一年後――。
リディは無事に出産を果たした。生まれてきた子は男児だった。
名前はどうしてかすぐには決められず、王子の誕生祭を迎える三ヶ月後の期限までに保留としていた。
やがて生まれた子の目が開く頃、ジェイドとリディは二人揃って顔を見合わせた。
なぜなら、彼の瞳の色が左右で違ったからだ。
「オッドアイだわ……金色と青色」
リディは息を呑む。
その二つの瞳は、まるで広がる青空の中に降り注ぐ朝陽のように見えた。
その美しい双眸を見て、
「リディ」
「ジェイド」
思わずといったふうに二人揃って互いの名を呼んだ。
「仮説だけれど、【世界】について考えていたことがあるの」
「ああ、俺もだ」
チリンと鈴の音が鳴る。
足元には白い猫がいた。
その白い猫は、赤子の方を見てナーと鳴いた。
赤子が弾んだ声を上げると、白い猫も愉しげにまた鳴く。
「名前は決まったわ」
――王子の名は、シメオン。
その名の由来は古くからの言語より『聞く、耳を傾ける』という言葉に派生した響き。
きっと彼ならば、民の声を聴き、思慮深く、話に耳を傾けられる存在になれるだろう。
「いい名だ」
「ええ」
国王夫妻は寄り添い合い、微笑みを交わす。
白い猫はまたナーと鳴く。
赤子は二つの瞳に【世界】を映し、声を上げた。
「気に入ってくれたみたい」
――ああ、感謝するよ。
ボクの【世界】を護ってくれてありがとう。
おかげでこの先も【時間】は続いていく。
この【世界】はこれからも消滅せずに、数多の愛を育み、生き続けることができる。
二人の幸せの未来の先でボクは待っていたんだよ。
しかし。
【世界】は創造主の数だけ存在し、主人公の数だけ【世界】が異なる。
この【世界】もリディ・ヴァレスが選んだ、その最善のひとつに過ぎない。
だが、それに気付き、恐れたとして何になろうか。誰しもがもがき生きる中で、数ある終着点の内、最善のエンドを手探りで探すもの。
――約束するよ。いつかまたこの【世界】に来たる厄災があれば、次はボクが…………【小生】が、あなたたちの【世界】を【護る】者になることを。
(でも、きっと大丈夫だろう。自分たちで選び抜いた【世界】の【真相エンド】にたどり着けた、あなたたちなら……きっと)
~TRUELY BEST END~