日曜日。美織は約束通りUrban Strategy Hulex Corporationにやって来ていた。
ジェリーバルーンの皮膜を大量に購入したいとのことで、その契約の為である。
ガラス張りの一棟建てのビルすべてが、USHCの持ち物だった。1階の受付はガランとしていて、今日が休日であることを物語っている。受付のタッチパネルで、指定された番号を呼び出し名前を告げると、女性が出て少々お待ち下さいと言われた。
「高坂美織さまですね。お待たせいたしました。Urban Strategy Hulex Corporation日本支社、ダンジョン対策室探索部資材課課長、槇村悠一と申します。ご案内いたします。」
銀縁のメガネをかけた、母親よりも少し年下くらいの灰色のスーツの男性が、名刺を差し出してくるのを恐縮しつつ受け取る美織。
「か、課長さんが直々にですか!……お手数をおかけいたします。」
そんな美織の様子を見て微笑む槇村。
「わたくしごときで驚かれては。アスター・ヒックスは弊社の日本支社ダンジョン対策室室長ですよ。」
と配信に来ていた人間の正体を暴露する。
「あ、あの方……そんなに偉い方だったんですか!?気軽に配信でコメントしてらっしゃいましたけど……。」
「フットワークの軽い方でして。有望な探索者の配信は常にチェックしております。弊社で探索者を抱えてダンジョン攻略するなど、積極的に動いておりますもので。」
「はあ……。そうなんですね。」
美織は出して貰ったコーヒーを、ふうふうと息を吹きかけさまして飲みながら答える。
「近々本社より、アメリカNo.1のメイソン・オーシャン氏を招いてのダンジョンアタックも予定しておりまして。そこに高坂さまに参加して欲しかったようですが。」
「と……とんでもないです!私みたいな若輩者が、アメリカNo.1とだなんて、ご一緒出来ませんよ!!」
「そうでしょうか?ヒックスが画面越しに測定したところ、実力はじゅうぶんだと申しておりましたが。」
「が、画面越しで測定?そんな事できるんですか?」
そんなことが出来る人間をはじめて聞いた美織は、驚いて目を丸くした。
「はい。弊社のアスター・ヒックスは、心眼と千里眼の持ち主ですので。画面越しでも人物が特定できれば詳細がわかります。特定せずとも、レベルやスキルを指定して、所在地の検索をかけることも可能です。」
「そんなことまで出来るんですね……。」
「探索者として現場に出る能力がありませんので、こうして社内で内部仕事をしておりますがね。とても優秀な方ですよ。」
そんな人物に有能と言われれば、ちょっぴり心が動かないでもなかったが、それでもNo.1と呼ばれる人物と肩を並べて仕事が出来るかと言われると、いささか気後れしてしまう美織だった。
「それではジェリーバルーンの皮膜の買い取りについて、お話をすすめさせていただければと思います。ちなみにいくつお持ちか伺ってもよろしいでしょうか?」
「ぜんぶで125あります。」
「それらをすべてお譲りいただくことは可能でしょうか?今すべてお持ちでしょうか?」
「はい、特には……。はい、持ってます。」
「かしこまりました。それでは鑑定に移らせていただきたいと思います。ではこちらにお出しいただけますでしょうか?」
槇村が素材を入れる為の専用の袋を取り出して、テーブルの上に広げた。美織はそこにジェリーバルーンの皮膜をマジックバッグから取り出してしまっていく。
すべて出し終えると、槇村が鑑定機器を取り出して、ひとつひとつ鑑定を始めた。槇村自身は鑑定する能力がないようだ。
「……どれも状態のよいものばかりですね。これだけあれば新部隊の隊服が作成できます。とても助かります。それではこれらを1つにつき73万でいかがでしょうか?相場より値をつけさせていただきました。」
「そんなに……!?はい、問題ないです。」
中層の素材は30万から50万が相場とされている。ジェリーバルーンの皮膜は中層の中ではレア素材とされている為、品質の良さもあってこの値段がついたのであろう。
「それでは、マイナンバーカードの提示と探索者証の提示、また売却品の販売額振込先のわかるものをお願いします。」
「こちらです。」
槇村は美織が差し出した通帳やらのコピーをとって、それを返却すると、
「よいお取引をありがとうございました。今後のご活躍をお祈り申し上げます。」
と右手を差し出してきた。
「こちらこそ、日曜日に対応いただいてありがとうございました。」
美織は握手をして微笑んだ。
その足で合同会社だんちゅうぶ!へと向かう。ブラッドメタルラビットの加速の双剣の販売と、皇あかりとのコラボの為だ。
さすがに昨日ダンジョンに潜ったあとですぐ、というのは無理だった為、日を改めてもらい、日曜日の午後となったのだ。
──ビルの1階で、くすんだ金髪に、目深に帽子をかぶった、ジャケットの袖をまくり上げている男性とすれ違う。
金髪の男性は美織とすれ違った瞬間、全身に肌が泡立つような怖気を感じて、思わずバッと振り返った。美織は気にする様子もなくビルの外へと上機嫌で出て行った。
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メイソン・オーシャンは目深にかぶっていた帽子を脱いで胸に当て、十字を切るような仕草をした。
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メイソン・オーシャンは、信じられない、と言った顔で美織を見送っていた。
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メイソン・オーシャンの足元にいた金髪にツインテールの少女が大声を張り上げた。
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