「あらっ!翼くん!また来てくれたの?」
「えへへ……。真は元気ですか?」
玄関で出迎えてくれた母親の妹に、美上翼は頭をかきながら笑った。
「──翼兄ちゃん!」
ベッドから起き上がって本を呼んでいた、美上翼の従兄弟、
その姿に、美上翼は心臓がズキッと痛む。小学生ながらにガンにおかされた真は、ただ残りの余生を少しでも家族と過ごせるようにと、自宅で過ごしているのだった。
「今日は顔色いいんじゃない?」
「うん!なんでか体調がいいんだ!」
これは病状が好転したわけではなく、一時的な反応であるということはわかっている。
「今日は真にお土産があるんだ!なんとダンジョン産の食材だよ?」
「へえ!?なんだろう?嬉しいな。」
「食べたらステータスが上がる魚なんだ。風邪とかひきにくくなるんだよ?」
「凄いね!楽しみだな!」
「でしょ?料理してくるから待っててね。」
美上翼は春田家のキッチンを借りると、叔母と一緒に黄金魚をの料理を始めた。
「いつもありがとね、翼くん……。」
口元を手でおさえて、涙声が真に聞こえないように泣く叔母の姿。
「ううん、これで少しでも元気になってくれるといいんだけど。」
料理した黄金魚を、真はとても喜んでくれた。こころなしか本当に顔色も良くなった気がする。ステータスが上がったことで、死にかけた病人よりも体力が向上したのだろう。
そのおかげか、普段食の細い真が、黄金魚をすべて平らげてしまった。だが、これはあくまで応急措置のようなもの。どれだけ基礎体力が増したところで、ガンそのものがなくなったわけではないのだから。
『俺のスキルを使えば、真は助けられるかも知れない。だけど、誰に移すっていうんだ?叔母さんに言えば、自分が代わりにって言うだろうけど……。それに寿命の問題も……。』
美上翼の持つユニークスキル、<状態交換>は、2つの対象の状態を入れ替えることが出来るのだ。つまり、真のガンを他の誰かと入れ替えることが出来るスキルである。
ただし、スキルの発動条件には、発動者である美上翼の寿命が必要となる。状態によって必要な寿命が異なるとだけ書かれており、どの程度必要なのかがわからない。
だから助ける手段を持ちながらも、美上翼は悩んでいた。助ける手段がありながら、助けられない自分の罪滅ぼしとして、黄金魚を持って来たに過ぎない。
『真……、決断出来ない弱い兄ちゃんでごめんな……。』
自分の寿命がどの程度削れるのかがわからないことも怖い。誰かにそれを移すことも怖い。美上翼は込み上げてくる涙を拭った。
──土曜日。春田真の母親は、仕事で家を留守にしている。そこに今日は仕事が休みの父親が帰って来た。……愛人を連れて。
春田真の父親は、真が残りの余生を自宅で過ごしたいと言った時に強く反対をした。それは愛人を家に連れて来ることが出来ないと思ったからだった。
「え〜?この子まだ生きてるの?」
愛人はズカズカと真の部屋に入ってくると、ベッドの脇に手をついて、無表情にベッドの上で寝たふりをしている真に、顎をしゃくりつつ舌打ちをした。
「本当にな。早く死んでくれよ。高い養育費を払わされることになるし、世間体が悪いから、お前がいると離婚も出来やしない。本当に邪魔で仕方がないよ。」
それを聞いた愛人は、早く死ね!お前邪魔なんだよ!と、寝たふりを続ける真を罵り続けた。真は恐怖に震えながら、目覚めていることに気付かれないよう、息が乱れないようにゆっくりと呼吸を繰り返した。
父親と女が部屋から出ていき、真に対する暴言を吐きながら笑っている姿を、真は今日初めて、こっそりスマホの動画におさめることが出来た。父親と愛人がいなくなって、真はようやく泣くことが出来た。
真はスマホのトークアプリで、美上翼を探し出すと、その動画を添付した。
『兄ちゃん、助けて。お母さんには内緒にして。』
美上翼はトークアプリの通知音声に気がついてはいたが、美織と獄寺ちょことのコラボ配信中で、スマホをチェックしてはいなかった。獄寺ちょこがパペットマスターに人形にされてしまい、それどころではなかった。
「そこです!」
美織がパペットマスターを真っ二つに切り裂く。それと同時に獄寺ちょこが人間の姿へと戻った。
配信画面には、誰も内容を打ち込んでいないにも関わらず、
【確定ドロップアンケート。
1.代替の生贄(0.17%)
2.破滅のガントレット(5.6%)】
と書かれたアンケートが、配信画面に表示されていたのだった。
────────────────────
この作品は読者参加型です。
アンケート回答よろしくお願いします!
見てみたい配信内容も募集しています。
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。