カイアがジュリアさんに枝をかざし、まばゆい光があたりを包みこんだ。──のだが。
「ピョル……。」
カイアがしょんぼりした表情で、俺を振り返る。どうやら無理だったようだ。
「無理だったか……。すみません、期待させてしまったのに、このような結果で……。」
「いえ!とんでもないです!」
「嬉しかったですよ!」
エリックさんとジュリアさんが、身振り手振りでそれを伝えてくれる。
「ピョル!ピョ……、ピョル……。」
「なにをしてるんだ?カイア。」
カイアは枝の手を頭に伸ばして、何やらモゾモゾやっていたのだが、思ったようにうまく出来なかったのか、困ったような表情で、俺をじっと見つめてきた。──はて?
俺はじっとカイアを観察した。
「ひょっとして、頭のそれを取りたいのか?
お姉さんにあげる為に?」
「ピョル!!」
カイアがモゾモゾやっていたのは、頭の枝に最近ついた若芽を取ろうとしてのことだったのだ。──そうか!
「エリックさん、ジュリアさん、この子はドライアドなんですが、ドライアドの若芽と実は、万病の薬と言われているのです。」
「ドライアド?あの、植物の中の精霊王と言われる、ドライアドですか?」
「はい、この子がそのドライアドの子株なのですが、万病に効くという若芽を、ジュリアさんにあげたいようなんです。
──よく覚えていたな!カイア。」
カイアが嬉しそうに微笑んだ。
俺はカイアの頭から、そっと、出来るだけ痛くないように、若芽を取り外した。
「痛くなかったか?」
若芽は軽く取れるとはいえ、木からすれば枝を切ったりされるのは、痛い筈だからな。
「ピョル。」
とカイアが答える。
どうやらだいじょうぶだったらしい。
「飲んでみていただけますか?」
俺は軽く洗ったカイアの若芽を、皿に乗せてジュリアさんの前に差し出した。
「せっかくのカイアちゃんの好意ですもの。
飲んでみます……。」
ジュリアさんは恐る恐る若芽を口にして、ゆっくりと咀嚼をした。
「思ったよりも苦くないですね。ほろ苦いくらいで、むしろ美味しいかも……。」
そう言うジュリアさんの体が、突如として発光し、黄緑色の光に包まれた。
「ジュリア!?」
エリックさんが驚いて椅子から腰を浮かしたが、だいじょうぶよ、とジュリアさんが笑顔でエリックさんを制した。
「なんだか頭がムズムズするわ……?」
「ウィッグを取ってみていただいても……、あ、いや、すみません、ご自宅で、」
「いえ、だいじょうぶです。──むしろ、ジョージさんとカイアちゃんには、結果をすぐに知っていただきたいわ。」
ジュリアさんがそう言うので、俺は円璃花の部屋だった空き部屋にジュリアさんを案内した。あそこには全身を映せる姿見があるんだ。ジュリアさんが戻るまでの間、エリックさんはソワソワとして落ち着かなかった。
「エリック!エリック、来てちょうだい!」
大声で呼ぶジュリアさんに、エリックさんが慌てて2階へと駆け上がる。
「……!!!!!ジュリア!!
生えてきている、生えてきているよ!」
エリックさんの叫ぶ声が響いた。そして、涙を浮かべたジュリアさんを伴って、エリックさんがゆっくりと2階から降りて来る。
エリックさんは静かに泣きながら、愛しげにジュリアさんを見つめて微笑んでいた。
「ジュリアはずっと、まるで枯れた大地のように、ところどころに長い髪がほんの少しだけ生えただけの、とても痛々しい姿でした。
ですが今は、一見金髪でわかりにくいですが、確かに坊主にしたかのように、短い髪の毛がたくさん生えてきていたのです。」
「本当ですか!?良かった……。」
ジュリアさんはカイアを見た途端、ポロポロと涙をこぼした。カイアが心配して、ピョルッ!?と慌てだす。
「カイアちゃんのおかげよ、そしてジョージさん、本当にありがとう……!」
泣きながら微笑むジュリアさんに、カイアもホッとしたような表情を浮かべた。
もう、だいじょうぶそうだな。
家の外で待ってくれていた王宮の馬車に乗り込んだエリックさんは、個展を開く際はお知らせしますね!と手を振ってくれた。
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