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第162話 国内Sランク2位、蛭巻条之進

「男の子である前に、大人に守られるべき子どもなのよ!いいから、早く!」

 押し問答している時だった。


 盛り上がった地面の裂け目から、次々とゴブリンが飛び出してくる。これはさすがにまずい。ひろくんは体が震えだした。


 ゴブリンたちが飛びかかって来たと思った瞬間、ひろくんはモップを突き出して、少しでも攻撃しようとした。だが次の瞬間、ゴブリンたちが切り裂かれた。


「女は生まれた時から女だが、男は男になろうとしなければ、なれぬもの。その心意気や見事。よく守った。……だが先生を心配させるのはよくないな。」


 白髪に白いあごひげの老人が、日本刀を腰の鞘にしまいながら、ひろくんに微笑んだ。

 地面の裂け目から、また新しいゴブリンが飛び出してくる。


「あとは任せておけ。」

「おじいちゃん!」

「おう、えいすけ。迎えに来たらえらいことになっとるな。」


「ひろくんを、ひろくんを助けて!」

「任せとけ。おじいちゃんはこれでも、現役の国内Sランク2位だからな!」


 ニッカリ笑った老人は、ひろくんを連れて幼稚園に逃げていく先生を守りつつ、ゴブリンに日本刀を向けた。

「下がって下さい!」


 そこに、報告を受けた警察が現れる。機動隊と探索者たちが到着するまで、少しでも安全に民間人を逃がす役割を担っているのは警察だ。


 低位の魔物であれば、拳銃の弾がきく。だがこうも住宅が密集している場所では、法律がある為発砲することが出来ない。携帯だけは許可されているが、飾りのようなものだ。


「お前たちこそ下がっていろ。ここじゃ発砲は出来んだろう。わしは蛭巻条之進ひるまきじょうのしん。Sランクだ。ここはわし1人でじゅうぶんだ。」


「Sランクでしたか!それは失礼いたしました!」

 警察官たちはホッとしたような表情を浮かべた。


 亀裂からはミルメコレオが姿を現した。獅子の上半身と蟻の下半身を持つ、気味の悪い魔物だ。獅子の口が肉を食べても、蟻の腹がそれを消化出来ない為に栄養が取れず飢え続け、さらに凶暴に肉をむさぼるとされている。


「ほっほ。ずいぶんと珍しいものがおる。」

 楽しげに笑った蛭巻は、口からよだれをたらしながらこちらに牙を向ける、ミルメコレオが飛びかかった瞬間、スッとかわして胴体を獅子と蟻に切り分けた。


「さあて、どのくらいで尽きるかな?この庭を埋め尽くして置き場がなくなる前に、尽きてくれればよいんだがな。」

 余裕の素振りで、近隣住人たちを避難誘導する警察にちらりと目配せした。


 その頃、再びダンジョンが崩落したとの知らせに、ダンジョン庁内は大騒ぎだった。

「地下のあいつらが犯人なんだろう!?」

「他にも仲間がいたということか!?」


 コンコン、と部屋の扉が叩かれて、外の見張りがドアを開けると、男が入って来た。

「──おい、取り調べはいったん中断だ!ダンジョンが再び崩壊した!近隣の安全が確認され、状況が掴めた後で再開とのことだ!」


「関係性を今聞きだしたほうがいいんじゃないのか?崩れたばかりだぞ?」

 武藤智春は、これからなのに、という表情を隠しもしないで言った。


「俺は待機指示を伝えるようにとしか聞いていない。」

「やれやれ。またフラットになっちゃったら、前回よりもかけ金を外すのが大変になることもあるのに。」


 武藤智春は肩をすくめながら、春山美樹と共に部屋を出て、地上行きのエレベーターに乗って、上階へと戻って行った。


「あとはこちらで見張る。あんたも出てくれ。鍵をかける。

 ──あ、あんた何やってんだ。」


 見張りの男が中に声をかけつつ、扉の中を覗くと、中に入った男が、柊奈々に手をかざして、その頭上に黒い円が展開していた。


 そして、柊奈々が座っていた椅子ごと、上から下へとそれが移動し、飲み込んでいく。

 瞬きをしないまま、男は見張りの男にも同様に手をかざした。


 黒い円が、上から下に見張りの男を飲み込んでいく。暗闇に包まれた見張りの男が、次に明るさを感じた時、そこはゴツゴツした石壁に囲まれた広いスペースだった。


 目の前に半ば意識を失った柊奈々と椅子が倒れている。見張りの男は知る由もなかったが、そこは崩壊中のダンジョンの中だった。


「ひっ!?ひいいいいい!?」

 目の前に、マンティコアが現れ、ガアッと吠えた。見張りを担当してはいたが、ほんの少し人より戦えるという程度。


 ダンジョン庁の職員にも、スキル持ちはたくさんいたが、彼は戦闘に特化した人間ではない。地上に行く為には、特別な許可証がないと動かないエレベーターがあるので、専門職の人間を見張りにはしていなかった。


 しかも手元には武器もない。尻もちをついたまま、ただ足をばたつかせて後ずさることしか出来なかった彼は、マンティコアにひと噛みで噛み殺された。


 気絶したままの柊奈々にも、マンティコアがのそりと覆いかぶさると、その頭にくらいついたのだった。


「⋯⋯生体反応消失を確認。目標の清掃完了が認められたと報告します。」

「了解。」


 柊奈々と見張りの職員を崩壊するダンジョンに送り込んだ男が、ダンジョン庁の裏庭のような場所で、通信機らしきものを通じて、どこかからの報告を受けていた。


 男は悠々と、さも休憩から戻って来たかのように、ダンジョン庁の中へと戻って行くと、自分の部署へと戻って行ったのだった。


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