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第7話 いざ、出陣!

 向かいの店の前で、ベンとウルリックとエドワードが待っていた。こうして3人並び立つと、実にむさ苦しい。ベンとエドワードは単体でヤバいが、そこに見てくれだけイケメンのウルリックが挟まっていることで、胡散臭さが際立っている。


 「俺たちの晩飯代は稼げたか?」


 スタスタと近づいてきたウルリックは、図々しく手を差し出した。なんでお前に渡さなきゃいけないの?っていうか、俺たちってどういうこと? 俺の戦利品を俺が換金してきたんだから、俺の金だっつーの。


 遅れてきたベンも、何食わぬ顔をして俺に手を差し出してきた。


 「リーダーの取り分をよこせ」


 何を言っているんだ。そんなもの、あるわけないだろう。そもそもリーダーらしい働きなんて、何一つしてないじゃないか。


 「パーティーの売り上げの3割はリーダーのものだ」


 これっぽっちも表情を変えずに抜け抜けと言っているが、意味がわからない。それに、そんなルール、初めて聞いた。


 「何言ってんだ。リーダーならリーダーらしいことをしてから言えっつーの」


 ベンの後ろでエドワードがブヒイッとうめいた。


 だが、残念ながら俺は今回、この金をこいつらに分けてやらないといけない。というのも、これから俺たちは女子メンバーを勧誘するために、酒場に行くからだ。酒場に入った以上、水を飲んでいるわけにはいかない。そもそも、水しか飲んでいない男と仲良くなろうなんて女子はいない。


 しかし、俺以外のメンバーは今、無一文だ。いやホント。マジで金を持っていない。だから、たかだか35マニーだけど、これを分けてやらないといけない。一人当たり8マニー。安いドリンク一杯ならなんとか注文できる。


 「いいか、これはこれから行く酒場で、飲み物を注文するための金なんだからな。絶対に他のことには使うなよ」


 俺は念を押しながら、3人に8マニーずつ渡した。ウルリックは「ウヒョオ、クリスは気前がいいな! ありがとさん!」と小躍りしている。勘違いするな。ただでやったわけじゃない。もちろん後でしっかり返してもらうつもりだ。


 まだ日は高かったけど、善は急げということで、早々に街で一番大きな酒場に入った。


 ポポナは比較的、治安のいい街なので、酒場といっても健全だ。ランチタイムは食堂で、夕方から居酒屋になる。昼飲みも可能だが、大抵の利用者は、仕事を終えた夕方から飲み始める。


 治安の悪い街だとこうはいかない。真っ昼間から飲んでいるのが普通だし、俺たちみたいな若造が立ち入ろうものなら「場違いだ」と追い出されるか、身ぐるみはがれるかのどっちかだ。俺がポポナに来たのは、初心者に優しい街だからというのもある。


 酒場は宿舎を兼ねている。2階が宿で1階が酒場だ。だから、暇を持て余した宿泊客が中途半端な時間でも、よく酒場にいる。こいつらは大体、パーティーに参加していない冒険者だ。つまり、お仲間募集中ってわけ。暇な者同士が気に入った仲間を見つけてパーティーを組み、冒険に出かけていく。俺たちが狙っているのは、そういう冒険者で、なおかつ女子(こっち必須)なんだ。


 酒場の中は暗かった。まあ、酒場というのは薄暗いもんだ。その方が雰囲気があるからな。それほど広くないスペースに所狭しとテーブルと椅子が並べられていて、入り口から見て左側はカウンター席になっている。その奥の壁際には、こんな田舎の街にしては多種多様な酒瓶が並んでいた。


 夕食には早すぎるのに、思った以上に客がいてにぎわっている。ウルリックは店内を見回すと「おっ」と楽しそうな声を上げて、カウンター席の方に足早に行ってしまった。


 ああ、なるほど。あれがターゲットだな。カウンター席に大柄な(チビの俺から見たら大概の人間は大柄だ)女性が座っていた。グラスを手に、カウンターの向こうにいる老いたバーテンダーと何か話している。

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