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第42話 一番乗り

篠野部が的の中心を射ぬいていた。


 穴のまわりが赤く光り熱を持っている。おおかたレーザーで穴を空けたのだろう。


 どうやって的を破壊しようかと頭を捻っていた周囲の受験生達は唖然、開いた口が塞がらないという状態だった。


 無詠唱だったこと、たったの一回で貫いたことで会場はざわつく。


「ですよね〜。篠野部なら一番乗りでやると思ったわ」


 まわりにいた連中の視線が私に向いた気がしたが無視する。


 ザベルが静かにカルタが貫いた的に近づいて貫通していることを確認した後、カルタの前に立つ。


「詠唱をしていなかったようですが、無詠唱で魔法が使えるのですか?それとも自己魔法に一貫ですか?」


「自己魔法の一貫です」


 あっけらかんと答えるカルタにあちこちから驚愕の声が上がる。カルタの言葉にザベルは少し目を見開き、もう一度的を見る。


「なるほど、わかりました。次の試験が始まるまで少し後ろで待機していたください」


「わかりました」


 カルタは指示通りに、少し後ろに下がった。


 いまだまわりはざわつき、カルタに視線が集まっていた。受験生のカルタを見る目は化け物を見るような目だった。


 自己魔法は研究や努力でコツコツ組み上げるがこの世の魔道師。カルタを見る目が化け物を見る目なのは、若くして自己魔法が使える。それが理由だろう。


 まあ、カルタは一切気にした様子はない。


「いつまで騒いでるんですか」


 まさしく鶴の一声、ザベルの言葉でざわつきは収まり各々魔法を放っていく。カルタを見本にしたのか、何人かが的に魔法を当てたが凹みはしても貫通はたったの一人だった。


 面白くもなさそうな、なんともないような顔をして弾丸も目を向くような速度で小さな鉄球を飛ばし貫いた。


 そんな中、永華は我関せずと杖をふらふらと動かし、詠唱をしていた。


「太陽の恵み、降り注ぐ光の柱」


 永華の杖に先に光の粒が集まっていく。ふらつかせていた杖の先端を的に向ける。


「渦巻き、固まり__」


 魔力の出力は低めに設定する。


 じいさんのところで実戦仕様の魔法の訓練をしているときに判明したのだが、何故か私の攻撃魔法は一般的な魔導師の攻撃魔法よりも威力が高い。


 その逆に篠野部の攻撃魔法は一般的な魔導師の攻撃魔法よりも威力が低い。


 じいさん曰く、魔力を使う効率の問題らしい。何かしらのバフやデバフがかかっている可能性が高いといっていた。


 この世界、TRPGのようにバフやデバフが存在するのだ。


「__その熱線で邪の者の一切を灰塵とかせ」


 杖の先に集まった光の固まりを的に向け発射した。


 ヒュン__


 カルタの時と同じ音がなり、光の線が宙を目に見えないスピードで突き進んだ。


「……あ、ずれた。てか威力設定ミスったな」


 永華の前にある的の中心から少し右上、そこに直径六センチ程度の穴が空いていた。予定ならば直径一センチ程度の穴になる予定だった。


 穴の回りは赤く光っており、熱の固まりが的を貫いたのだと物語っていた。


「まあ、外すよりも良いか」


 永華が貫いた的をザベルが確認しに来る。


「貴女も、さっきの子と同じように後ろで待機を」


「は〜い」


「のばすな」


「あ、はい。すみません」


 いつもの調子で返事をしたら少し起こられてしまった。


 シュンとしつつ、大人しく後ろに行く。カルタのとなりに並ぶと、永華は小声で話しかけた。


 小さな鉄球で的を貫いた青年はまわりを気にすることなく、下げているポシェットから紙を取り出してなにかを作っている。


 折り紙なんてずいぶんと久しぶりに見た。


「初手で自己魔法、使ってよかったの?」


「出し惜しみして落ちるより良いだろう」


「それはそうだけど、こういうのって隠し球にしとくもんじゃない?」


「隠し球事態は別にある」


「あ、そうなんだ」


「君こそ使わなくってよかったのか?」


「いや、いま持ってるものの強度で分厚い鉄板は無理があるって」


「そうか。まあ、無難か」


「レーザーなら分厚かろうが鉄だろうが解かせるし。でもあんまり浸透してない魔法なの驚いたよね」


「光というのは実態のない分、どう使うかを想像しにくいんだろう。仕組みだって詳しくわかっていないようだし」


「ふーん。あ、虫眼鏡で燃えるやつと同じことやってる人いる」


 二人が話している間、受験生達は次々と的を貫いていく。


 あるものはドリルのような者で的に穴を空け、あるものは魔法で作り出した複数の氷柱で的を串刺しにしていたり、あるのもは魔法で作った液体をぶつけとかしたり、方法は様々だ。


