「町にこれ以上近づけさせるな!食い止めるんだ!!」
探索者たちが次々と魔法を放つ。
一人ひとりは大した攻撃力ではないが、ダンジョンの中にいた全員による一斉攻撃だ。それなりにダメージを与えられたのか、魔法が当たった部分に穴があいたドレインミストは、穴を塞ごうとするかのように、霧をいくつもあいた穴に向けて集めだす。
そしてドレインミストがふわり……とその体を大きく広げると、どんどんとその範囲をのばしていき、霧に触れた人々が、突然バタバタとドミノのように重なるように倒れてしまった。
撮影を強行していた配信者たちも、それを押し留めようとしていた機動隊も、交通整理をしていた警察官たちも、周辺にいた人間たちが軒並みやられてしまった。
無事だったのは、霧が伸びてくる気配を察知して、距離を取ったある程度のランクの探索者たちだけだ。
周囲にいる生き物のHPを奪う為、生き物がいればいるほど、自らを回復し、倒しにくくなるという、ダンジョンで出て来る魔物としては、大量の人々が逃げずにこの場に残っている環境としては、最も相性最悪なタイプだった。
ドレインミストは吸収したHPをもとに、体の穴をあっという間に塞いでしまう。
霧に近接攻撃や弓矢の攻撃は通らない。
魔法使いか、属性攻撃の出来る魔物をテイムしているテイマーか、剣に魔法をまとわせることの出来る魔法剣士か、剣にオーラをまとわせることの出来るオーラナイトでないと、ドレインミストは倒せないと言われている。
だが魔法使いの数は、近接職に比べると少ない。当然この場にいる魔法使いも、探索者の数の3割程度だ。
おまけに深淵の魔物と戦えるようなレベルともなれば、当然この国には殆ど存在しない。それでも探索者たちは、崩れたダンジョンからドレインミストが離れていかないように、震えながらも攻撃の手を止めなかった。
しかし、どれだけ攻撃を繰り返しても、近くにいる人間が殆どいなくなっても、次々に崩れたダンジョンからわいてくる魔物たちが、ドレインミストのエネルギータンクとなってしまう。
「きりがねえぞコンチクショウ……!」
箱崎保が歯噛みしながら叫んだ。恐らく今頃は焼け石に水ではあろうが、自衛隊の出動許可を国が取ろうとしている頃だ。
また国中のAランク以上に緊急招集をかけ、近隣諸国の探索者たちにも、ダンジョン協会が救援依頼をかけている筈。
彼らが集まってくるまで持ちこたえることさえ出来れば、なんとか大きな被害を出さずに、ドレインミストを倒せるだろう。
ここが奈落まであるダンジョンではなく、深淵までだったのがせめてもの救いだ。
そう、思っていたのに。
ドレインミストは白い体を突然紫色に変化させた。毒々しい色があたり一体に広がっていったかと思うと、探索者たちは、急に肌や目がピリピリしだすのを感じた。
そしてその痛みはすぐに、激痛へと変わっていった。続いて真っ赤になり、血が吹き出していく。そして段々と肌が黒く変色していく。
それが毒のせいだとすぐに気がついたが、今この場で立っていられる探索者であれば、全員ある程度の毒耐性は持っている。
にも関わらず、耐性ごときでは耐えられない程の毒霧が、一気に体組織を壊し始めた。
「亜種か!?」
畑中慎一郎が叫ぶ。
権藤謙佑たちは、いざという時の為に用意してあった、キュアポーションですぐに毒やられを治したが、他人に配るほどは持ってはいない。それに噛みついて攻撃するタイプの毒持ちと違って相手は気体だ。
こちらが近付こうとする限り、どこまでも広がり、何度でも毒に犯してくる。
食い止めようにもろくに近付くことすら出来ない。ジリ貧だった。
それを上空から中継していたテレビ局のヘリは、探索者たちが手も足も出ないことをリポートしていたが、突然触手のように伸びてきた霧に一機が捕まった。
グイ、と引っ張られたヘリはそのまま地上に墜落し、爆炎の狼煙を上げる。それを見た他局のヘリは、慌ててドレインミストから距離を取り、遠くからでもドレインミストがいるとわかる位置から中継を再開した。
「……馬鹿どもが。調子にのるからだ。」
命をかけた危険な戦いに、高みの見物とばかりに、魔物の射程範囲もわからずに近付いて中継をしていたテレビ局に、権藤謙佑が呆れたように呟いた。
それでもまだ中継を諦めていないあたり、危険だから下がれと言われても、スマホで配信をしていた一般人とさして変わらない。
「テレビ局、いなくなりましたね。」
いつの間にか戻ってきていた美織が、権藤謙佑の隣に立っていた。
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