アルリック公爵の邸宅では穏やかな日常が流れていた。しかし、EMIにとっては耐え難い退屈さだった。邸宅に到着してから3日以上が過ぎたが、彼女が望んでいた冒険の興奮とは程遠く、日々の単調な生活にうんざりしていた。彼女はテーブルの上で指をイライラと叩きながら、広い屋敷の静けさの中で何か刺激的な出来事が起こるのを願っていた。

一方、その邸宅の別の部屋では、アレックスが久々の休息を満喫していた。豪華なスパルームのベッドに横たわり、周囲を包む静寂な雰囲気を堪能していた。日々の戦闘で凝り固まった筋肉がマッサージによって解きほぐされ、彼は完全にリラックスしていた。目を閉じながら、「やっとゆっくり休める」と思い、微笑みを浮かべた。

「これこそが俺に必要な休息だな…」と呟き、次の冒険や戦闘の心配を忘れられるこの瞬間を楽しんでいた。

しかし、突然ドアが勢いよく開かれ、EMIが苛立ちを隠せない表情で現れた。

「さあ、刺激的な冒険の時間よ！」と彼女は特有の熱意で叫び、部屋の状況に気づかないまま突っ込んできた。

アレックスはため息をつき、これから起こることに備えた。しかし、EMIがアレックスにマッサージをしている人物に気づくと、彼女の顔色が変わった。部屋の中にはアリアがいて、アレックスの筋肉に触れながら何やらうっとりした表情を浮かべていた。彼女の目はハートで輝き、その様子はどこかロマンチックな雰囲気すら漂わせていた。これを見たEMIは苛立ちを隠せなかった。

「何してるのよ?!」とEMIは驚きと嫉妬が入り混じった声をあげた。

アレックスは起きている状況を見て、再び目を閉じながら長いため息をついた。「俺が『何も俺の休息を邪魔するものはない』なんて言ったのが間違いだったな…」と心の中でつぶやいた。

「わかったよ、わかった。冒険に行きたいなら行こう」と彼は立ち上がり、手を挙げて場を落ち着かせようとした。

「本当!?」アリアが嬉しそうに声をあげた。「じゃあ、鎧を着たほうがいい？それとも冒険にぴったりなドレスがいいのかしら？どんな服がいいと思う？」

EMIはその言葉にため息をつきながら不満げに答えた。「あなたは来なくていいわよ。」

しかし、アリアは負けずに父親であるアルリック公爵を見て自信満々に微笑みながら言った。「もうお父様から許可をもらったわ。アレックスと一緒に冒険に行くってね。あなたが何を言おうと私はついて行くから。」

EMIはアレックスを見て助けを求めたが、彼はまたしても疲れた表情でため息をついた。「もうこれ以上喧嘩するのはやめてくれ。冒険に行くなら、仲良くしてチームワークを発揮してくれ。」

不本意ながら2人の少女は頷き、アリアは旅の準備のため自室へと戻った。アルリック公爵はアリアに母親の形見であるネックレスを渡し、それを大切そうに身に着けた。

一行がギルドに向かう途中、アレックスは興味を引かれた様子でアリアに話しかけた。

「それで、君の魔法ってどんなものなんだ？」と彼は尋ねた。

アリアは満面の笑みを浮かべ、興奮した様子で説明を始めた。「私の魔法は『影の召喚術』って言うの。紫色のオーラと関係があるのよ。幽霊みたいな生き物を召喚して戦闘やお手伝いに使えるの。でもね…」と俯きながら続けた。「召喚するのはちょっと怖くて…。害はないんだけど、なんとなく不気味なの。」

アレックスは少し考え込みながら彼女を見た。「それだけの力があるんだから怖がることはないさ。それは素晴らしい力だよ。」

アリアは恥ずかしそうに微笑み、アレックスの腕にそっと手を添えながら可愛らしい表情で言った。「もし私が召喚して怖くなったら…アレックス、守ってくれるよね？」

これに嫉妬したEMIが2人の間に割り込むようにしてアリアをアレックスから引き離した。「調子に乗らないでよ、アリア！」と不機嫌そうに言った。

しかし、アリアは動じることなく続けた。「それに私は希少な生物と契約する能力もあるの。普通の人にはできないことよ。」

アレックスはしばらく沈黙し、情報を整理していた。「すごいな。アリアですらこんなにすごい力を持ってるなんて。まるで物語の主人公みたいだ…俺なんかただの脇役じゃないか。」

