今日は蜃狩り&料理&食べ食べ配信の日である。蜃はハマグリの魔物だ。
ハマグリは攻撃性も毒も持たない生き物だが、蜃は水流を飛ばし、また触手のようなものをいくつも同時に飛ばして攻撃してくる。
空中を飛ぶように避ける美織を、まるで自動追尾ミサイルの弾道のように、いくつもの触手が重なり合うように追いかけている。
その隙間を縫うように逃げる美織の姿は、さながらアニメーションのバトルシーンのようで、コメント欄も大盛り上がりだった。
「やりました!」
美織を追いかけていた触手たちが、絡まり合って身動きが取れなくなってしまう。
「ちょこさん!お願いします!」
「オッケー!」
獄寺ちょこがユニコーンの素材を使った爆弾を投げつける。
巨大な蜃は全身から植物を生やして沈黙した。そしてドロップがあったのだが……。
「えええ!?蜃のドロップって、こんななの!?」
「これはちょっと……凄いですね。私たちの手に余ります。」
蜃のドロップ品を目の当たりにした美織と獄寺ちょこは困惑し、これは別の日に改めて枠を取ろうということになり、この日は解散した。
後日、タイラントクラブの出現する浜辺に、大勢のダンチューバーやダンVtuberが集まっていた。
タイラントクラブは既に倒され、しばらくわかない為、ここは安全地帯となっていた。
タイラントクラブの巣の蓋に使われていた巨大な平たい石の周囲に人々が集まりだす。
「やー。まじほんと楽しみなんだけど。」
皇あかりは石を見上げて嬉しそうに言う。
石の下にも石がつまれ、その下があいた状態になって、そこに木の枝がつまれた。
「やー、みんなで巨大なハマグリのバーベキューをやるなんて、ほんと凄いよね。」
ルカルカが嬉しそうに笑っている。
「タイラントクラブも倒したから、焼きガニもあるよ〜。」
似鳥ゆえが木の枝をつんで戻って来ながらそう言った。
「それじゃ、火魔法使いの皆さん、お願いします!」
美織は石の上に巨大なハマグリの魔物である蜃を貝ごとと、タイラントクラブを殻ごと置いて、手を上げた。
ルカルカをはじめとする火魔法使いたちが、かまどのように組み上げられた石の下の木の枝に火をつけた。ダンジョンを使ったバーベキュー大会の始まりである。
本来の蜃の姿よりは小ぶりとはいえ、巨大なハマグリの姿そのままで、身肉がドロップしたのだ。とても自分たちだけでは食べきれない為、せっかくならコラボで食べようと提案したところ、大勢のダンチューバー、ダンVtuberが集まってくれたのだった。
みんなめいめいに写真を撮ったり、動画撮影を楽しんでいる。蜃は深層の魔物なだけに、滅多にお目にかかれるものではない。
それに加えて巨大なハマグリという映える見た目。それをみんなでコラボしてバーベキューで食べようというのだから、配信者としてはこの機会を逃す手はなかった。
料理系ダンVtuber、ドン・ロドリゴの提案で、蜃の蝶番は外してある。
こうすることでいきなり蓋がバカッと開かずに、ゆっくりと貝が開くようになり、ハマグリを美味しく焼くための出汁がこぼれないようになるのだそうだ。
「味付けしないの?」
「ああ。ハマグリはハマグリ自身から出る出汁の味で味付けるのが最もうまいのさ。蜃だって同じはずだ。」
ドン・ロドリゴがそう言うので、蜃は味付けをせずにそのまま焼いている。
「おっと、火が強くなってきたぞ!中火を保つようにしてくれ!」
ドン・ロドリゴが火魔法使いたちに指示をする。火魔法使いは火そのものを操ることが可能だ。ドン・ロドリゴの指示のもと、火加減を調節しながら蜃を焼いていく。
するとゆっくりと蜃の蓋が開いた。
おおっという声とともに、みんなが写真を撮影したり動画を撮影したりしている。
蜃から出た出汁が、くつくつと煮え、身肉に火を通しているのが伝わってくる。
「いおり嬢!そろそろいいぞ!」
「わかりました!」
ドン・ロドリゴにそう言われ、美織が剣をふるった。食べやすい大きさに切られた巨大なハマグリが、貝殻の中で少し雪崩れて、いいニオイを伝えてきた。
「さあ!食べましょう、みなさん!」
皿を手に並ぶ人たちに、美織と獄寺ちょこが、食べやすい大きさに切り分けられた蜃の身肉を皿に乗せていく。
「あつつっ!……何これえ、ハマグリってこんなに美味しいの!?」
「これが出汁だけで味付けてるなんて!」
鳩胸みかりと灰崎イチカが、頬一杯に蜃を頬張りながら、舌鼓をうっている。
「タイラントクラブもあるからね!」
獄寺ちょこがそう叫ぶと、
「いい感じに焼けてますよ!」
と美織も言う。
「欲しい……。」
「下さい!」
瀬戸内ミリーと満天星きらりが、タイラントクラブに目を輝かせている。
思いがけず大規模なコラボになったことで、日頃関わりのないVtuberたちが裏で枠を取り、ねえ、あいつらずるくない!?とぼやいていたとかいないとか。
皆でワイワイ料理を食べていた時だった。突然美織が何もない空間に剣をふるった。
「え?なに?急にどしたん?」
と尋ねる獄寺ちょこ。
「おかしいですね……。不穏な気配がしたんですが……。手応えもありました。」
剣を鞘におさめつつ、美織が首を傾げる。
──美織たちから離れたところで、その様子を見下ろしていたジェーニャ・ボイコは、服1枚切り裂かれた腹を撫でつつ、
「随分とカンがええんやな、いおりさんは。あの子から奪うんは難しそうやなあ。」
そう言って笑いながら、タイラントクラブの浜辺から去って行ったのだった。
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