出勤前の時間じゃないので、お客さまの数こそ少ないが、それを見て受付で値段表を見せて貰ったり、見積もりになると説明を受けるお客さまたちが次々と現れる。
「大切に使っていたんだな。それがとてもよく分かる。すぐにシミ抜きしようとしたあとがある。だが繊維の奥深くに入り込んじまったんだな。すぐに元通りにしてやるから。」
メッペンさんが映像の中で、とても嬉しそうに笑いながら、鞄をキレイにしていく。
「よし、完成だ!
ここまでキレイにするのは、こいつを作った鞄屋にだって出来やしない。
これが生活魔法の力なのさ!」
メッペンさんが満面の笑みで、鞄を差し出してくる映像が、手を伸ばして鞄を受け取るエドモンドさんのお祖母様の姿につながる。
まるで目の前で渡しているかのような演出にしたのだ。涙を流しながら鞄を受け取り、
「まるで主人にいただいた時のままだわ。
大切にしていたのに、汚してしまったの。
まるで、思い出ごと、あの人が帰って来てくれたみたい。本当にありがとう。本当にありがとうね。頼んで良かったわ。」
と言うエドモンドさんのお祖母様。
そしてまた画面が切り替わり、
「すべての大切にされている鞄や衣服は、俺たちが全部引き受けるぜ!絶対どこにも負けないくらいにキレイにしてやるよ!
一生可愛がって貰えるようにな!」
と胸を叩いて笑うメッペンさんの映像に切り替わった。メッペンさんはそれを見て、少し恥ずかしそうに顔を赤くしている。
一応文字テロップも入っているが、文字を読める人が少ないので、これはシャツなんかを出してくる、勤め人の人たちへのアピールだ。フルテロップなことで、ちょっとお金をかけた豪華な映像に見えるのだ。
「生活魔法って、実は凄いんだな。」
「ああ、排水を処理したり、風呂に入らなくて済むってだけなのかと思ってたぜ。」
映像を見た人々が口々にそう言っていて、集まった生活魔法使いの面々は、ちょっと面映ゆそうに、映像を見たり、お客さまを見たり、お互いの顔を見合わせたりしていた。
「あの……、私の鞄も、あんな風にキレイにしていただきたいの。お願い出来るかしら?
お値段は……。」
上品な御婦人が鞄を持ってクリーニング店の受付スタッフと話している。
「はい!おまかせ下さい!鞄などの場合は、汚れの程度によって、お見積りを出させていただきます。まずは1度お預かりいたしますので、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いするわ。」
「お名前をお伺い出来ますか?」
「エリー・パーマーと申します。
ロラン商会、商会長の妻です。」
「いつもお世話になっております。」
受付スタッフが、サラサラとお客さまの名前と、預かったもの、日付、店舗名を2つの木札に記入し、片方を店の控えを保存する箱にしまい、片方をお客さまに手渡した。
「こちら預かり証の木札になります。こちらでもお名前の管理はしておりますが、お探しに時間がかかりますのと、お渡しするのに身分証明書をお持ちいただく場合もありますので、なくさないようご注意下さい。」
「ありがとう、とても楽しみにしているわ。
私の宝物なのよ。」
エリーさんと名乗ったお客さまは、とても嬉しそうに言って木札を受け取った。
「──いかがですか?お客さまの反応を見てみて。これがあなた方の仕事です。」
俺は生活魔法使いの全員に声をかけた。
「……生活魔法使いは誇りある仕事が出来るってとこを、見せてやるよ。」
「ああ!汚れを落とすことなら、誰にも負けない!これは世間から必要とされる、大切な仕事なんだ!俺たちは、すべての生活魔法使いの夢と目標になるんだ!!」
「生活魔法は無駄魔法じゃない!!」
「生活魔法が世界を変えるんだ!!」
「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」
メッペンさんを始めとする、生活魔法使い全員が拳を突き上げる。クリーニング業は素晴らしい仕事なのだと、伝える目的はかなったが、ここは町中で繁華街で店のまん前だ。
町中で騒ぐ彼らを、なんだなんだと通りゆく人々が眺めている。映像に映るメッペンさんに気が付く人たちもチラホラいるようだ。
「みなさん、もう少しお静かに……。」
ああ、すまんすまん、と、興奮し過ぎたことを謝るメッペンさんだった。
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