ギルドに到着すると、場の雰囲気は期待感で満ちていた。EMIとアリアが言い争う中、アレックスは周囲を見渡しながら物思いにふけっていた。「俺って本当に自分の人生の傍観者みたいだな…みんな俺よりもずっと重要で才能がある。」

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ついにギルドに到着すると、アリアは完全に魅了されたようだった。そこは彼女が想像していた通りの場所だった。陰鬱で古めかしく、壁にまで染み付いたような暗い雰囲気が漂っていた。目を輝かせながら、彼女はあらゆる隅々を指差して興奮気味に喋り続けた。

「すごい！こんなに古くて神秘的なんて！壁も、明かりも！この雰囲気、本当に…本当に興味深いわ！」と、まるで冒険者のギルドではなく博物館にいるかのように話し続けた。

近くにいたギルドのメンバーたちは、困惑した表情で互いに目を合わせた。アリアの言葉がこの場所を褒めているのか、それとも皮肉っているのか判断できずに戸惑っている様子だった。一部のメンバーは、彼女のコメントに少し緊張した様子を見せたが、彼女自身はまったく気づくことなく、その場の雰囲気に完全に夢中になっていた。

一方、EMIはアリアの態度に我慢できなくなり、顔をしかめて苛立った声で言った。

「いい加減にして！アリア、そんなことしてないで。ここは観光する場所じゃなくて、仕事をしに来ているんだから。」

それでもアリアは笑顔を崩さず、掲示板の方へ進み、掲示されている依頼を見ることに夢中になっていた。その後ろから、EMIは深呼吸して気持ちを落ち着けながらついて行き、真剣な表情で依頼を選び始めた。アリアは掲示板に貼られたさまざまな依頼に魅了され、止まることなく喋り続けた。

「見て！泥棒を捕まえる依頼とか、廃墟になったダンジョンの掃除とか、キャラバンの護衛とか！どれもすごくワクワクするわ！」と、アリアは心から楽しそうにコメントしながら掲示板を見て回った。

EMIはそれに対して苛立った口調で注意した。 「落ち着いて、アリア！依頼を選ぶのは慎重にしなきゃいけないのよ。ちゃんと集中させて。」

しかし、アリアはEMIの言葉を無視し、いたずらっぽい表情でアレックスに振り向いた。 「アレックス、私が依頼を選んでもいいかしら？」と、EMIが苛立つのを楽しむかのように尋ねた。

アレックスは、これ以上の緊張を生みたくなかったので、穏やかな笑顔でうなずいた。 「ここに来るのは初めてなんだから、アリアが選ぶ特権があってもいいんじゃないかな。」と、彼女が簡単でリスクの少ない依頼を選ぶことを期待して答えた。

アリアはいつものようにエネルギッシュに掲示板を注意深く見渡し、ひとつひとつの依頼をじっくりと読み込んでいた。そしてついに、あるものが彼女の目に留まった。

「これが完璧だわ！」と突然叫び、興奮気味にある掲示を指差した。

EMIは眉をひそめてその掲示を見た。それは一見簡単そうに見える依頼だった。「森に隠れ、男たちを騙して財産を奪い、命を奪う危険な女を捕まえる」という内容だった。しかし、その説明を読むうちに、アレックスは何かに気づいて表情を険しくした。

「待って…」と重い声で言い、その掲示をじっと見つめた。「この女は男を嫌っていて、女を愛しているらしい。男が近づこうとすれば、ためらいなく命を奪うと書いてある。」

アリアはアレックスの心配そうな表情を見て少し驚いたが、その顔に完全な理解は浮かんでいなかった。彼女の表情はまだ興奮に満ちていた。

「まぁ、それはそれで…面白いんじゃない？」と、危険性を全く理解していないかのように答えた。

EMIは不安げな表情でアレックスに警告した。 「冗談じゃないわ。これは危険な依頼よ。本当に彼女に選ばせるの？」

アレックスは心配そうだったが、揉め事を避けるために無理やり笑顔を作りながらうなずいた。 「わかった、アリアが選んだんだ。それでいい。ただ、くれぐれも注意しよう。この依頼は他のものとは違う。」

アリアは二人の真剣な会話には全く気づかないまま、嬉しそうに飛び跳ねてその掲示を受付に届けた。そして、アレックスはどこか不安な気持ちを抑えられずにいた。この依頼がどれほど難しいものになる

のか、心の中で静かに問いかけていた。

一方でEMIも、この一見簡単そうに見える冒険が、実は彼らが想像していた以上に危険なものになるかもしれないと感じ始めていた。