「やめてよぅ、痛い、うぇ〜ん。」
男の子に髪の毛を引っ張られた、幼稚園児の女の子が泣き出した。
「ひろくん、い、痛がってるよ。」
びくびくと震えながら、別の男の子が、髪を引っ張っていた男の子の腕を掴む。
「えいすけ、じゃますんのかよ。じゃまするならお前もこうだぞ!」
ドン!とひろくんは、えいすけと呼ばれた男の子を突き飛ばして尻もちをつかせた。
「いたっ!」
「だいじょうぶ?」
女の子たちがえいすけに駆け寄ってくる。
「女にかばわれてやんの、ダッサ。」
腰に手を当てて笑うひろくん。その時、幼稚園の地面が急に揺れた。
「地震だ!」
「怖いよぅ。」
「ママ〜!」
「せんせー!」
怯えてすくむ子どもたち。そこに幼稚園の庭の地面が隆起して、ゴブリンたちが飛び出してくる。
「なにあれ?」
「知ってる!ゴブリンだ!」
ゴブリンは逃げられずに固まっている女の子たちに襲いかかった。
えいすけは女の子たちをかばうように前にたち、両手を広げてギュッと目を閉じた。
「やめろ!」
「ギャッ!!」
そこに誰かが下から何かを突き出して、それがたまたまゴブリンの目に刺さり、怯ませる。
「ひ、ひろくん……。」
血まみれの園芸用のスコップを、両手で握りしめ、えいすけの前に立っていたのはひろくんだった。
自分の力で持てる最大限の武器だ。大人用なのでしっかりと鉄で出来ており、先端が少し尖っている。
「あ、あぶないよ……。」
「おまえは、そいつらつれてにげろ!」
「で、でも……。」
「大人をつれてくるんだ!こういうときは、男が前に出るもんなんだ!」
ゴブリンから目を離さずにひろくんが言う。予想外のひろくんの行動に、さっき髪の毛を引っ張られた女の子も呆然としている。
「いこう。」
「でも。」
「ぼくらがいたら、ひろくんあぶないよ。先生をさがそう!」
「う、うん。わかった。」
「せんせー!ひろくんがー!」
ひろくんはゴブリンの目をじっと見つめてそらさなかった。
猛獣に出会った時は、決して目をそらしてはいけない。目を離した瞬間に襲ってくる、という話を知っていたからだ。
猛獣と同じなのかはわからないが、まるで獰猛な虎のように、目を合わせられたゴブリンは、ひろくんの様子をうかがっていた。
トイレで一瞬席を外していた先生が、慌てて戻ると、窓の外の光景に仰天した。
床の水拭き用のモップを取りに走りながら、
「田端先生、子どもたちをお願いします!それと警察に連絡を!」
と叫んだ。
「みんな、外に出ちゃ駄目よ!鍵をかけて中にいて!」
モップの柄を震える手で握りしめながら、それでもたった1人ゴブリンと対峙しているひろくんを救い出そうと庭に出る。
「ひろくん、こっちにおいで!」
「せんせー!来ちゃ駄目だ!」
ひろくんが目を合わせていたことで、様子をみていたゴブリンが、先生に向きを変えた。ゴブリンが飛びかかる。
「ひっ。」
腰をぬかし、モップを手にしたまま、その場にへたり込む先生。
「いやあああ!」
思わずモップを突き出すと、それがゴブリンの進行方向と合致して、動きを食い止めた。その隙にひろくんが後ろから追いついて来て、園芸用のスコップを思い切り突き出した。
「グガア。」
脇腹に当たったが、目と違って貫通まではしなかった。武器にするには鋭利さと頑丈さが足らなかった。
先端がくにゃりと曲がり、圧だけをほんの少し与えた程度。ゴブリンの手が、スコップを握ったままのひろくんの腕を掴み、ブラリとぶら下げる。
相手が園児とはいえ、とんでもない力だ。
「ひろくんを離しなさい!」
目の前の園児の危機に、さすがに勇気を奮い起こした先生が、モップを構えて立ち上がった。
「きゃあっ!!」
ゴブリンがひろくんを先生に投げつけ、先生は再び尻もちをついた。
いち早く立ち上がったひろくんは、先生が取り落としたモップを掴んで構えた。だいぶ重たくて、先端を短く持って、ギリギリ持っていられる程度。
それでもひろくんは先生をかばって退かなかった。
「ひろくん……。」
大きな窓に張り付いて外を見ていた子どもたちは、大声で頑張れと叫びだした。
ひろくんが勝てるわけもないことがわからない、無責任な、子どもだからこその応援。ひろくんに髪の毛を引っ張られていた女の子も、ひろくんを応援していた。
「ひろくん駄目よ、先生と逃げよう!」
後ろからひろくんに抱きつく先生。
「今目をはなしたら、どこに行くかわからないよ。それに背中を見せたら襲ってくるよ。ここで大人を待つのが正解だよ。」
「それは先生がやるから!」
「だめだよ、先生は女のひとだもん。こういうとき、前に出るのは男のしごとなんだ。」
ひろくんは一歩も譲る気がなかった。
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久々の更新です。体調の悪さ&まもののおいしゃさんという作品の書籍化の改定があり、こちらに時間が取れませんでした汗
なんと反映の最終チェックを数秒前に終えました笑
発売日が公開出来るようになりましたら、こちらでもお知らせ致します。
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