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第142話 眠り続ける彼女

【確定ドロップアンケート。

  1.ホーンモビーディックのアンバーグリス(60.0%)

 2.ホーンモビーディックのヴァイオリン(40.0%)


 ホーンモビーディックのアンバーグリスが選択されました。】


:うおおおおおおおおおやったああああ!

:高難易度深淵クラスを倒した!

:誰も倒せなかったダンジョンをクリアするとか!

:日本も特例開始するべきだよな

:実質Sランクだろ!


 コメント欄も興奮しきりだ。

 美織の目の前に、巨大な大理石のような石が現れる。


「アンバーグリスは知っているけど、ヴァイオリンのほうが珍しいから興味があったわね。」


「ホーンモビーディックのアンバーグリスがどんなものかご存じなんですか?」

 美織が阿平を振り返る。


「アンバーグリスは魅惑の香水を作る材料の1つね。それこそ誘惑ほどの効果はないけど、他人に対する自分の魅力度をアップ出来る物よ。自分に対して好意的な人間に、更なる好感を与える効果があるの。」


「ええと……、普段よりもちょっと綺麗に見えるとか、そういうことですか?」


「少し違うわね。例えばあなたのことを可愛いと思っている人が、ホーンモビーディックのアンバーグリスを使った魅惑の香水の香りに触れると、抗いたくないくらい好きになってしまう、という感じかしら。」


「はあ……。サキュバスの淫紋みたいな感じなんですね……。」

「性的興奮を必ずしも覚えるわけじゃないから、似ているようで少し違うけれどね。」


 と阿平が笑う。

「だけどこのヴァイオリンは知らないわ。どんな効果があるのかしら?」


 阿平はアンケートの結果を見て首をかしげる。戦ってる最中は配信が見られなかったので、今初めてスマホで確認している感じだ。


「ビビッド、何かわかりますか?」

 美織は肩の上のビビッドに尋ねる。

「はい!説明するのです!ホーンモビーディックのヴァイオリンは、相手の動きを止める効果があるのですな!」


「さっきの物凄い音みたいのを出すということですか?」

「いいえ、違うのです。音色自体は普通のヴァイオリンと同じなのですな。」


 ビビッドはふるふると首を振る。

「誰かが演奏しなくても勝手に音を鳴らすものですが、演奏も出来るのですな。止められる時間は相手のレベルに応じて、高ければ高いほど短くなるのですな。」


「なるほどね……。たとえ数秒であっても、深淵以上の魔物の動きを止められるというのは、かなり戦術的に魅力的だわ。その数秒が命をわけることだってあるもの。」


 顎に手を当てながら阿平が言う。

「確かにそうですね。“異界の門”での戦闘でも、威力を発揮しそうです。」

 美織もそう言って頷く。


 演奏しなくても勝手に音を鳴らしてくれるというのであれば、演奏する為に誰かが攻撃や防御を犠牲にすることもない。だがアンケートでは選ばれなかった。


「配信を観ている余裕があったら、アンケート結果を誘導したいところだったわね……。ホーンモビーディックのヴァイオリンがあるとないとでは、戦略の立て方がまるで違ってくるわ。得られなくなってしまった、数秒の分をどうするか考えないと。」


 顎をつまむように指を当てて、阿平が何事か考えている。仕方がないとはいえ、得られた筈のヴァイオリンを得られなかったのは痛かった。


 後日、朝霞ダンジョンクリアの映像を証拠として提出したダンジョン庁は、未成年の美織を特例で討伐隊に参加させる許可と、“異界の門”の配信許可をもぎとった。


 “異界の門”はテロリストが侵入経路に使っているということもあり、どの国もその正確な位置を公表しない。国民の不安をいたずらにあおるからだ。


 当然映像記録を公開したこともなければ、配信などにものせたことはない。今回の配信が世界で初の“異界の門”の公式映像となる為、殆どの人間は知らないことだが、世界中の上澄みの探索者たちの注目を集めていた。


 美織の参加が決まったことで、メイソン・オーシャンの正式な参加も決定した。

 これがダンジョンブレイクや、海外の高難易度ダンジョン攻略などであれば、有名な探索者が参加することをマスコミが大々的に報じるところだが、“異界の門”はあまり表沙汰にすべきものではない為、ダンジョン庁内部で書類が決済されたにとどまった。


 その時アメリカにいたメイソン・オーシャンは、電子署名で“異界の門”討伐クエストの参加書類にサインをしていた。


 契約書がメールで届いたタブレットから目を離し、目の前でベッドに横たわる、愛しい妻の寝顔を見つめた。


Go meet the person君を眠り姫にした奴に会いに行くよ who made you a sleeping beauty.」

 メイソン・オーシャンの声に、妻は何の反応も示さなかった。


The same monster日本に同じやつが出た appeared in Japan.」

 もちろんメイソン・オーシャンの妻、アイリス・オーシャンを眠らせた魔物とは別個体だが、メイソン・オーシャンは討伐に強い執着を持っていた。


 それでも、当時のアメリカNO.1だったアイリスが勝てなかった魔物に、自分1人で挑んで勝てるとは思っていない。


 美織がいるならきっと勝てる。可愛いさかりの娘を残し、眠りにつかなくてはならなくなった妻の為に、どうしてもを倒したかった。その為に美織の力が欲しかった。


 “異界の門”をクリアしたら、アメリカのも討伐に協力してもらえるよう依頼しよう。メイソン・オーシャンはそう思いながら、今日も妻に少しでも刺激を与えられるよう、その手を握って祈りを込めた。


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