ダンジョンは日々突発的に生まれるものであり、未発見のダンジョンには国に報告の義務がある。
万が一にも奈落があったりはしないか。中にいる魔物はどの程度でどんなものがいるのか。すぐさまダンジョンブレイクする可能性はないのか。それらをダンジョン協会と国が調査する為だ。
ダンジョンは時にダンジョンブレイク──ダンジョンから魔物が溢れ出す現象や、ダンジョンスタンピード──あふれた魔物が列をなして人間を襲いに移動する、などの現象を引き起こす。
そしてそれは時に、生まれたてのダンジョンによって引き起こされることがあるのだ。
そうなれば近隣住人の避難や、それこそ遠方の探索者の助けも求めなくてはならなくなる。
だからそのダンジョンも、当然ある程度の調査はされている筈だった。調査員はダンジョンに入る際、基本魔物を倒さない。
調査が目的である為、下手に魔物を倒してヘイトを集めるわけにはいかないからだ。
おそらく今回の出来事は、魔物を倒すことが引き金になったと思われる。
調査員は無事生還していることからも、特定の条件下のもとで発生する事象とみていいだろう。実際姿を隠して助けに入った救助員たちは、消失現象に巻き込まれることがなく、また、巻き込まれた探索者たちと遭遇することも出来なかったのだそうだ。
「うちからはあなたに行ってもらうわ。というか、ご指名ね。……本来なら高校生のあなたに依頼することではないんだけど。」
机の上に肘をついて指を組んだ阿平は、はあ、とため息をつきながらそう言った。
「はあ……、そうなんですね。まさか高校のうちに依頼がくるとは思いませんでした。」
と美織は驚いた表情で言った。
ちなみに国は殆どのダンジョンに、ランクによる入場制限を設けてはいない。中学生はギルドのサポートのもと、という制限が設けられている程度だ。
よいアイテムをドロップしやすくて、人気のダンジョンにのみ、混乱を避ける為に制限を設けている程度だ。
中にいる人間の人数が多いと、ドロップの質は変わらないのに、なぜか相対的に魔物の数が増えたり、強さが増すことがある為であったが、危険な場所でわざわざタダで働きたい人間を、制限するメリットがなかった。
ダンジョンは人が死にやすい危険な場所であると同時に、魅力的な鉱山でもあるのだ。
それこそ行く人間が少なければ、大手に依頼を出して、人を雇わせてでもダンジョンに人を派遣するつもりであったのだ。
電力会社が震災時に、発電所で放射能除去作業をする人間を下請けに依頼し、そこがさらに孫受けに依頼して……。となったように、最終的には数万円で危険な場所に行く普通の人間が雇われたことだろう。
だが探索者を名乗る人間たちが、こぞって自ら危険を顧みずダンジョンに潜ってくれるのだ。喜びこそすれ止める理由がなかった。
だが緊急時の依頼には当然、通常時以上の危険がつきまとう。探索者協会や、国が抱える特殊チームでは、どうにも出来なかったということでもあるからだ。
本来であれば、阿平か、それに準ずる人間に来るべき依頼であった。──これまでであれば。国は阿平よりも美織のほうが優れた探索者であると思っているということだ。
美織はスキルの力により、ようやくドロップをするようになって、探索者のレベルが上げられるようになったものの、一足飛びに上げられない決まりから、まだ最低のGランクからFに上がったばかりだ。
年に1回しかレベルアップの試験を受けられない、というのが理由だからだが、どれだけ深淵をクリアしようと、探索者としてのランクは対外的にはFなのだ。
そんな美織を、ギルマスである阿平以上の存在として認識している。スパイが潜り込んでいるのか、なんにせよ、なんらかの監視を受けているとみていいだろう。
「ともかく申し訳ないのだけれど、今回のことは強制なのよ。あなたを送り出すのは不安だけれど、行ってもらえないかしら。」
「わかりました。お力になれるかわかりませんが、頑張ります。」
美織はそう答えた。
救出部隊専用のトークグループに入る為、専用のチャットツールをインストールし、阿平が美織をグループに追加した。
基本全員本名での参加ということになっていたようだが、ダンVtuberでもある美織は本名を公開していない為、剣呑寺いおり名義で参加させてもらえることになった。
阿平が用意してくれたアカウント名は、文字で剣い、となっている。
ここだけは阿平が譲らなかったらしい。
「わ、いおりんだ!参加するの!?」
皇あ、と書かれたアイコンがそうコメントしてくる。アイコンに触れると皇あかりとプロフィールが書かれていた。
他に知っている名前は、諏訪野美咲、三喜屋城介、ギルド疾風迅雷のギルマス箱崎保くらいのものだ。
どうやら今回の救出部隊は、ギルド所属の人間だけでなく、ダンチューバー事務所所属かつ、トップ層の探索者にも声をかけているようだった。
はい、よろしくお願いします、と美織はチャットを返した。
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