「隠れてたのか?」
「他の人の配信や、テレビに映るわけにいかなかったので。さすがに近すぎました。」
「ああ、顔を隠してるんだっけか。」
権藤謙佑は納得したように頷いた。今やドレインミストを近距離で配信しているのは、美織のチャンネルだけだ。それにつれて、どんどんと同時視聴者の数が増えていく。
「アンケートでダンジョンブレイクが防がれていたら良かったんですけど。言っても始まらないですね。今は魔物がいますから、そこから補充しているようですが、魔物のHPを奪い尽くしたら、町中に移動して人々を襲うでしょう。そうなる前にかたをつけないと。」
「それまでに増援が間に合えばいいんだが。下手に刺激しないで回復を防いだほうが、魔物のHPを奪わずに、このままここにとどまるだろうか?」
箱崎保が近寄って来て言う。
「いえ、おそらく無理かと。通常のダンジョンの魔物と違い、ダンジョンボスは、ダンジョンボスにとって最も過ごしやすい環境の中にいるものですから。ここはドレインミストにとって最適な環境とは言い難いですし。」
「いるだけで消耗するってこと?」
皇あかりが言う。
「霧にとって最適な場所は……水?」
諏訪野美咲が考え込むように言う。
「──海か!」
「おそらくは。」
畑中慎一郎の独り言に美織が答える。
「ここにいるだけで消耗するから、魔物のHPを奪い尽くしたら、人々のHPを奪いながら、海に逃げる可能性があるってことか!」
三喜屋城介が言う。
「ならそうなる前に食い止めるしかないが、魔法以外通らないとなると……。今いるメンツじゃ不可能だ。」
権藤謙佑がうなる。
「しかもどんどん魔物が溢れてきているわ。ダンジョンスタンピード一歩手前よ。ドレインミストにばかり気を取られてもいられない。一般の探索者たちには、そっちをどうにかしてもらわないと。」
皇あかりが、瓦礫を持ち上げながら湧いて出てくる魔物たちを見ながら言う。
「ちょっと試してみたいことがあります。」
美織はそう言うと、一歩前に出た。
「皆さん!あいつにビームを放ちます!スパチャの準備をお願いします!」
美織がコメント欄にそう呼びかけると、
:おっしゃ任せとけ!
:盛り上がってまいりました
:俺らがあれを潰す!
:俺らの熱に耐えられるかな?
:俺の右手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!
:いっけえええええ!
「赤スパビーム!!」
美織の突き出した指先から、ビームが放たれてドレインミストを大きく貫通した。
今まで小さな穴しか開かなかった体が、ぽっかりとその大半を失い、初めてその動きを鈍くした。が、次の瞬間、魔物たちの悲鳴が聞こえ始め、バタバタとその場に倒れていく。
周辺の魔物のHPをすべて奪い尽くし、ドレインミストは更に上空へと飛び上がって、途端に逃げ出した。
「──逃げるぞ!」
「追いかけろ!」
権藤謙佑の掛け声に、探索者たちが上空を見上げながらドレインミストを追いかける。
「ひとまず、ダンジョンスタンピードの可能性はこれで消えましたね。」
美織はニコッと微笑んだ。
「まさか、ドレインミストの性質を利用したの?」
皇あかりが驚いて美織を振り返る。
「1体ずつ、ドレインミストの攻撃をかいくぐりながら、みなさんが攻撃するのは、あまり現実的じゃありませんから。」
「まあ確かにね……。ドレインミストの毒霧を避けながら、攻撃してもらうのは確かに難しいわ。だったらドレインミストになんとかしてもらったほうがいいってことね。」
「はい。私たちも追いかけましょう。海に向かった筈です!」
「ええ!急ぐわよ!」
諏訪野美咲は、ダンジョンスタンピードの可能性がなくなったと、ダンジョン協会に報告を入れてから、美織たちの後を追った。
「いたわ!あそこよ!」
皇あかりが指差す先に、ドレインミストがいた。だが最悪なことに、巨大な観光客船にまとわりついている。
中には大量の人間がいることだろう。そこからHPを奪い取り、回復をしているようだった。甲板の上に倒れている人々の姿がなんとなく遠目で見える。
畑中慎一郎が水魔法を放った。だが、先程まではドレインミストの体を貫通した魔法は、ドレインミストの体に穴を開けることはなかった。
「!?どういうことだ!?」
「まさか……、水場に移動したことで、強化しているの!?」
驚愕している畑中慎一郎の横で、諏訪野美咲が焦ったようにそう叫ぶ。
「ダンジョンボスが最適な場所を用意されているというのは、こういう理由からか……。奴らにとって最も力を出しやすい環境が、ダンジョン内に用意されているんだ。」
「今までだって足止めにすらならなかったのに、これじゃどうにもならないわ……。」
皇あかりが絶望したように言う。
自身の攻撃は通らない為、魔法使いが襲われないよう盾の役目のつもりでここまで追っては来たが、肝心の魔法使いの攻撃が通らなくなってしまった。
「もう一度、さっきのビームを放てるか!?あれなら攻撃が通るだろう!」
権藤謙佑が美織を振り返る。
「いいえ、リスナーさんたちに何度もお金を使わせるのも申し訳ないですし、私が直接行きます。」
美織はスラリと剣を抜いた。
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有料連載依頼分の原稿があって、書籍化の改稿もあって、今非常に忙しいです汗
有料連載分は、先行配信だけ依頼先で、公開から少し間をあけて、カクヨム他で連載するよう依頼を受けているので、公開日が決まりましたらお知らせいたします。
そちらもよろしくお願いします。
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