それと同時に、人体模型が動いて襲ってきた。平時であれば、6人組のダンチューバー同様、撮れ高のある面白い事象として、ダンチューバーの面々は楽しんだことだろう。
だがこれらを討伐したことで、彼らはこの校舎の中に閉じ込められたのだ。いつまたその事象が起こるかもわからなければ、起きた瞬間に彼らを救い出さなければならない。
少しも楽しんでいる余裕はなかった。その時壁にダン!ダン!と跳ね返った何かが、目の前のポトリと落ちる。それは生首だった。
自分の首をサッカーボールよろしく蹴ったのであろう、首のない子どもの姿をした魔物が、こちらを向いて立っていた。
それらも切り捨て前に進むと、前からテケテケが現れた。上半身だけの体に、両手にハサミを持っている。
黒目いっぱいの目、白過ぎる肌、血が滲んだような歯と唇は、リアルな人間の姿をしているだけに、アンデッド系とはまた違った気持ちの悪さがある。
だが下層までしか行かれない探索者が余裕で倒せたこともあり、それもなんなく倒すことが出来た。──その時だった。
「なんだ……?」
壁にかかったアナログ時計がぐるぐると動きだし、7時16分をさした。おかしな場所にあるその時計の動きの意味がわからず、警戒しながらただそれを眺めていた。
「鏡だ!!」
三喜屋城介が叫んだ。壁にかかった時計の反対側には、上階に通じる階段にかけられた大きな姿見があった。
そこに時計が反対向きに映る。
──4時44分。
それに気が付いた時、空間が歪んだ。
「……ここは……どこ?」
皇あかりは気がつくと、廊下ではなく見知らぬ教室に立っていた。あたりを見渡すと、どうやら家庭科室のようだった。
「そうやら移動させられたようだね。」
箱崎保がそう言う。
「彼らのいる場所に連れて行かれたのかしら?時計が転移の鍵なら、おそらく同じことをすればもとの場所に戻れるわ。早く彼らを探しましょう。」
諏訪野美咲はそう言って、家庭科室から出ようとした。
「危ない!!」
畑中慎一郎が水魔法を放つ──が。
「きゃああああ!?」
諏訪野美咲を襲った包丁は、勢いを止めることなく、背中に突き刺さった。
防具は体のすべてを覆ってはいない。かわすか撃ち落とさなければ、当然当たる。
だが、ここにいる魔物はすべて弱かった。
救出部隊の相手になるような魔物ではないのだ。にも関わらず、畑中慎一郎の魔法は、その威力を弱めることすら出来ずに、諏訪野美咲への攻撃を許した。
その場の全員がなんとなく違和感を感じた時だった。ゆらり、と大量の包丁が姿を現し、その切っ先を救出部隊へと向ける。
たかが包丁。それも下層までしか行かれない探索者が倒すことの出来る魔物しか現れないダンジョンのもの。それが100あまりあろうとも、物の数ではない。
にも関わらず、降り注いだ包丁は、余裕で迎え撃った彼らの武器を折り、その防具を傷つけた。空中を縦横無尽に飛び回る包丁は、彼らを嘲笑うかのように見えた。
「なんなの?この切れ味は?」
諏訪野美咲はポーションを飲みながらそう驚いた表情を浮かべる。
「深淵素材を傷つけるなんて……!」
「──違う。」
権藤がキッパリとそう告げる。
「自分たちの武器や装備から漏れる魔力と、あの包丁の魔力を感知して比べてみろ。」
そう言われ、全員が自身の武器防具と、包丁から発せられる魔力を比べてみる。防具はおろか、日頃頼もしい相棒だと思っている武器からも、本来の魔力を感じ取れなかった。
「……どういうこと?私の武器や装備が、まるで中層の魔物の素材程度の魔力しか発揮していないなんて。」
皇あかりがそう呟くと、
「それどころか、あいつらから深淵の魔物と同じ魔力を感じるぞ……?」
三喜屋城介もそう声をあげた。
「ここは鏡の世界。おそらく、俺たちとあいつらの力が反転しているんだ。今の俺たちは中層程度の実力まで、力を下げられている。代わりにあいつらが本来の俺たちと同じ力を手にしているんだ。」
「そんな……。中層程度しかいかれない実力で、あんな数の深層レベルの魔物を倒せっていうの?そんなの……まるでスタンピードじゃない。」
恐れおののいたように諏訪野美咲が言う。長らく探索者として生きて、上位の探索者に名を連ねた彼らは、当然何度もイレギュラーには遭遇してきている。
なんとか逃げおおせたり、倒したりして、ここまで経験を積んできた。だが、その場合相手は必ず1体だった。
こんな途方もない数の上位存在になど、囲まれたことはない。
「鏡の場所に戻りましょう。今は彼らを助けるどころじゃない。俺たちが死んでしまう。」
「そうだな、そうしよう。」
箱崎保の言葉に権藤がうなずく。
だが出口に向かおうとした彼らを、包丁の竜巻が襲った。
「がっ……!」
「うわああああああああああ!」
救出部隊がただ無力に切り刻まれるさまを、ドローンが無機質に映し出していた。
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