「そういう意見もあったのですがね、聖女様たっての希望が、我が国に身を寄せることでしたので。ノインセシア王国が聖女様に失礼な扱いをし、結果聖女様のお体を衰弱させてしまったのは重大な失態です。聖女様のお心を慰める為にも、そのご希望に従おうということになりました。これからはバスロワ王国の王宮住まいということになりますね。」
「そうでしたか……。それは良かったです。
彼女も喜ぶことと思います。」
この国にいるなら、王宮住まいとはいえ、会える機会もあるだろうからな。
「そこで今回の表彰会において、聖女様にご参加いただき、聖女様の降臨を公表する予定です。国の大半の貴族が来る機会ですので、ちょうどいいですからね。国民全体には正式に後日お触れを出しますが、先に貴族に発表しませんと、色々とうるさいのでね。」
なるほどな。俺たちの叙爵は予定外のことだが、本来は功績をあげた平民を、貴族の前で表彰し、貴族と王族がともに称えるイベントということか。
「それはいいですね。
彼女は表彰会も見られるのでしょうか?」
「ご希望であれば。」
「ぜひ席を用意してやって下さい。外に出られないので、鬱屈しているようですので。
パーティクル公爵家の温泉に行かれるのを何より楽しみにしているくらいです。」
「わかりました。ではそのように。
それではそろそろ、ジョージさんも行きましょうか。皆さんにご紹介します。」
サミュエル宰相は、他に人がいないので、俺をいつものようにジョージ呼びしてきた。
さすがに少しだけ親しくさせていただいているとはいえ、対外的にはファーストネーム呼びは難しいんだろうな。妹のセレス様だって、王女のパトリシア様だって、人前じゃ兄や父親を国王陛下呼びしているものな。
サミュエル宰相と護衛の人とともに、両脇に金の房がついた赤い絨毯の上を歩いてすすむと、大きな扉の前に案内された。
「ここから先は、中の者がご案内いたしますので。では、私はここで。」
サミュエル宰相がそう言って去っていく。
護衛の人が入口の兵士に声をかけると、重々しい扉をあけてくれ、中にメッペンさんを始めとする、何人かの人たちがいた。
これで全員です、と、案内してくれた護衛の人が、中の書類の束を抱えたメガネ姿の女性に告げ、女性がチラリとこちらを見る。
外向きの緩やかなパーマのかかったボブヘアの、少し色の濃いプラチナブロンド。アイドルに変身する、いつもパーカーのフードの中に、2匹の猫を入れて連れ歩いていた、昔の女児向けアニメの魔法少女の髪型をした彼女は、確かグレイスさんという筈だ。
初対面時に宮廷魔術師だと聞いた筈だが、宮廷魔術師がなぜここに?こういったイベントの運営管理者の立場も兼務してるのかな。
グレイスさんが俺のことを皆に紹介してくれると、1人の若い男性が笑顔で近寄って来た。肩にかかる少し長めの茶色の髪に、髪色よりも濃い茶色のスーツを身に付けている。
胸元に白いジャボがあるタイプのシャツを着ていた。ジャボというのは、薄い生地のヒラヒラとした末広がりのヒダというか、襟から胸にかけての飾りのついた襟の形の呼び名で、ジャボはその飾りそのものをさす。
もともとは17世紀頃に作られた、男性のシャツの胸元に付けられた胸飾りなんだが、現代だと女性しか身に着けないデザインだ。
「良かった、年齢の近い方もいらっしゃるんですね。皆さん年上ばかりで、緊張していました。私はエリック・ヒューストンと言います。しがない絵描きをやっています。」
「ジョージ・エイトです。冒険者と工房を営んでいます。どうぞよろしく。」
「こちらこそ。」
確かにエリックさんくらい若い人は、この場に俺くらいしか見当たらなかった。勲章を授与されるくらいだから、ある程度の年齢なのは仕方がないだろうな。
それにしても、絵描きで勲章って凄いな、よほどの賞でも受賞したんだろうか?
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