない……。


 少し冷や汗をかきつつも、確かに手応えを感じていた。


 用紙が一枚、二枚、三枚と解き終わると次から次にやってきて流れ作業のように終わらせていく。


 用紙は計六枚、全てが終わると紙が裏返り試験官提出するかどうか質問された。


 何度も確認したし、わりと自身があり大丈夫だろうと判断した私は質問にイエスと答えた。


 すると紙飛行機へと勝手に折られていき試験官のもとへと一人で飛んでいった。永華と同じように時間に余裕をもって問題を解き終わったもの達の用紙が紙飛行機となって飛んでいるのがちらほら見える。


 やがて時間終了時間となり、大量の紙飛行機が教室を舞い、教室の天井付近が真っ白になっていた。


 紙飛行機はさっきと同じように試験官のもとに飛んでいき、シワ一つない状態に広がって積み上がっていく。


「ッ!?」


 一瞬だけ試験官と目があった、気がした。


 すぐに紙飛行機に視界を遮られたから本当に目があったかはわからない。もしかしたら気のせいだったのかもしれない。


 しだいに積み上がっていく紙とは別に試験官の手元に用紙が集まっていく。試験官は眉間にシワを寄せ、メガネのブリッジを押し上げる。


「カウラ・キャンティ、シモンズ・ベコンズ、セイメイ・クゼ__」


 試験官がつらつらと名を連ねていく、呼ばれた受験者は顔を青くさせていた。


「全く、嘆かわしい」


 ちょうど、最後の紙飛行機が広がり紙のタワーの上に乗っかった。


「カンニング、魔法での透視、替え玉、その他多数。私はするなと忠告した」


 手元に浮かんでいた解答用紙を乱暴に掴むと魔法で燃やして、放り投げてしまった。


 燃えて放り投げられてしまった答案用紙は魔獣へと姿を変えて、名前を呼ばれた受験者の襟首を掴む。


 不正行為を働いていない受験生は突然出現した魔獣に大半が怯え、ごく一部が目を輝かせたりよだれを垂らしてみていたり奇怪な反応をしていた。


 大半の者が抵抗し、抵抗する者達に大して容赦なく眠ってしまう魔法をかけ学校の敷地の外に放り出してしまった。


「あぁ、いまのは私の使い魔ですので怖がらなくてよろしい。いい忘れてすみません」


 教室内はシンと静まり返っていた。


 そりゃそうなる。


 ザベルは静まり返った受験生達を気にすることなく、教室を出るように指示した。


「私は実践試験の準備があるので、後程」


 ザベルは教室を出てどこかに去っていった。


 指示通りに教室から出ると、そこには教室まで受験者達をつれてきた案内人がいた。案内人について行くと実践試験のために校庭に出された。


「いや、広」


「さっきの教室よりも広くないか、ここ……」


 この学校、敷地どうなってるんだろうか。いくら街の最東端にあるとはいえ、いくらなんでも広すぎる気もする。


 物珍しさからキョロキョロとまわりを見ていると少し奥、校舎の方からザベルがこちらに向かってきていた。その後ろには色々と試験で使うであろう道具を浮かせていた。


「うっわあ……」


「一体なにするんだか……」


 ザベルが運んできた道具の中には的のようなものと箒が見えた。


「うへぇ、的当てと飛行魔法やらなきゃいけないっぽいの最悪。苦手なんですけど……」


「……落ちるなよ?」


「うるさいし、やれるだけやるよ!」


 不得手な魔法が試験の項目にあるとか運が悪いにもほどがある。


 永華がゲンナリしてカルタと話している間にものの配置が終わったらしい。ザベルがまたメガネのブリッジを押し上げた。


「これより、実践試験を行います。苦手であろうが、得意であろうが、最善を尽くすように」


 さっきの会話を聞いていたかのような発言に、永華は思わずスンッと表情をなくす。


「……聞かれてた?」


「……多分な」


 この距離で聞こえるってわりと地獄耳なんじゃないかな……。


 実践試験は順番に行っていくらしい。


 最初の試験はいわゆる的当て。


「魔法に関しては好きなものを使ってください。そして、この的の強度は分厚目の鉄板と同じものです。これを貫くこと、破壊でもよし。これは君たちの魔法を扱う力、正確性、威力等を図る、それが第一の試験です」


 的は一般的な木の板に丸の模様が書かれてる物、どう見たって鉄板ほどの強度があるように見えないが有魔刻印魔法でも使っているのだろう。


 強度は鉄板、材料は木材。


 ……無難に火でも使うか?材料が木だから燃えはすると思うけど、鉄の融点って何度だったっけ……?


「挑戦回数は三回まで、中心に近ければ近いほど高得点。それでは始め!」


 挑戦者が一斉に詠唱をして、様子見というように魔法を発射する。


 種類は様々だが考えることは一緒なのか火属性の魔法が多いように思う。だが燃えはするものの破壊には至れないし、灰になる様子もない。


 その様子を見るに融点は鉄と同じである可能性がある。


 うーん、なるほど。これは篠野部が一番乗りするやつじゃないかな?あいつの自己魔法的にわりと簡単だと思う。


 まわりの受験生を観察してみる。誰も彼も苦戦しているようで、もう既に三回使いきっている受験生が少しだけいるようだ。


 何やってんだ、あいつら。


「さて、私はどうしようかな?」


 恐らく篠野部がとるであろう方法でも良いけど、あれ私に出来るのかな?


 ヒュンッ__


 永華がやろうとしていることが、どうやれば出来るのか考えていると奇っ怪な音がした。


 音のした方向に視線を向けると篠野部が的を射ぬいていた。

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