「……話してくれて構わないわよ。」
とジュリアさんが言った。
「……妻は、ジュリアは、この国の芸術家であれば、誰でも一度は作品にしてみたいと思う、人気の題材役の一人でした。」
題材役……。職業のひとつなのか?
ええとつまり、絵のモデルさんをしていたってことかな?確かに、頭の包帯こそ気になるものの、とんでもなく美人だな。
描いてみたいと思う画家は多そうだ。
「……当然人前で素肌をさらすこともありますが、あくまで芸術の為です。ですが、それを見下す人間がいるのも、生活の為に貴族の世話になる題材役がいるのも事実です。」
なるほど、偏見を持たれることもあり、実際にそうする人たちもいる職業なのか。
「あの男は以前から、妻に迫っていたのですが、私と結婚したことで、今度は私を受賞させたければ、自分のもとに来いと脅しをかけてきました。芸術大賞を受賞していない作家は絵に価値が付きません。それで……。」
エリックさんは膝の上に置いた拳に、グッと力を入れて握りしめた。
「エリックさんをわざと、大賞から外していたということなんですね。」
「はい。ですが、今回特別賞をいただけたことで、ようやくあの男を見返すことが出来ました。妻には貧乏生活をさせてしまいましたが、これからは立派に絵師を名乗れます。」
エリックさんは誇らしげにそう言い、ジュリアさんも嬉しそうに目を細めている。
「エリックさんが芸術大賞の特別賞を受賞されたことは、当然分かっているんですよね?
……それなのに、まだしつこくするということは、奥さんを無理やり、さらうつもりだったのかも知れませんね。」
「そうですね。これからは、あまり1人で外出させないようにするしかないかも知れません。芸術大賞をたてにすることが出来なくなったわけですし、何をしてくるか……。」
エリックさんがそう言ってうなだれ、ジュリアさんも不安げに目線を落とした。
「今日、誘っていただけて良かったです。
お2人にこちらを差し上げますので、よろしければ日々持ち歩いて下さい。
お2人の身を守ってくれますよ。」
俺はそう言って、以前作った魔法陣の描かれた紙を2人に3枚手渡した。
「これは……?」
「先代の聖女様が、魔法スキルのない人でも魔法を使えるようにと、発行された本を手に入れましてね。それをもとに作った魔法陣をしるした、聖水で清められた紙です。」
「聖女様の……?」
「1枚は自宅用です。うちも家の柱に貼っていますよ。アスピダ!と唱えてみて下さい。
守りの魔法陣が常時発動します。」
エリックさんとジュリアさんは、お互い顔を見合わせた後で、エリックさんが魔法陣のひとつを壁に釘で打ち付けた。
「「アスピダ!」」と2人が声を揃えて唱えると、魔法陣が光り、魔法が発動する。
その光に驚いて、横に腰かけていたジュリアさんがエリックさんのそばに近寄ると、肩に手を触れて、こわごわとした表情をする。
「これで奥様も自由に外を出歩けますよ。
魔法陣が守ってくれます。ただし実際に攻撃を受けた場合、魔法陣の大きさと、作成した人の魔力量にもよりますが、守ってくれる日数は最低1日です。その間に攻撃してきた相手から距離を取って下さいね。」
「じゅうぶんです、ありがとうございます。
──肌見離さず持っているんだよ。」
エリックさんはそう言って、ジュリアさんの手に手を重ねて微笑んだ。このままおさまるとは思えないことが不安だった俺は、何かあったら知らせて下さいと、2人にミーティアを何枚か手渡したのだった。
「──先ほどから気になっていたのですが、奥様が頭に怪我をなさっているようですね。
俺はポーションを持っていますので、よろしければ奥様にこれを……。」
俺がそう言って、エリックさんにポーションを差し出すと、エリックさんは首を振ってポーションを断ってきた。
「いえ、だいじょうぶです。ありがとうございます。エリクサーでなければ病気には効かないと言われましたが、万が一にもと思い、実は既に一度試したことがあるのです。
……妻のこれは、怪我ではなく、病気によるものなのです。」
と言ったのだった。
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