「兄ちゃん、これは掘り出しものだ。本来なら25マニーだけど、特別に35マニーで買い取ってやろう」
「えっ」
俺は思わず声を上げた。ここはポポナで一番大きな道具屋だ。闇じゃない。公式の道具屋。武器や防具を売っている店で、買い取りもしてくれる。冒険先でアイテムをゲットしたら、ここで売って金に換えるんだ。
公式は闇と違って売却値段は高くて、買取価格は安い。だけど、きちんとした物を売ってくれるし、ウソをつかない。闇は値段が格段に安いものもあるが、そういうのは何かしら訳ありで、自分で修理したり、納得済みで買う必要がある。いわゆるジャンク品だ。
要するに、俺たちみたいな初心者向きじゃない。だから多少、買い取りが安くても公式を使う。その公式で高く買ってもらったものだから、驚いて声を上げてしまった。
「ほれ、ここを見ろ」
禿げ上がった頭に口元を覆う白い髭。垂れ下がった眉毛の下の目は、ギラリと鋭い眼光を放っている。俺と同じくらいチビのくせに、やけに迫力がある。今までどれだけの道具を鑑定してきたのだろう。いかにも目利きといった道具屋の爺さんは、俺が持ち帰った杖の先っぽを指差した。
グネグネとうねった木の杖というだけで、大して観察しなかったので気が付かなかったが、指差す先には、何かをはめ込むためのくぼみが、明らかに人為的に掘られていた。
「これは、ジェムを入れるための穴だ。おそらくこの杖の持ち主はそれなりの魔法使いで、さまざまなジェムを使いこなしていたのだろう。ただの杖ならば安いものだが、こういう特製ならば話は別だ。ジェムがついていれば、もっと高く買ってやったんだがな」
爺さんはそう言うと前歯をむき出しにして、俺にニヤリと笑いかけた。
ジェムというのは、簡単にいえば魔法の宝石みたいなものだ。そうそう、ジュエルと一緒。いろいろな種類があって、使う魔法のパワーを増幅させたり、つけるものによって違う魔法が使えたりする。マジックアイテムの一種だな。
じゃあもう一度、あのダンジョンに戻って、ジェム探しをしたらいいんじゃね? どこかに、この杖についていたジェムがあるはずじゃね? 金を受け取りながら、そう思った。
「ほら、手帳を出しなさい。これは立派な戦利品だ。認定してやろう」
「えっ!」
また驚いて声を上げてしまった。いや、もう見栄を張って経験がある冒険者のふりをするのはやめよう。この爺さんには、ど素人の駆け出しビギナーだってことはバレている。俺はポーチからまだ真新しい冒険者手帳を出すと、爺さんに手渡した。
「そうだな、すぐにレベル2を認定してやってもいいのだが、まあ、1にしておこう。レベルが上がるありがたみを噛み締めんとな。ほら、頑張りなさい」
爺さんは手帳に握り拳くらいある大きなスタンプを押すと、俺に返してきた。
レベルというのは、冒険者がどれくらい経験を積んでいるかということを示す指標だ。こうやって冒険に行き、戦利品を持ち帰ると公式の道具屋なんかで認定してもらえる。
ああ、そうだ。公式っていうのが何か、説明しておかないとな。イースには王様がいて、道具屋とか武器屋とか、あるいはベテランの冒険者を公式と認定しているんだ。そこで認められれば、レベルが上がる。俺たち冒険者が持っている手帳に、王家公認のスタンプを押してもらえるというわけだ。
だけど、認定してもらっていない冒険者もたくさんいる。だって、面倒だろう。何も持ち帰らない(持ち帰れない)冒険だってたくさんあるし、認定してくれるのは公式の店舗で、レベルが上がって自ら目利きができるようになれば、多くの冒険者は闇の店舗で売り買いすることが多くなるからだ。だって、闇の方が安く買えて、高く売れるんだから。
そういうなりゆきで、非認定のレベルが発生する。簡単にいえば、自称だな。ウルリックは、そんな非認定レベル4の魔法使いだった。
「ありがとう! 頑張ります!」
俺は素直にお礼を言って、店を出た。