「さあ!では、サクサク登っていきますよ!ちょこさん、行きましょう!」
「おっけー。」
言葉と共にちょこが隠密で姿を消す。
:配信的には姿消されると面白みが減るな
:上位探索者に嫌がらせするんじゃなきゃ、配信じゃ生きないスキルよな
:まあいおりんはいるし
配信上は美織の姿しかなくなってしまった画面を見て、リスナーがそうコメントする。
隠密は姿を消して戦闘するスキルだけに、どうしても配信上盛り上がりにかけるのだ。
「あ、みなさん、ちょこさんの姿が見えないんですか?じゃあ、魔物にはちょこさんの姿が見えないままで、皆さんには見えるようにしましょうか?」
と、突然美織がおかしなことを言い出す。
:は?
:どゆこと?
:隠密で姿消してる人間を見えるようにするとか、不可能だろ
「私の視界と配信をつなげばいいんですよ。私にはちょこさんの姿が見えてますし。」
とこともなげに美織が言う。
:だからどういうことだってばよ
:VRじゃねんだから
:脳に配線つなぐとかいう、未来の仕様をそなえている……?
「私も通常時は見えませんけど、目で見るんじゃなく、感じるようにすればわかるって、以前配信で言いましたよね?その感覚を共有すればいいんですよ!」
:ちょっと何言ってるかわからない
:人間にはそんなこと出来んのよ
:人間の言葉で話してもろて
「簡単ですよ?私の意識を解放すれば、それこそ脳内で全世界の人と会話出来るようにもなりますし!言語なんて、私にとってはあってないようなものになります。」
:バベルの塔が崩壊前の世界から来た人?
:ちょっと何言ってるかわからない
:だからどうするんだってばよ
美織の現在の配信の同時視聴者数は7万人を越えていた。そのコメントすらも、凄まじい動体視力と処理能力で追いかけ、必要なコメントを追って反応していく美織。
「論より証拠!やってみせますね!」
美織の体を、突然オーラのようなものが包みだしたかと思うと、リスナーたちのコメントが突如混乱を始めた。
:待って!?なにこの視界!?
:これが……いおりんの見てる世界……?
:針山の向こうのスカイフィッシュの姿まで感じられるんだが?
:いた!獄寺ちょこだ!
美織の視界を共有された視聴者たちが、何が起きたのかわからずパニックしている。
美織はそれを見て満足そうに頷くと、
「これでちょこさんの姿が見えるようになりましたね!正直配信で使うとちょっとだけ疲れるんですけど、このほうが皆さんもちょこさんの姿が見えて楽しいですよね!」
と嬉しそうに言った。
:待って、軽く人間やめないで
:何が起きてるんだ!?
:
:
:俺は人間を辞めるぞ、ジョジョォ~ッ!
:外国人ニキたちも混乱しとる
コメント欄には海外勢と思わしきコメントも流れ出し、この異常事態は世界を巻き込んで広まっていき、同接人数がうなぎ登りに増えていきつつあった。
現時点で10万人を突破し、瞬く間に切り抜きが拡散されていく。
「それでは!登っていきます!」
美織は飛び上がると、針の山の先端にスタッと降り立った。美織が近付いてきたのを見て、近寄ってくるスカイフィッシュ。
「──邪魔です、よ!」
回転斬り!美織がその場で一回転すると、美織の周囲に集まっていたスカイフィッシュたちがボトボトと地面に落ちて行く。
:深層の魔物を一撃!?
:スカイフィッシュ、別名空の電気ウナギ。触れると電撃が走って気絶、または感電死することから、近接職が苦手とする魔物。遠距離攻撃はしてこないが、群れで巻き付いてきて逃げ場をなくす。
:それを一撃ってさあ……
「あ、私電撃耐性あるのでだいじょうぶですよ!麒麟の雷撃浴びてたら、いつの間にか耐性ついてましたから!」
:待て、麒麟!?
:深淵の幻獣なんですがそれは
:やっぱり主、深淵にも潜ってたなあ!?
「全部、倒しちゃっても構いませんよね?──行きます!」
美織は針の山の足場を蹴って空中に飛び上がると、空中でグルグルと回転した。
:別に、倒してしまって構わんのだろ?
:いや、このフロア全体を倒す気か?
:どんだけいると思ってんだ?
:一体一体は深層クラスとはいえ、集まったら危険なのがスカイフィッシュだぞ!?
回転する美織の周囲に空気の渦が出来、それがひとつの竜巻のように、巨大になって広がっていくいく。
「ちょっと!?なんか吸い込まれそうなんだけど!?あんた何やってんの!?」
獄寺ちょこの悲鳴が飛んだ。既に仙桃の木の下に到着していたらしい。
「すみません、ちょこさん、木に捕まっていてください!このほうが早いので!」
美織が気にせず回転を続けると、まるで渦潮に吸い込まれる木っ端のように、スカイフィッシュたちが美織に集まって行く。
フロアのすべてのスカイフィッシュが、美織が巻き起こす渦に吸い寄せられた頃、美織が逆回転を1回した。──次の刹那。ボトボトと一斉に地上に落ちるスカイフィッシュ。
「終わりました!あとはゆっくりと仙桃をもぎましょうか!」
美織はニッコニコで画面に手を振った。
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