「殺意高くない?」


「固いから自然と攻撃力高いものになるんだろう。それにしたって、あの薬品なんなんだ?」


 ザベルが時間になったと知らせる。


 的を魔法で貫いた、または壊したのは受験生の四分の一だった。


 ザベルはその場から的を退け、次に用意したは魔方陣が書かれた紙だ。


「なにをするんだ?」


「なんかな予感がする……」


「ただの勘だろ」


「私の勘は野生並みだぞ」


「次に行うのが最後の試験です。状況判断能力、持久力、臨機応変さ等をみます。今からこちらで六人に分けて、各ステージに移動させます」


 “移動させます”?


「行うのは簡単にってしまえば「しっぽ取り鬼ごっこ」です。今回は皆さんが付けているバッチがしっぽのかわりで、一定時間逃げきれば貴方達の勝ちです。時間の確認は時計を見てください」


 バッチ……。あぁ、ここに入る前に胸元に付けておけと言われて渡されたものか。


「鬼を討伐した場合、加点され即“箱庭”から弾き出される。ですが、鬼は模造品とはいえ、ワイバーンですので逃げることを強く推奨します」


 ワイバーンの名が聞こえた瞬間、また受験生が顔色を悪くしてざわついた。


 ワイバーンはドラゴンの一種。ドラゴンの中でも、その強さは下位に位置するが魔獣やモンスターの中では中位に位置する。


 魔獣やモンスターの中でも下位に位置するスライムですら討伐しようとなると一般人は苦労するし、場合によっては死ぬ。


 まあ、そもそもの話し、一般人が魔物に向かっていくことは自殺も同然なのでやるものなんていない。


 そこを踏まえ、ここにいるのは魔法は使えども、ろくに戦闘経験の無い一般人がほとんど。貴族に関しては別の場所で試験を受けるらしいから知らないのだが。


 ワイバーンなんて相手に出来るわけもない、見たこともなければ到底勝てるとも思えない。なんなら逃げきれるとも思えない。強さのレベル的にぶつけるべき相手ではない。


 だからざわつき、青ざめた。


「ワイバーンって、これ逃げきれるかな?私、低空飛行はできても上昇もスピードもでないんだけど……」


「……正直、僕も不安だ。これならマッドハッド氏の人形相手に無限魔法組手してる方がましだ」


「ほんとそれ」


 この試験で大人数が落ちるだろうというのは用意に予想が出来る。


 あぁ、さっきの的当ては六人組を作るためにある程度の実力を図るためだったのか。


「安心してください。鬼であるワイバーンは模造品、こちらで強さを調整していますから無理難題というわけではありません。それから、この試験で負う怪我は試験が終わると自動的になかったことになります。致命傷を思うと自動的にステージから弾き出されます。この場合も怪我はなかったことになります」


 受験者達はあからさまにホッと息をはいた。


 試験が終わると“自動的に怪我はなかったことになる”だ何てどんな魔法を使っているんだか。


「貴方達を飛ばすステージは魔法で作られた異空間、通称“箱庭”。その箱庭を使った試験をメルリス魔法学校では“箱庭試験”と呼んでいます。さて、今から名前を呼ぶものは私の前に」


 続々と受験者達はザベルに呼ばれ、六人一組で魔法で配られた箒を片手に箱庭に飛ばされていく。


 次第に人数は減っていき、最後には永華とカルタを含めた六人が校庭に残っていた。


「最後の一組ですね。エイカ・イヌイ、カルタ・シノノベ、ローレス・レイス、ミュー・レイ、メイメア・ファーレンテイン、ベイノット・アルマック」


鼻歌を歌っている調子の良さそうな男、ローレス・レイス。


 灰色と白い髪の猫の女獣人、ミュー・レイ。


 ゴスロリを着て、ゴスロリチックに飾った熊のぬいぐるみを抱え、頬に鱗が生えている女、メイメア・ファーレンテイン。


 体が大きく、不機嫌そうな男、ベイノット・アルマック。


「では“いってらしゃい”」


 “いってらしゃい”の言葉を合図に魔法が発動して、まわりが光に包まれる。あまりの眩しさに思わず目をつぶる。


「期待してますよ。我が弟妹」


 永華もカルタもザベルの言葉は聞こえなかった。

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