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第140話 チャーリー・ストークス伯爵②

「妻から手を離せ。」

 エリックさんは、頭に包帯を巻いた女性の手首を掴んで家から引きずり出そうとしていた、白髪の紳士の手首を掴んで力を込めた。

「伯爵たる私の体に、気軽に触れるな。

 オークス。」


「うあっ!?」

「エリック!!」

 オークスと呼ばれた白髪の──もう紳士と呼ぶべき相手じゃないな──伯爵の従僕が、エリックさんの手首を摑んでねじりあげる。

「うっ!?」


「──乱暴は、よくないですよ。」

 伯爵の従僕がエリックさんを殴ろうと、エリックさんの手首から手を離した瞬間、俺は素早く伯爵の従僕に近付くと、利き手である右手の袖を左手で摑んで引っ張り、右手で襟首を掴んでエリックさんから引き剥がした。


「なんだ、お前は……!」

 伯爵の従僕が俺を睨んだが、こうすると、簡単にはこちらを殴れなくなるんだ。俺に動きをぬいとめられて、振りほどこうともがいていたが、俺の手ははずれない。


「お前、俺に逆らって、どうなるか分かってんのか。この方はチャーリー・ストークス伯爵で、俺は元Cランク冒険者なんだぞ?」

「そうか。ああ、ちなみに俺は男爵で、現役Aランク冒険者だ。」


「エエッ!?」

 男のAランク、と言いたかったのであろう言葉が、俺に放り投げられて地面に叩きつけられたことで、裏返って変なイントネーションで、驚きの声を発したかのようになった。


「男爵だと……?」

 チャーリー・ストークス伯爵は、俺の体を上から下までジロリと眺めると、恐らく俺の服装や持ち物で判断したのだろう、

「ふん、成り上がりが。」

 と、見下した目線で言った。


「初対面でそこまで褒めていただけるとは。とても光栄ですよ。ええ。ほんの一握りの人間にしか出来ないことだと思っています。」

 俺は、ハハハハ、と笑った。

「なんだと?」

 ストークス伯爵がジロリと俺を睨む。


「男と生まれたからには、誰かの敷いた道を歩くよりも、自分で道を作りたいものです。

 だってそうでしょう?

 0から1を生み出し、1を100にすることが出来る、成り上がれる男こそが、この世で1番格好いいですからね。」


 昔、とあるミュージシャンが、自身を成り上がりと称した書籍を出した。あなたが使うことで、成り上がりはこの世で最もカッコいい言葉の1つとなり、俺も成り上がりてえと若者に思わせることだろう、とミュージシャンに告げた編集者の意図通り、俺は成り上がりをカッコいいことの1つだと思ってる。


「──羨ましいですか?成り上がることの出来る、我々の才能が。親から受け継いだ血と財産だけで、その立場を手に入れただけのあなたでは、もしも俺と同じ境遇に生まれた場合、自分じゃ何ひとつ生み出すことも、育てることも出来ないでしょうからね。」


 エリックさんが心の底から、ストークス伯爵を見下しているのがわかったのだろう、伯爵は見る見るうちに顔を真っ赤にした。

「私はこの国の芸術大賞の最高顧問だぞ!

 ──エリック・ヒューストン!私に逆らえばどうなるか、分かっているんだろうな!」


 エリックさんは、可哀想なものを見る目でストークス伯爵を見下すと、

「私の絵は既に王族に評価いただきました。

 あなたに価値をつけていただかなくとも、私の絵の価値は変わりません。妻を差し出すつもりもない。帰っていただけませんか。」


 やり返したくとも、肝心の護衛は地面に叩きつけられていて、目の前には貴族を恐れない若い男性が2人。おまけにそのうちの1人はAランク冒険者。鍛えているとは思えない体のストークス伯爵が勝てる相手ではない。


 ストークス伯爵は、歯噛みしながらしばらくエリックさんを睨んでいたが、

「ジュリア!!!!!お前は必ず私のもとに来ることになるんだ!覚えておけ!」

 と叫び、慌てて地面から起きて追いかける従僕に、声もかけずに去って行った。


「すみません、変なところをお見せしてしまって……。どうぞ、中へ。」

 エリックさんはそう言って、家の中へと案内してくれた。

「あれが、例の芸術大賞関係者ですか。」


 奥さんのジュリアさんが出してくれたお茶を一口飲んでそうたずねる。

「ええ。お察しのとおり、そのうちの1人といいますか、代表のような人間です。」

「……なぜ彼は、奥さんを?」

 エリックさんはジュリアさんをちらりと見ると、話しにくそうにうなだれた。


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