「お邪魔するわ。」
「だいじょうぶですか!?沙保里ちゃん!」
ギルド女神の息吹のギルマス、阿平沙也加と美織が、沙保里の兄の病室にやって来た。
兄のベッドの脇に座っていた沙保里は、美織の姿に立ち上がり、泣きながら美織に抱きついた。沙保里の背中を撫でる美織。
「ご家族は?」
と阿平が尋ねる。
「お父さんはまだ仕事で……。お母さんはお医者さんに話を聞きにいってます。」
「そう、ならちょうど良かったわ。親御さんにこの話をして、混乱されても話がすすまないから。お兄さんと、沙保里ちゃんだけに話があるの。」
「お兄ちゃんと私に話……ですか?」
「お兄さんは起きてらっしゃる?」
「あ、はい……。お兄ちゃん、お客さんだよ、起きてしゃべれる?」
沙保里は目を開けているのが辛いのか、体力を消耗しているのか、目を少し開けては閉じてしまう兄に話しかけた。
「誰……。」
呟くようにそう言う沙保里の兄。
「はじめましてお兄さん。私はギルド女神の息吹の阿平沙也加。お兄さんを助ける為の手段を持って来たの。」
「助ける……。」
「私たち探索者はね、人を助ける為の手段を持っていたとしても、一般人を助けることが出来ないの。そこには法律の壁というものがあるから。」
「えと……それってどういうことですか?」
「回復させる能力を持っていたり、ポーションのたぐいを他人に使うにはね、同じギルドや企業に所属しているか、一緒に探索チームを組んだ相手か、ダンジョンの中での緊急時という縛りがあるのよ。」
沙保里の質問に阿平が答える。
「そうしないと、タダで助けろって言ってくる人たちがわいて大変だから、昔ダンジョン協会の人たちと探索者たちが国会に提案して、法律が可決されたんだそうです。」
「逆にそれによって、善意での手助けが出来なくなってしまったということね。だからお兄さんには、うちのギルドのメンバーになってもらうわ。お兄さんは大学生だから、沙保里ちゃんのように条件をクリアしなくても、それこそ事務員という形でも、ギルドに所属することが出来るわ。あとはお兄さん自身に、うちに加入するという書類にサインをしてもらうだけ。……口で書いてもらうことになるけど、出来るかしら?まあ、無理だとしてもやってもらうしかないんだけど。」
沙保里から兄の状況を聞いた美織が、沙保里の兄を助ける為に、阿平に相談した結果、美織を伴って病院に駆けつけてくれたのだ。
既に病院に運ばれてしまった沙保里の兄を何らかの方法で回復してしまっては、すぐに誰かが何かをしたのがバレてしまう。
ダンジョンの中におらず、探索チームを組んだわけでもない沙保里の兄を法律に触れないように助ける為には、どこかのギルドか企業に所属してもらう他ないのだった。
「さあ、この書類にサインしてちょうだい。そうすれば、あなたを助けることが出来るかも知れない。どう?」
阿平はベッドの上の沙保里の兄に書類を見せた。
「書きます……。沙保里、起こしてくれ。」
「わかったよ、お兄ちゃん。」
沙保里と美織が、沙保里の兄の背中を支えて体を起こした。
「くっ……!」
阿平が差し出したペンを口で加えて、時間をかけて書類にサインをする沙保里の兄。
「……確かに。ちょっと待ってね、今すぐ手続きをすすめるから。」
阿平は沙保里の兄の書いた書類をスマホで写真に取ると、事務所で待っているスタッフにそれを共有した。
手続きが完了するまでの間、重苦しい時間が流れる。誰も一言も口をきかかなった。
「──手続きが完了したわ。これであなたはギルド女神の息吹の一員よ。」
阿平はそう言うと、
「治す前に、確認させてちょうだい。あなたをそんな体にしたのは誰なのか。」
「それは……わかりません。突然襲われたので……。」
「いいのよ、あなたの体に聞くから。」
そう言って、阿平は沙保里の兄の体に触れた。阿平の触れた部分から、温かな熱が全身に広がっていくような感覚がする。
「私のスキルは過去視。あなたに何がおこったのか、すべて見ることが出来るの。治療を済ませた後だと、さぐりにくいから、申し訳ないけどもう少し待っててちょうだい。」
「……これもギルド員でないと出来ないこと、ですか。」
「ええ、そうね。法的な制約はないけれど、うちのギルド内部の決まり事よ。」
沙保里の兄の言葉に、阿平が答える。
「……“見”えたわ。あなたを襲った男たちの姿……。覆面をかぶっていたけれど、かぶる前の時間にまで戻ることが出来た。1人は見覚えがあるわね。ギルドハードラックの下部組織、オールダンパーのギルマス、大山達夫ね。おそらくハードラックのギルマス、中尾が指示元とみて間違いないわ。」
「そんな……!」
沙保里はそれを聞いてショックを受けた。自分があんなギルドを選んでしまったから。だから目をつけられて、兄をこんな目に合わせてしまったのだと。
「だいじょうぶです、沙保里ちゃん。」
美織はそっと沙保里の手を握った。
「ちょっとおいたが過ぎたみたいですね。」
美織はいつも通りニコニコしていたのだが、沙保里はそれを見て少し背筋が寒くなったのだった。
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