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第144話 聖女様の演説④

 後日、エリックさんの個展が開かれるというので、俺はそこにやって来た。

「なんだ……?これは……。」

 画廊の入口でエリックさんと別の男性が、入口にばら撒かれたゴミを片付けていた。

「あ、ジョージさん。」


「……どうされたんですか?」

「ええ、まあ。ちょっと。」

 エリックさんは苦笑いを浮かべた。

「昨日は貰った祝いの花を荒らされたんですよ、それで俺が護衛を名乗り出たんです。」

 その場で見ていたという男性は、自身をCランクの冒険者であると名乗った。


 どうやら俺が来るまでに、一悶着あったらしい。俺が贈った花が入口に飾られていなかったのは、そういうことだったのか。周囲の人々が、遠巻きにその様子を見守っていた。

「そうでしたか……。」

 酷いことをする人間がいるものだ。


 せっかくお花をいただいたのに、飾れなくてすみません、とエリックさんに謝られてしまった。目立つ花なんか贈ったせいで、攻撃の対象にされてしまったのかも知れない。

 だがそのおかげで、エリックさん自身から目がそれたのであれば、花は役に立ったということだと思います、と伝えたら、ようやくホッとしてくれたようだった。


 あれからストークス伯爵と、司会をしていたターナー伯爵は、爵位を剥奪され、国外追放になったとエドモンドさんから聞いた。

 ターナー伯爵も、芸術大賞の審査員の一人だったらしく、芸術家の間では知らぬ者のない有名な貴族とのことだった。


 他にも芸術大賞に関わっていた、あの場でジュリアさんをからかって笑っていた貴族たちが、爵位の剥奪とまではいかなかったものの、かなりの締め付けを受けているようだ、とも聞いている。直接的な被害を目の当たりにしていないから、奴らはそこが限界だろうな、とエドモンドさんが言っていた。


 それをエリックさんのせいだと思った、貴族の嫌がらせだろうか。聖女様である円璃花には、意趣返ししたくとも、王族に守られて手出しが出来ないどころか、直接何かをした日には、自分たちもストークス伯爵とターナー伯爵と同じ目に合うだろうからな。


 手が出しやすいエリックさんを、嫌がらせの対象に定めたのだろう。

 どうにか犯人を見つけないと、また同じことが起きる可能性は高いだろうな。

 だが、あの日あれだけ円璃花が、他者をわざと攻撃する人間は内側に瘴気だまりを抱えていて、そういう人間がいると、それが他者に影響を及ぼすのだと話した筈なんだがな。


 まるで理解出来ていなかったらしい。見えないから、実感がわかないのかも知れんが。

 ……さて、どうしたものか。

「絵を見に来て下さったんですか?

 ありがとうございます。ゆっくりどうぞ。

 私はもう少し入口を片付けていますので、お構い出来ませんが。」


「分かりました、ありがとうございます。」

 そう言って中に入る。あまり広くない画廊の壁に、たくさんの絵が飾られていた。

「これは……。」

 小さな絵はそのすべてが。少し大き目の絵にも、売約済みと書かれた木札が、絵の下の壁から突き出た釘にぶら下がっていた。


 芸術大賞の授与者は、貴族の間でしか知られないものだと、エリックさんから話のついでに聞いていた。特に告知をするような技術も手段もない世界なのだそうだ。王家からのお触れがある時は、伝聞担当者がそれぞれの地域で直接口頭で周知する仕組みらしい。

 何せ新聞もないのだと言う。

 まあ、紙自体が高いということもあるが。


 だが、元々絵を買うのは貴族だけ。平民は当然そんなお金を持っていない人が大半で、貴族と関わりのある豪商が買うくらいなのだとのこと。だから、平民で知っているのは、芸術大賞を目指す、絵師などの芸術家たちに限られる。彼らは今回の騒動を、当然知っていることだろう。同じように芸術大賞の利権を握る貴族に、苦しめられてきた人たちだ。


 そんなたくさんの人たちが、彼の絵の素晴らしさに気が付き、また、彼を支持する為に購入したのだろう。俺は胸が熱くなった。

「おお、ジョージ、来てたのか。」

「エドモンドさん。」

 後ろから肩を叩かれて振り返ると、エドモンドさんが立っていた。


「ちょっと絵が買いたくなってな。

 来てみたよ。……うん。凄くいいな。」

 エドモンドさんはじっくりと絵を見て回りながら、正面の中央に飾られた、一番大きな絵の前で立ち止まる。5分も眺めていただろうか。そして入口に戻ってゆくと、

「……すみません、ここに飾られているこの絵を、購入したいのですが。」

 と、外のエリックさんに声をかけた。


「ええっ!?この絵は1番大きくて高いもので、大金貨3枚にしているのですが……。」

「ええ。ぜひこの絵が欲しいのです。

 次の作品も拝見したいのですが、完成次第知らせていただくことは可能でしょうか?」

 と、魔法の速達用の手紙、ミーティアを差し出した。エリックさんはミーティアを手にしたまま、驚いた表情でエドモンドさんを見つめていた。


 画廊の表の散らかされたゴミの掃除が終わり、遠巻きに見ていた人たちが、一人、また一人と画廊の中へと吸い込まれてくる。

 俺が絵を予約して帰る頃には、すべての絵に売約済の札がかかり、次の作品が出来たら知らせて欲しいと、エリックさんにミーティアを押し付ける人々の姿があったのだった。


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