「おい、ちょっと待て、俺たちはここで待機を命じられて──」
白鷺が美織を止めようとする。
「今もう、そんな状態じゃないことはわかってますよね?このままじゃ、中の人は全員死にますよ?」
美織は真顔で白鷺を見つめた。
「許可を下さい。それが必要なのなら。」
「わ……わかった。その判断だけなら俺のほうでもくだせる。だが、他は全員待機だ。撤退も視野に入れないといけないからな。」
「結構です。私1人で。」
美織はそう言って廃校舎へと進むと、鞘からスッと剣を抜いた。
「結界を切る……?」
「本当に結界なんて存在するのか?」
「いくらあれが魔物だと言っても……。」
「結界だとしても、そんなものを切れるなんて聞いたことがないぞ。」
サポート部隊の面々がザワザワしながら美織を見守った。
集中するように、目を閉じて周囲の気配を伺う。美織の剣が光り、剣を鞘に納めた直後、廃校舎が斜めに切り裂かれ、そこに行方不明になっていた6名の姿が現れた。
「行方不明の6人だ!」
「本当に結界を切り裂いたのか!?」
「なんでもいい、早く助けるぞ!」
「あっ、おい──。」
白鷺の許可を待たずに、思わずサポート部隊の面々が駆け出して行く。こうなっては、状況も報告せずに動くほうがまずい。
白鷺は6名を発見した旨と、救助部隊が中に取り込まれた為、サポート部隊で助けに行く報告を、依頼元の国に報告した。
彼らは身を寄せ合い、半円状のドーム型の何かに包まれていた。これは6人のうちの1人が持つスキル、<絶対防御>だ。
どんな相手でも事象でも、24時間はこの中にいる人間に手出しすることが出来ないという、チート級の避難スキル。
使用者の両手を広げた程度の大きさの、安全地帯を生み出すことが可能だ。熱すら届かず、なぜか酸素も供給される為、たとえマグマの中であろうと生き延びることが出来る。
ただし中から攻撃をすることも出来なければ、1度スキルを展開した場所から動くことも出来ない為、ひたすら誰かが助けに来るのを待つしかない。
マグマに落とされようと24時間は生き延びられるが、マグマに助けがこなければ当然スキルが切れて死ぬ。
その点では非常に不便だと言えたが、今回はこれのおかげで生き延びたのだった。
「助けに来ましたよ。ここから逃げられます。さあこちらにいらしてください。」
美織が伸ばした手に、<絶対防御>をはっていた男性が、半泣きになりながらスキルを解除して立ち上がり、その手を伸ばした。
そこに、<絶対防御>の外から彼らを威嚇し続けていたテケテケが、ハサミをチャキンチャキンと打ち鳴らしながら、美織を見てニタアッと笑った。
「助けに来たぞ!」
「早くこちらへ!」
「──彼らをお願いします。」
美織はテケテケと対峙し、目線を逸らさないようにしながら、駆けつけてきたサポート部隊に6人組を頼んだ。
サポート部隊に肩を貸してもらいながら、衰弱した6人は外へと脱出して行った。
「そいつは強さが反転している筈だ!気をつけろ!無理せず隙を見つけて逃げるんだ!」
廃校舎から離れていきながら、サポート部隊の1人が美織にそう叫んだ。
「彼らが安全なところに行くまで、私が相手です。」
刀を構えてテケテケを見据える。テケテケは下半身もないのに飛び上がると、美織との間合いを一気に詰めて、美織にハサミ横に薙ぎ払うように突き出してきた。
「くっ!」
美織がそれを剣で受け、テケテケとの力比べが始まった。
「う……ぐぐ……。」
「グギィイイイイ!!」
テケテケは奇声を発しながら、さらに力を込める。
「くうっ……!」
ミシミシと刀なのか骨なのかわらかない音を立て始めた時、美織は力を抜いてテケテケのバランスを崩す。
「グギィイイ!」
テケテケは飛び上がりながら、空中でくるりと前転してハサミをのばしてきた。
美織は横にスッと移動しそれを躱すと、お返しとばかりに剣で袈裟懸けに斬りつけた。
「グギャッ!」
ハサミのついた手を足のようにバタつかせながら、テケテケが後ろに飛んで逃げる。そこに美織の追撃がきた。
体をひねりながらハサミで受け止めるテケテケ。美織はすぐさま刀を引き、変な体勢からすぐに身動きの取れないテケテケのその横腹に刀を突き刺した。
「グギャアアア!」
テケテケは悲鳴を上げて暴れたが、美織は刀から手を離さずにさらに深く突き刺すと、テケテケを地面に縫い止めようとした。
美織が深く体重をかけた瞬間、テケテケはニタアッと笑うと、ハサミを突き出した。
「ぐっ……!」
刀を床に突き刺し、なおかつ体重もかけていたことで、すぐに離れられなかった美織は、慌てて後ろに下がったことで直撃は避けたものの、脇腹に傷を負った。
「……なるほど、これが力の逆転、ですか。自分と戦うようなものですね。」
視聴者も獄寺ちょこも、誰も見たことのない、流血する美織がそこにいた。
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