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第102話 コボルトからのお願い⑤

「ピョルッ!ピョルルッ!」

「やりたいそうです。」

「そう!それは良かったわ。なら、2本の根っこで立つ練習をしておいてね。それが出来ればあとは簡単だと思うから。」

「よしカイア、ちょっと歩いてみるか?2本の根っこでも怖くなくなるようにしよう。」


 俺はカイアの2本の根っこを俺の足の甲にそれぞれ乗せると、両枝を掴んで持ち上げ、

「イッチニ、イッチニ。」

 カイアを足の上に乗せたまま歩き始めた。カイアが楽しそうにキャッキャッと笑う。

「なにそれ、楽しそうね!」

「俺が子どもの頃に母にやって貰った遊びです。楽しいですよ。」

「私にも出来るかしら。」


「アシュリーさんにも出来ると思いますよ。

 足に乗せて一緒に歩くだけですから。」

「そう、じゃあお願い。」

「え?」

「乗せて歩いてくれるんでしょう?」

「アシュリーさんをですか?てっきりカイアを乗せて歩きたいのかと……。さすがにサイズ的に子ども相手でないと難しいですね。」


 キラキラとした目で俺を見つめてくるアシュリーさんにそう言うと、とてもガッカリした顔をした。無邪気な人だなあ。

「……手を掴むのは難しいので、腰を掴んでもよろしければやってみますか?」

「やってやって!!」

 カイアが空気を読んで俺の足の上からどくと、アシュリーさんが乗ってくる。


 まあ、人間よりは軽いから大丈夫か。

 俺はアシュリーさんの腰を持って、イッチニ、イッチニと、部屋の中を歩き回った。

「なにこれ!楽しい!楽しいわ!」

「……私もやって貰おうかしら。」

「ララさんもですか!?」

 そんなわけで順番待ちをすることになったララさんの後ろに、前足をちょこんと垂らしたアエラキが並んでいるではないか。


「アエラキは小さ過ぎて、俺には逆に難しいぞ?カイアでも結構ギリギリサイズなんだ。

すまないが諦めてくれ。」

 俺が申し訳なさそうに言うと、カイアがピョルルッ!とアエラキに声をかけ、アエラキの後ろ足を根っこの上に乗せて、両枝でアエラキの前足を掴んで、俺の真似っ子をして、イッチニ、イッチニ、とやりだした。


「え、円璃花!」

「はいはい。撮ればいいのね?」

 アシュリーさんを足の上に乗せて歩きながらそう言うと、円璃花が2階にトントンと上がっていき、俺の部屋からデジカメを取って戻って来て、イッチニ、イッチニをしているカイアとアエラキを、写真とムービーにおさめてくれた。……ふう。危ない危ない。可愛い2人の姿を撮り逃がすところだった。


「アシュリーさん、そろそろ代わって下さいよー。私もやりたいです。」

「ええ?もう?」

 そう言いながらアシュリーさんが俺の足の上から降りたので、今度はララさんを足の上に乗せて、イッチニ、イッチニと歩くことになったのだった。


 テーブルの前の椅子に腰掛けながら、早くしてねー、とララさんに声をかけるアシュリーさんは、もう一度これをやって貰うつもりでいるようだった。──そんなに楽しいのか?まあ喜んでくれたなら何よりだが。

 円璃花はそんな2人の様子を見て、フフと笑う。ララさんやアシュリーさんのコボルトの見た目はあまり気にならないようだった。


 それならアシュリーさんは私がやりましょうか?と円璃花が言い出し、俺と円璃花がそれぞれララさんとアシュリーさんを足の上に乗せて、カイアはアエラキを乗せたまま、全員で家の中をえっちらおっちら歩き回るという、なんとも不思議な光景が出来上がった。

 ……別にいいんだが、何してるんだろうな俺は、とちょっと思ったのだった。


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