向かいの店の前で、ベンとウルリックとエドワードが待っていた。こうして3人並び立つと、実にむさ苦しい。ベンとエドワードは単体でヤバいが、そこに見てくれだけイケメンのウルリックが挟まっていることで、胡散臭さが際立っている。
「俺たちの晩飯代は稼げたか?」
スタスタと近づいてきたウルリックは、図々しく手を差し出した。なんでお前に渡さなきゃいけないの?っていうか、俺たちってどういうこと? 俺の戦利品を俺が換金してきたんだから、俺の金だっつーの。
遅れてきたベンも、何食わぬ顔をして俺に手を差し出してきた。
「リーダーの取り分をよこせ」
何を言っているんだ。そんなもの、あるわけないだろう。そもそもリーダーらしい働きなんて、何一つしてないじゃないか。
「パーティーの売り上げの3割はリーダーのものだ」
これっぽっちも表情を変えずに抜け抜けと言っているが、意味がわからない。それに、そんなルール、初めて聞いた。
「何言ってんだ。リーダーならリーダーらしいことをしてから言えっつーの」
ベンの後ろでエドワードがブヒイッとうめいた。
だが、残念ながら俺は今回、この金をこいつらに分けてやらないといけない。というのも、これから俺たちは女子メンバーを勧誘するために、酒場に行くからだ。酒場に入った以上、水を飲んでいるわけにはいかない。そもそも、水しか飲んでいない男と仲良くなろうなんて女子はいない。
しかし、俺以外のメンバーは今、無一文だ。いやホント。マジで金を持っていない。だから、たかだか35マニーだけど、これを分けてやらないといけない。一人当たり8マニー。安いドリンク一杯ならなんとか注文できる。
「いいか、これはこれから行く酒場で、飲み物を注文するための金なんだからな。絶対に他のことには使うなよ」
俺は念を押しながら、3人に8マニーずつ渡した。ウルリックは「ウヒョオ、クリスは気前がいいな! ありがとさん!」と小躍りしている。勘違いするな。ただでやったわけじゃない。もちろん後でしっかり返してもらうつもりだ。
まだ日は高かったけど、善は急げということで、早々に街で一番大きな酒場に入った。
ポポナは比較的、治安のいい街なので、酒場といっても健全だ。ランチタイムは食堂で、夕方から居酒屋になる。昼飲みも可能だが、大抵の利用者は、仕事を終えた夕方から飲み始める。
治安の悪い街だとこうはいかない。真っ昼間から飲んでいるのが普通だし、俺たちみたいな若造が立ち入ろうものなら「場違いだ」と追い出されるか、身ぐるみはがれるかのどっちかだ。俺がポポナに来たのは、初心者に優しい街だからというのもある。
酒場は宿舎を兼ねている。2階が宿で1階が酒場だ。だから、暇を持て余した宿泊客が中途半端な時間でも、よく酒場にいる。こいつらは大体、パーティーに参加していない冒険者だ。つまり、お仲間募集中ってわけ。暇な者同士が気に入った仲間を見つけてパーティーを組み、冒険に出かけていく。俺たちが狙っているのは、そういう冒険者で、なおかつ女子(こっち必須)なんだ。
酒場の中は暗かった。まあ、酒場というのは薄暗いもんだ。その方が雰囲気があるからな。それほど広くないスペースに所狭しとテーブルと椅子が並べられていて、入り口から見て左側はカウンター席になっている。その奥の壁際には、こんな田舎の街にしては多種多様な酒瓶が並んでいた。
夕食には早すぎるのに、思った以上に客がいてにぎわっている。ウルリックは店内を見回すと「おっ」と楽しそうな声を上げて、カウンター席の方に足早に行ってしまった。
ああ、なるほど。あれがターゲットだな。カウンター席に大柄な(チビの俺から見たら大概の人間は大柄だ)女性が座っていた。グラスを手に、カウンターの向こうにいる老いたバーテンダーと何か話している。