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第90話 怪しい契約書

 この日、美織と獄寺ちょこは、多くのVtuberやダンVtuberが集まる企業イベントに参加していた。


 映像を映したブースの下の部分が一部あいていて、そこから出て来たロボットアームと握手をする、という企画で、アームの先に中の人がいて、握手をしている感覚を伝える、というものだ。


 その機械を販売している会社が企画したものであり、他にもVRゴーグルをつけてコミュニケーションするブースなどもある。


「ちょこさんは、自分に自信がなさ過ぎですよ。今はもう、自分にもファンがいると、実感したほうがいいです。」


 と言ってきた美織に押し切られる格好で、本当は断ろうと思っていたのに、名だたる有名Vtuber、ダンVtuberたちと並んで、握手会に参加することとなった。


 私のところに並んでくれる人なんて……。

 そう思っていた獄寺ちょこだったが、

「ちょこタン、会いに来たぞ!」

「いや〜、整理券取るの大変だったわ!」


「ちょこさん……!だ、大好きです……!」

 と、蓋を開けてみれば、大勢のファンたちが集まってくれたのだった。


「俺が行ってやらないと、ちょこタンの列に誰もいなくて寂しいことになるんじゃないかと思ってな!」


「馬鹿言ってんじゃないわよ、あたしを誰だと思ってんの?」

 気づけばそう軽口も叩けるようになった。


 獄寺ちょこは半分泣きそうになりながら、いや、目に浮かんだ涙を拭いながら、握手会を一生懸命こなしたのだった。そんな獄寺ちょこを微笑みながら見守っている美織。


「いったん休憩で〜す!」

 そう声をかけるスタッフによって、午後の部までの休憩が入ることになった。


「はあ〜、結構大変ね!」

 冷たい飲み物をもらって、バックスペースで休憩する獄寺ちょこ。


 ケータリングが準備されているというので、それを美織と一緒に見に行こうということになり、その前に美織がトイレに立った為、話し相手もいないので、1人で美織を待っていた時だった。


「あの……。獄寺ちょこさんですよね?」

 スタッフPASSを首から下げ、目深に帽子を被った男がちょこに話しかけてくる。


「こちら企業からのアンケートです。今お手すきでしたら、回答いただけませんでしょうか?」


 バインダーに付けられたそれに目を通すと、握手会で使った機械に対する使用感などのアンケートだった。


 獄寺ちょこは、これなら美織が帰って来るまでの間にすぐ済むわね、と思い、サラサラとアンケートを書き上げた。


 最後にダンVtuber名と本名を書く箇所があり、一瞬嫌だなと思ったが、仕事をくれた企業の依頼だけに、断る事もできず、本名を書き添えた。


「はい、これ。」

「ありがとうございます。お疲れ様です。」

 そう言って、アンケートを回収してスタッフは去って行った。


「ちょこさん、何やってたんですか?」

「このイベントを企画した企業からのアンケートだって。」

「へえ。」


 美織は歩いているスタッフを捕まえて、

「私も書きますよ?アンケート。」

 と言った。


 ちょうどお伺いするところでした、と言ったスタッフは、獄寺ちょこにもアンケートを差し出して来た。

「あたしはさっき書いたわよ?」


「え?あ、そうですか。」

 そう言って、美織の書いたアンケートだけを受け取ると、他にもスタッフいたのかな……、と独り言を言いながら、スタッフは去って行った。


 数日後、獄寺ちょこは自宅を尋ねて来た人間のノックの音で目を覚ました。

 通販を頼んでいた為、その宅配便が届いたのだと思ったら、


汀良川千代香てらかわちよかさんですね?」

 と突然ドアの向こうの人間に本名を呼ばれた。困惑する獄寺ちょこ。


「だ……誰……?」

 警戒してドアを開けずに尋ねる。

「わたくし、配信者事務所、パシフィックアールの杉本と申します。」


 パシフィックアールは獄寺ちょこも聞いたことがある。確かTV局の下請け事務所だ。自分に何の用だろうか?そう思いつつ、ドアを開けた。


 杉本と名乗った男は、スッと両手で名刺を差し出してくると、

「このたびは、弊社に所属いただき、まことにありがとうございます。」


 とおかしなことを言ってきた。

「所属……?何言って……。あたしはどこにも所属なんてしないけど?」


「おかしいですね?こちらに確かに契約書があるのですが。」

 スッと差し出されたそれを見れば、ちょこの住所が印刷された箇所の下に、確かにちょこ自身の筆跡でサインがしてあった。


 その上にはパシフィックアールの住所が記載され、社印が押されている。

「は?なに、これ……。こんなもの、書いた覚えないわよ!こんなの無効よ、無効!」


「困りましたね……。こちらは弁護士に作っていただいた正式な契約書となります。契約を破棄されるとなりますと、こちらに記載のとおり、違約金を支払っていただくことになりますが。」


 そこには違約金1億の文字と、1日遅れるごとに遅延損害金30万の文字があった。ちょこは思わずその契約書をやぶろうとしたが、


「こちらはコピーです。お疑いになるのであれば、弁護士でもなんでも、ご相談くださって結構ですよ。さっそく仕事が入っておりますので、来週お迎えにあがりますね。」

 そうニヤリと笑うと杉本は帰って行った。


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