「まだ配信の許可はおりないんですか!?」
上位探索者6名が、なすすべなく蹂躙されるさまを、ドローンからの映像で見守るしかなかった面々が、サポート部隊の隊長を任された白鷺に詰め寄る。
「これはもう、特殊なスキルの可能性にかけるしかないでしょう!」
「だが……。まだ許可がおりないんだ。」
白鷺は困ったようにうつむいた。
今回の救出計画は、事前に誰が何を担当するのかを決められており、それをその場で覆す権限のある人間はこの場に1人もいない。
命令指揮系統が確立された人間が向かう、特殊部隊と違って、あくまでも個々に独立した組織である冒険者ギルドや、ダンチューバー事務所を通じてのクエスト依頼だ。
撤退する判断は委ねられているが、配信をしてはいけない、がクエストの条件であるのなら、それを出発後に覆すことは難しい。
誰に責任があるかと言えば、美織のスキルを中途半端に知った状態で、参加を要請した国の担当者だろう。その時点で、配信ありきのスキルであることを理解し、配信の許可を出すべきだった。
そうでなければ、美織がここにいる意味がない。ギルドなどに依頼を出すのはあくまでも現場に出ない役人である。
そのお役所仕事ぶりで、救出に際し前例のない配信の許可をおろす判断など、依頼を出した部署の誰にも下すことは出来なかった。
緊急措置として判断を仰ぐことすら出来ない。これが他国の探索者によって危険にさらされている、などの事態であればまだ話は違っただろうが、探索者はあくまで自己責任。
緊急時に救う為の一定の枠組みは組まれているが、それらを逸脱してまで、自ら危険に飛び込んで行った人間を救出する為に、税金を大量に投入したり、超法規的措置を取ってまで助けることを、世論が良しとしない。
これは、過去にテロリストに拉致され、殺害されたジャーナリストの事件から続いている。誘拐した人間の国に身代金を求める事件が続く中、国が渡航中止を求めたが、それでも危険な国に渡り、捕まった人間の身代金を支払うことを、国民は良しとしなかった。
──自己責任。あれから危険な場所に自ら行こうとする人間につきまとう言葉だ。
探索者がもたらす恩恵に対し、実感している国民は少ない。
ダンジョン素材を扱っている企業に勤めている人間や、国に関わる仕事をしている人間たちは理解しているが、探索者がいないとダンジョンブレイクの危険がある環境で、日々生活しているという実感がなかった。
かつてダンジョンブレイクが起こった際の状況を知る人間は、少なくとも50代以上になっている。
今や義務教育の教科書にも乗っている為、魔物の数を減らさないとダンジョンブレイクが起きる、ということを知識として知ってはいるが、見たことがないのだ。
一般人の探索者のイメージは、ダンチューバーやダンVtuberのような、特殊な能力に目覚めたおかげで大金を稼ぐ人たち。
通常ならば手に入れることの難しい大金を稼ぎ、人気者としてちやほやされ、楽して生きている人たち、に見えている。
配信中に死ぬ人間は当然いる為、魔物の危険さは理解してはいるが。
だからいくら待っても許可は降りない。
政治家は誰も責任を取りたくない。だから世論が後押ししてくれ、救出時のルールが変わらない限り、許可は降りないだろう。
国と直接やり取りをしたことのない権藤は理解していないことだったが、何度もやり取りをしてきた白鷺はそれを理解していた。
彼らはこのまま死ぬだろう。その時が、自分たちの撤退の時だ。白鷺はモニターを見守りながら、その時を静かに待っていた。
「──あの廃校舎、魔物ですね?」
突然美織がそう言いながら首を傾げた。
「え?そうなのか?」
サポート部隊の1人が答える。
「ええ、そうですね。ダンジョンの特殊な壁かと思ってましたけど……。魔力の流れ方が違います。」
そう言われて、サポート部隊の面々は、その魔力を感知しようとしたが、中に大量にいるであろう魔物の魔力と混ざって、その違いがよくわからない。
「あれがダンジョンの一部なら、どこか別の位相に移された可能性を考えましたけど、魔物なら話は別です。皆さん、あの魔物のお腹の中にいるわけですから。」
「それならあの廃校舎を攻撃すれば──」
「とは言っても、お腹の中に特殊な空間を作り出していることに違いはないですね。
例えて言うなら体内……、胃袋が結界になっている感じです。」
「つまり、どうすれば助かるんだ?」
「切りましょう、結界。」
そう言って、美織はスタスタと歩き出した。
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