「ヒューストンさんは……。」
「どうぞ、エリックで。私もジョージさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。その、エリックさんは、絵で勲章を受賞されたのですか?凄いですね。
かなりの実績がおありなんですね。」
そう言うと、エリックさんは、少し困ったような眉を下げた表情で俺を見ると、
「私は勲章を授与されるわけではなく、芸術大賞の特別賞をいただきまして。それでこちらに呼んでいただいたのです。」
と言った。
「そうだったのですか。」
なにかまずいことを言ったかな。あまり楽しいことを聞かれた雰囲気じゃない。
「ジョージさんは、この国の芸術大賞について、あまりお詳しくはないようですね。」
「はい、この国出身ではないので……。」
「……この国には、年に一度、優れた芸術を評価する、芸術大賞があるのですが、そこに選ばれる人は予め決まっているのです。力のある貴族、美術館の評価員たちによって選ばれた人しか、受賞することが出来ません。」
「ああ……。」
「そこで、王族たちによる、特別賞がもうけられているのです。大賞は決まっているのですが、特別賞は我々にも可能性があるものです。そこに選んでいただくと、大賞受賞者とともに、勲章授与式で発表されるのです。
そこに選んでいただいて、ここに。」
なるほど、王族と貴族が一堂に集まる機会だから、勲章授与式と同時におこなわれているんだな。それにしても、この世界の芸術も日本と同じなんだな。力のある人に気に入られないと、受賞出来ない賞もあると聞く。美術業界自体にあまりいいイメージはないな。
美術業界において、学生や若手作家の立場は弱いのだそうだ。付き合いが絶たれることを恐れて、酷い扱いをされても、美術館に強く出れない大学側、作品購入やギャラリーとの関係性悪化を持ち出して、作家を脅迫したり、女性作家に関係を迫る顧客、などなど。
この国の美術業界もそうだということか。
もしも王族でも簡単に手出し出来ずに、芸術家たちを正しく評価する為に、王族選出の特別賞を、わざわざ別にもうけているのだとしたら、美術業界のトップにいる人たちは、この国で力のある貴族なのかも知れないな。
「……そうだったのですね。あなたのような方が、正しく評価されて良かった。」
俺がそう言うと、エリックさんは少し目を見開いた後で、
「……ありがとうございます。」
と嬉しそうに微笑んだ。
その後、授与式のしきたりなどを教わり、全員で手順を練習して、解散となった後、エリックさんから、よかったらうちに来てお茶をしませんか?とお誘いをいただいた。
もう少しエリックさんとお話してみたかった俺は、喜んでその誘いを受けたのだった。
王宮が出してくれた馬車で、エリックさんの家の近くまで行くと、何やら男女が揉めているような声が、こちらまで聞こえて来た。
「帰って下さい……!夫ならいません!」
「用事があるのはお前にだ。わかっているだろう。素直にここを開けなさい!」
杖をついた白髪の紳士がそう声を張り上げている。紳士の従僕なのだろう若い男性が、無理やりドアを押して開けようとしている。
従僕は従者以上、執事未満で、貴族について歩く立場の人間で、護衛を兼ねることもある。それを、頭に包帯を巻いた女性が、中から押し戻そうと格闘しているではないか。
「お前のような容姿の女は、いずれ夫に捨てられるだろう。だったらその前に、愛しい夫の役に立とうとは思わんのかね。私なら、お前のような女でも可愛がってやれるのだ。」
貴族らしき白髪の紳士は、ニヤニヤとしながら、女性を侮蔑する言葉を吐いていた。
「──おろしてください。」
「エリックさん、まだ馬車は走っていて、」 「とめてくれ!!」
困惑する俺の静止の言葉も聞かず、エリックさんが御者に向かって叫んだが、御者は、え?え?と困惑した声をあげて少し振り返ったが、馬車を止めようとはしなかった。
「──エリックさん!!」
エリックさんが、走る馬車の扉を開けて、馬車から飛び降りて走って行った。のんびり走っていたとはいえ、動いている馬車から飛び降りるなんて。馬車がようやく止まったので、俺は慌ててエリックさんを追いかける。
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