円璃花がアーサー国王をチラリと見ると、アーサー国王も自信たっぷりに微笑んでみせた。へえ、そうなのか。そいつは凄いな。王族ともなると、色々と抱えていそうなものだが、アーサー国王は余程の人格者らしい。
もちろん他の王族の皆さまも、大変お綺麗な魂をお持ちで、とても素晴らしいですわ、と円璃花に言われて、パトリシア王女も弟さんたちも、とても嬉しそうにしていた。
「……ですが、ここにいらっしゃる皆さま方は、そうではないようですね。」
円璃花が芸術大賞関係者席の貴族たちを見回しながらそう言った。貴族たちは一様に気まずそうな顔をして、円璃花から目線をそらしていた。お前の汚い腹の中を見抜いているぞ、と言われたようなものだからな。
「瘴気を生み出す人間は、他人を攻撃し、影響を与え、また新たな瘴気を生み出す人間をも作り出します。また、やがてその者自身も瘴気にとらえられ、暴れだすことでしょう。
これは国を荒らす原因となるもの。瘴気を生み出す人間が大量にいては、はらってもはらっても、きりがないことでしょう。」
確かに、人を意味なく攻撃する人間が近くにいたら、心が荒む人が増えるだろう。
この世界では、それが瘴気として形になってあふれてくるということなのか。確かにそれじゃきりがないな。元を断たない限りは、次々と新しい瘴気を生み出す原因になる。
「私は神の意志に背かぬよう、精一杯聖女をつとめさせていただく所存です。ですが私一人の力では限界があるのも、また事実です。
今後わざと他者を攻撃し、瘴気を生み出す人たちが排除されないのであれば、私はこの国の人間たちを見限り、国を出ることでしょう。国王陛下には正しい判断を望みます。」
円璃花はそう、キッパリと宣言した。通路を挟んだ反対側の席の、芸術大賞関係者席の貴族たちは、明日は我が身と一様にうなだれていたのだった。自覚はあるんだな、自分たちが瘴気を生み出す原因となってることが。
改善するならよし、そうでないのなら、この世界に居場所が無くなるということだ。
瘴気は世界規模の問題。瘴気の影響で強い魔物が増え、瘴気にとらわれた人々が暴れだし、それを国ではおさえることが出来ないからこそ、聖女と勇者の存在が望まれているのだから。瘴気の原因になる人間だと分かれば人から石を投げられる。そこに貴族だからという甘えは通用しないだろう。
堂々としたそのさまは、この世界の命運を背負う聖女様としての、自信に溢れた美しい姿だった。俺は円璃花と再会して初めて、その姿に見とれてしまっていた。
円璃花はそのまま、王族たちと共に、壇上から去って行った。──最後に俺に、笑顔で小さく手を振りながら。
俺はメッペンさんとエドモンドさんに挨拶をして別れると、エリックさんとジュリアさんを、我が家へと招待した。ちょっと試してみたいことがあったからだ。バスロワ王国の出してくれた馬車で家の前につくと、既に護衛の兵士たちも引き上げた我が家はシン……としていて、思わず少しだけ寂しくなる。
エリックさんとジュリアさんにお茶を出してから、わざわざこんなこところまですみません、ちょっと試してみたいことがありまして、と言った。
「試してみたいこと、ですか?」
エリックさんは不思議そうにしている。
俺はマジックバッグの中から、カイアとアエラキに出て来て貰った。
「うちの子たちです。俺は精霊の加護を得ているのですが、うちの子は聖魔法が使えまして。軽い病気を治したことがあるのです。
ジュリアさんの病気が治るかは分かりませんが、試してみる価値はあるかと。」
「精霊なんですか!?」
「初めて見ます……。」
知らない人にマジマジと見つめられて、カイアの人見知りが発動し、カイアが不安げに俺に抱きついてきたので、だいじょうぶだ、とカイアの背中を撫でてやる。
「カイア、この人たちはお父さんのお友だちなんだが、病気を患っていてな。カイアは以前、円璃花お姉さんのお腹痛い痛いを治してくれただろう?このお姉さんの病気が治せないか、試してみて貰えないか?」
そう言うと、カイアはコックリとうなずいて、ピョルッ!と力強く言った。
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