「ダンジョンの壁の中にこんなものが……。しかも魔物のリポップを、これが行っているというんですか!?」
「映像を見る限りは間違いはないようだ。」
ダンジョン協会は、美織のもたらした報告に、上層部が集まって会議を行っていた。
ダンジョンそのものを作っている原因かもしれない物体、かつ、魔物をダンジョンに配置している物体が見つかったのだから。
「こんなことは前代未聞の事態だ。」
「魔物のリポップ回数を把握している上位探索者からも、“これ”の位置が報告されたことはありませんでしたからね……。」
「魔法陣がもとになっているようだから、現代科学の産物でないことはわかる。だがそれだけだ。誰がこんなものを、人の手の届かない地下に設置できるというのか……。」
「そもそも、今でこそ我々は魔物の恩恵を受けていますが、探索者が現れるまでのダンジョンは、ただひたすらに人類の脅威でした。
これまではただの自然現象だと思われていましたが、そのことを踏まえると……。」
「あの青い◆次第では、いつでも各国にダンジョンブレイクをおこし、スタンピードを引き起こすことが可能というわけですよね。」
「そうなれば、世界中が人質に取られたようなものだな……。」
「早急にあの青い◆を調べて、どこから送り込まれた物かを調べる必要があるかと。」
「もちろん検証は必要だが、リポップの為の位置や回数を把握している上位探索者たちに協力をあおぎ、かつ結界を切れる道具が必要になってくるな。」
「その結界を切る道具ですが、どうやら高坂依織の作品のようです。同じ物を作らせれば、我が国では先行して調査が可能かと。」
「“異界の門”の討伐クエストも控えているというのに……。」
年配の男性は、眉間に寄ったシワをほぐすように指でつまんだ。
「高坂依織は、その“異界の門”の討伐メンバーに抜擢されています。今すぐ作らせるのは難しいでしょうね。」
「既にあるものを借り受けることは出来ないのか?」
「今回未成年で討伐メンバーに参加することになった、高坂美織の主力武器ですので、それは難しいかと。」
「そうか……。」
「“異界の門”討伐クエスト達成後に、依頼するしかないでしょうね。」
「しかしことは一刻を争う可能性がある。」
「協会本部にも共有し、各国で先んじて調査を進めてもらう他ないのでは。」
「我が国が発見したものですし、こちらで調査を進めたいのはやまやまですが、今まであれが誤作動などをおこし、ダンジョンブレイクに至らなかったのは偶然の産物である可能性も否めません。」
「うむ……。」
「早急に対応を相談しましょう!」
「そ、そうだな、そうしようか……。」
日本の手柄にすることをギリギリまで悩んでいたが、結局すぐに動けそうな他国のダンジョン協会支部に手渡すことにした。その会議に参加していた1人の女性は、銀縁の眼鏡を油断なく目を光らせていた。
──その頃、とある場所では、同じように緊急会議が繰り広げられていた。
「あれが見つかった、だと?どういうことだ。結界の中に隠されていた筈だろう。」
「偶然の産物ではありますが、壁の中を透視することの出来るアイテムを手に入れた人間がいて、それが映像として残り、かつ結界を切ることの出来る武器を持っていた為に詳しく調べられたようです。」
「壊されたのか?」
「いえ、それはまだ……。ですが、忍び込ませている配下の報告によると、あちらの世界の世界規模で調査が入る模様です。」
ざわつく会議内。
「“あれ”はこちらの世界の物質で作られている。壊そうとしたところで、人間ごときに簡単に壊されるとも思えないが、見つかるというのは厄介だな。」
「はい。よもやこんなところで、ダンジョンの秘密が探られることになろうとは。」
「きたる時に一斉に動かすのでなければ意味がない。ダンジョンが当たり前にあちらの世界に受け入れられるようになるまで、これまで多くの時間を必要とした。」
「よもやいつでも魔物を溢れさせることの出来る転送装置が、国内の至る所に設置されているのだとは、思いもしないでしょうね。」
「だからこそ、今はまだその時ではない。結界を壊す道具を持っている人間などというものは、そう数はいないだろう。それさえどうにかしてしまえば問題はない。現地にいる部下たちに、人知れず処分するよう指示をおくるように。」
「はっ。」
世界各国に散らばる“部下”たちに、結界を壊す道具を持つ人間を探し出し、道具を一時的に使えなくする、または人知れず処分するよう指示が下る。
日本のダンジョン庁職員として潜入している部下たちにも、その指示が下された。
「“あちら”から新たな司令があったわ。結界を壊す道具を確保、または一時的に使えなくするようにとのことよ。」
「持ち主は把握しているんですか?ダンジョン庁では確保していないですよね?」
「高坂美織が所持、及び高坂依織が制作可能だということは把握出来ているわ。あの2人をおさえれば問題はない。」
「“異界の門”に入る前に可能でしょうか?」
「難しければその後でもいいわ。ようは調査の前まで所持していなければいいのだから。似た武器を作ってすり替えましょう。それと元となる素材をドロップする魔物は、当分出さないことになったわ。」
「わかりました。」
「忙しくなるわね……。」
ダンジョン庁職員、柊奈々の名を持つ女性は、眼鏡をクイと上げつつそう言った。
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