「──もしも冒険者よりも稼げて、安全で安定した仕事につけるのであれば、冒険者でなくなっても納得するかも知れないと?」
「その可能性はあるでしょうね。」
安全で安定した稼げる仕事か……。
「そうだわ、私もジョージに聞きたいことがあったのよ。」
「なんですか?」
「新しく家を建てたりお店を始める時には、開店前に必ずやるコボルトの儀式というか、お祭りのようなものがあるのね。それにぜひ参加して欲しいのよ、カイアちゃんに。」
「──カイアに?」
「私たちがドライアド様を崇めているのは知っているでしょう?本来ならドライアド様を囲んでやる儀式なのだけれど、ドライアド様はずっと森の奥に閉じこもってらしたから、今までそれが出来なかったの。」
「でも、先日森の奥から出てらっしゃいましたよね?お願いしてみたらよいのでは?」
「ええ。だから私たちもお願いしたのだけれど、ドライアド様いわく、そこはジョージの店なのだから、ジョージのところにいる子株と一緒にやるほうがよいであろうなとおっしゃって。確かにそれはそうねと思って。」
「ちなみにどんなものなのですか?」
「子どもたちの健全な成長と、豊かな実りを願う儀式でありお祭りだから、8歳以下の子どもたちが踊りを踊るのよ。最後はドライアド様を囲んで、ドライアド様にも踊っていただくの。だからカイアちゃんにも、その踊りを覚えて踊って欲しいのよ。小さい子が踊れる踊りだから、踊り自体はとても簡単よ。」
「カイアに踊り……ですか。──カイア、お前はどうだ?やってみたいか?」
俺はカイアにたずねたが、踊りと言われてそれがどんなものだか想像がつかないのか、カイアは不思議そうな顔をした。
「ひとつ問題があるとすれば、カイアちゃんがまだ人型にはなれないことね。
立って踊る踊りだから。他の子たちが横で支える予定だけど、カイアちゃんは2つの根っこだけで立てるものかしら?」
「やってるところは見たことがないので、やらせてみないとなんとも……。カイア、どうする?試しにやってみるか?」
カイアはそう言われて椅子から降りると、なんとか2本の根っこだけで立とうと背伸びをするも、かなり難しいようだった。
「難しいみたいですね。」
「そうねえ。支えがあったらどうかしら?」
「カイア、お父さんが手を持ってみたらどうかな?ちょっと頑張ってみるか?」
俺はカイアの枝の手を掴んで、ヒョイと持ち上げてみる。ぷるぷるしながらだが、なんとか2本の根っこで立てるようだった。
「立つのがやっとみたいなので、踊りまでは難しいかと思いますね、このぶんでは。」
「ちなみにドライアド様の踊りはこんな感じよ。ちょっとやってみるわね。」
そう言うとアシュリーさんは立ち上がり、両手を真横に水平に伸ばして腰をフリフリしたかと思うと、ゆっくりと後ろを向き、また腰をフリフリした。確かにとても簡単だ。踊りと言うほどのものじゃないな。
「小さい子から順番に踊って、最後にいちばん大きな子どもたちが、ドライアド様と一緒にこの踊りを踊るのよ。簡単でしょう?
大樹が葉を揺らす様子を表しているの。」
横にコボルトの子どもたちがついて、広げた枝を持ってくれて一緒に回ってくれたら、お尻を振るくらいはカイアにも出来るかも知れないな。お遊戯会みたいなものか。
「カイアがやりたくないなら無理しなくてもいいんだぞ?どうする?カイア。」
そう言うと、カイアは俺を見上げてじっと見つめてくると、ピョルル?と言った。
「ん?お父さんはカイアが踊るところを見てみたいと思っているけど、カイアの気持ちが最優先だからな。お前が決めなさい。」
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