「あれがその犯人の1人か。」
マジックミラーの向こうで、テーブルを挟んで取り調べを受けている、眼鏡姿の美女を見ながら、ダンジョン協会の職員が、刑事と話をしている。
「柊奈々。身分証は間違いありませんでしたが、経歴に書かれた学校の卒業アルバムや、同級生までも調査したところ、柊奈々はまったくの別人の見た目であるとわかりました。」
「整形した可能性は?」
「柊奈々はもともと170センチ近くあったそうです。目の前の女は、160センチもありません。」
「身長が伸びることはあっても、縮むことはありえないか⋯⋯。」
「実在の人物の身分証を使用しているということは、被害者が既にいる可能性があるということだ。」
別の刑事が言う。
「ダンジョンの崩壊にどのように関係しているかの事実関係は、今のところ何も出て来ていませんが、他人の身分証を使用して就職までしていたことで、ある程度拘束して尋問することは可能ですが、弱いですね⋯⋯。」
「ダンジョンの崩壊に関わりがあるという可能性は、犯人を捉えるというアンケートというスキルの結果と、彼らの体にかかっていたタスキだけです。それを証拠とすることは難しい。」
「何か話したか?」
「いえ、何も⋯⋯。」
「うむ⋯⋯。そちらはどうですか?」
刑事がダンジョン庁職員を振り返る。
「現在、法的根拠としての力はありませんが、話さない人間の内面を探るスキルを持つ人間に対応させる許可を待っています。彼女がダンジョン庁職員を名乗っていたのが幸いでした。内部監査の一環として、それを行うことが可能です。」
「ああ、噂のアレですか⋯⋯。」
「ええ。その為に、一度身柄をダンジョン庁に移していただく必要があります。」
「拘束期間が解かれる前に、実況見分としてダンジョン庁に送りましょう。」
「よろしくお願いします。」
例のアレ。とは、ダンジョン庁のブラックボックスに触れようとする人間をあぶり出す為、ダンジョン庁の職員にだけ実行可能な、スキルによる調査のことである。
ダンジョン庁には<読心>スキル持ちと、<洗脳>スキル持ちがいる。スキルによって得た情報に法的拘束力はないが、それを元に調査を行い、証拠を手に入れれば逮捕することも可能だ。
それを柊奈々に行おうというのである。他の2人の男性の協力者たちは、ダンジョン庁職員でなかった為、柊奈々にしか行うことが出来ないのだ。
世間一般の人間は知らない、ダンジョン庁の暗部である。
かくして柊奈々は、ダンジョン庁に密やかに移送された。
ダンジョン庁の地下深く。特別な身分証をかざさないと乗れないエレベーターで、柊奈々が取調室に移動させられた。
ダンジョン庁内部監査室。各省庁には内部監査の部署があるが、この場合の内部監査室は、警察でいうところの監察室に近い。
ダンジョン産の危険なドロップ品を、不正利用する人間がいないかなど、違反行為を調査・指導する役割を担う部署にあたる。
柊奈々のいる部屋に、内部監査室室長、武藤智春と、室長補佐官、春山美樹が入ってきた。武藤智春が<洗脳>スキル持ち、春山美樹が<読心>スキル持ちだ。
武藤智春が<洗脳>で弱らせたところに、春山美樹が<読心>で心の中を読む。常にこの2人のタッグで対象の捜査にあたる。
別名生きた自白剤。弁護士の介入出来る刑事事件と違い、ダンジョン庁の内部監査にはそれが通用しない。
本音を話すまで、調査を続行することが可能な為、その光景を見たことのある人間は、昭和のドラマや映画でしか見たことがない、と称するような、眠らせない、半ば拷問に近い調査方法なのである。
「さあ、始めようか。」
武藤智春が柊奈々に声をかける。警察では普通に椅子に座らされていた柊奈々は、現在はロープで椅子に拘束されている。
それだけでも、何をされるのかと戦々恐々とした様子が伺えた。
「君が正直に話すまで眠ることは出来ない。この中は治外法権だと思ってもらえればわかりやすいかな。君が音を上げるまで、いくらでも付き合うからそのつもりでね。」
久しぶりのこの捜査が行えることで、武藤智春はウキウキしていた。
「趣味が漏れてますよ。武藤さん。」
春山美樹が呆れたように言う。
武藤智春はドSだと言われている。一説によるとスキルは本人の性質も影響を受けることがあると言うが、武藤智春の場合は、まさに与えられるべくして与えられたスキルだ。
それも、こんな美女を仕事で拷問にかけられるのだから、ウキウキするなというのは無理な話だった。
「今夜は寝かせないよ♡」
恋人でも口説いているかのような甘い声音と口調で、武藤智春は柊奈々の肩に手を置いた。
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柊奈々「私にいやらしいことをするつもりでしょう。エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
と思っていたかどうかは不明。
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