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第161話 新たな崩壊

「やめてよぅ、痛い、うぇ〜ん。」

 男の子に髪の毛を引っ張られた、幼稚園児の女の子が泣き出した。


「ひろくん、い、痛がってるよ。」

 びくびくと震えながら、別の男の子が、髪を引っ張っていた男の子の腕を掴む。


「えいすけ、じゃますんのかよ。じゃまするならお前もこうだぞ!」

 ドン!とひろくんは、えいすけと呼ばれた男の子を突き飛ばして尻もちをつかせた。


「いたっ!」

「だいじょうぶ?」

 女の子たちがえいすけに駆け寄ってくる。


「女にかばわれてやんの、ダッサ。」

 腰に手を当てて笑うひろくん。その時、幼稚園の地面が急に揺れた。


「地震だ!」

「怖いよぅ。」

「ママ〜!」

「せんせー!」


 怯えてすくむ子どもたち。そこに幼稚園の庭の地面が隆起して、ゴブリンたちが飛び出してくる。


「なにあれ?」

「知ってる!ゴブリンだ!」

 ゴブリンは逃げられずに固まっている女の子たちに襲いかかった。


 えいすけは女の子たちをかばうように前にたち、両手を広げてギュッと目を閉じた。

「やめろ!」


「ギャッ!!」

 そこに誰かが下から何かを突き出して、それがたまたまゴブリンの目に刺さり、怯ませる。


「ひ、ひろくん……。」

 血まみれの園芸用のスコップを、両手で握りしめ、えいすけの前に立っていたのはひろくんだった。


 自分の力で持てる最大限の武器だ。大人用なのでしっかりと鉄で出来ており、先端が少し尖っている。


「あ、あぶないよ……。」

「おまえは、そいつらつれてにげろ!」

「で、でも……。」


「大人をつれてくるんだ!こういうときは、男が前に出るもんなんだ!」

 ゴブリンから目を離さずにひろくんが言う。予想外のひろくんの行動に、さっき髪の毛を引っ張られた女の子も呆然としている。


「いこう。」

「でも。」

「ぼくらがいたら、ひろくんあぶないよ。先生をさがそう!」


「う、うん。わかった。」

「せんせー!ひろくんがー!」

 ひろくんはゴブリンの目をじっと見つめてそらさなかった。


 猛獣に出会った時は、決して目をそらしてはいけない。目を離した瞬間に襲ってくる、という話を知っていたからだ。


 猛獣と同じなのかはわからないが、まるで獰猛な虎のように、目を合わせられたゴブリンは、ひろくんの様子をうかがっていた。


 トイレで一瞬席を外していた先生が、慌てて戻ると、窓の外の光景に仰天した。

 床の水拭き用のモップを取りに走りながら、


「田端先生、子どもたちをお願いします!それと警察に連絡を!」

 と叫んだ。


「みんな、外に出ちゃ駄目よ!鍵をかけて中にいて!」

 モップの柄を震える手で握りしめながら、それでもたった1人ゴブリンと対峙しているひろくんを救い出そうと庭に出る。


「ひろくん、こっちにおいで!」

「せんせー!来ちゃ駄目だ!」

 ひろくんが目を合わせていたことで、様子をみていたゴブリンが、先生に向きを変えた。ゴブリンが飛びかかる。


「ひっ。」

 腰をぬかし、モップを手にしたまま、その場にへたり込む先生。


「いやあああ!」

 思わずモップを突き出すと、それがゴブリンの進行方向と合致して、動きを食い止めた。その隙にひろくんが後ろから追いついて来て、園芸用のスコップを思い切り突き出した。


「グガア。」

 脇腹に当たったが、目と違って貫通まではしなかった。武器にするには鋭利さと頑丈さが足らなかった。


 先端がくにゃりと曲がり、圧だけをほんの少し与えた程度。ゴブリンの手が、スコップを握ったままのひろくんの腕を掴み、ブラリとぶら下げる。


 相手が園児とはいえ、とんでもない力だ。

「ひろくんを離しなさい!」

 目の前の園児の危機に、さすがに勇気を奮い起こした先生が、モップを構えて立ち上がった。


「きゃあっ!!」

 ゴブリンがひろくんを先生に投げつけ、先生は再び尻もちをついた。


 いち早く立ち上がったひろくんは、先生が取り落としたモップを掴んで構えた。だいぶ重たくて、先端を短く持って、ギリギリ持っていられる程度。


 それでもひろくんは先生をかばって退かなかった。

「ひろくん……。」

 大きな窓に張り付いて外を見ていた子どもたちは、大声で頑張れと叫びだした。


 ひろくんが勝てるわけもないことがわからない、無責任な、子どもだからこその応援。ひろくんに髪の毛を引っ張られていた女の子も、ひろくんを応援していた。


「ひろくん駄目よ、先生と逃げよう!」

 後ろからひろくんに抱きつく先生。

「今目をはなしたら、どこに行くかわからないよ。それに背中を見せたら襲ってくるよ。ここで大人を待つのが正解だよ。」


「それは先生がやるから!」

「だめだよ、先生は女のひとだもん。こういうとき、前に出るのは男のしごとなんだ。」

 ひろくんは一歩も譲る気がなかった。


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久々の更新です。体調の悪さ&まもののおいしゃさんという作品の書籍化の改定があり、こちらに時間が取れませんでした汗

なんと反映の最終チェックを数秒前に終えました笑

発売日が公開出来るようになりましたら、こちらでもお知らせ致します。


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