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第44話 巨大亀との戦い

 王都から真下の地下水路。


 直径こそ6メートルであり人であれば大きな空間であり通路だ。

 しかし全長15メートルを誇る巨大モンスターが生息するには狭さを感じられるだろう。


 巨大亀のザラタンは洪水防止用に設置された地下50メートルの放水路に潜伏しており根城にしていた。

 無論、その巨体が出入りできる通路は存在せず、ザラタンはそこで成長を遂げたと思わざるを得ない。

 だが人が踏み入れることのない大海を住処にするモンスターが何故に地下水路に潜伏していたのか。


 ……思い出したぞ。

 俺はこの顛末を知っている。

 確か原作で読んだことがあった。


 そう、あれはアルフレッドがタニングの都の襲撃から逃げ帰った後の話だ。


 クエストに失敗しハンス王子を見捨てたとフレート王達に糾弾され、さらに聖剣すら抜けず【英傑の聖剣】は失墜し団員達が次々と抜けて行った。

 そんなアルフレッドが起死回生として受けたクエストが今回の地下水路の調査クエストである。


 残った団員達を引き連れて向かったが、そこに潜伏していたモンスターが例のザラタンだ。

 思わぬ強敵にアルフレッド達は苦戦を強いられ団員達は次々と犠牲になった。

 その中にはカナデもおり、彼女はザラタンの嘴に噛まれてしまい片腕を食い千切られ、物語上はリタイヤ扱いとなっている。


 結局、アルフレッド達は尻尾巻いて逃げるという展開だ。

 またクエスト失敗として、ついに【英傑の聖剣】は解散となってしまった。


 そしてテンプレ通り主人公のローグがクエストを引き継ぎ、「やれやれ」とか言いながらヒロインのシズクを囮にしてザラタンを一撃で斃したという流れだ。


「……ザラタンは数十年前、密輸してきた悪徳商人がうっかり下水路に落としてしまったことで、そこに住み着き成長してしまったようだ。ドブネズミとか色々な物を捕食しながら少しずつな……そして衛兵達を食らうことで完全な巨大モンスターと化したんだ」


「アルフ、お前さんどうしてそんなこと知っているんだ?」


「まるで見ていたみたいですね?」


 ガイゼンとシャノンが首を傾げ訊いてくる。


「あっ、いや……あくまで憶測だよ、憶測。パール、そろそろ明かりを照らしてくれ」


 やべぇ、原作を読んだ知識とは流石に言ねぇ。


「わかった――〈光の輪ライトニング〉」


 パールの魔法により光の輪が作り出された。

 輪は一帯を明るく照らしながら、俺達の動きに合わせてついて来る。


「シズクは嗅覚と聴覚に意識し周囲に気を配ってくれ」


「わかりました、ご主人様」


「アルフ、アタシは斥候した方がいい?」


 俺の肩に座るピコは耳元で囁いてきた。


「いや敵の正体と居場所はわかっている。万一、遭遇したら単独じゃ危険だ」


「えへへ、優しいんだぁ。流石、アタシの彼氏だね」


 いつお前の彼氏になったんだよ?

 この妖精族フェアリー、こんな妄想癖キャラだっけ?


 急ぎ足で迷路上の水路を進んで行く。

 他にモンスターはいないようで、時折ネズミが逃げていく程度だ。


「モンスターの匂いが強くなっています。近いです」


 シズクが伝えてくる。

 もうすぐザラタンが根城とする放水路の空間だ。


「シズク、人族の臭いはどうだ?」


「はい、あります……ですが血の臭いも混じっています」


「クッ、急ぐぞ!」


 俺達は走り目的地へと辿り着いた。


 まるで神殿のように幾つも大きな石柱が建ち並ぶ。

 そこから覗くように凶悪な面構えをした巨大亀が佇んでいた。


 こいつがザラタン……コミック版通りの怪物だ。

 形状こそ亀だが、鋭い爪が生え甲羅には無数の棘が並んでいる。

 奴の嘴には一人の少女が咥えられていた。


「カナデ!?」


 間違いない彼女だ。

 既に右腕が食い千切られており大量の流血で水面を染めている。

 深手もあって顔面蒼白で意識がなく、ザラタンに咥えられたままぐったりしている。

 生死は不明だがヤバイ状況に変わりない。


「クソッ! マカ、ロカ、ミカ、スキルで俺達を強化してくれ!」


 俺は返事を待たず指示だけして疾走した。

 ザラタンは俺の存在に気づき、長い伸ばした首を捻らせ凝視してくる。


「「「わかりました――〈三位一体トリニティ〉!」」」


 三つ子の付与術士エンチャンターである小人妖精族リトルフの少女達が固有スキルを発動した。

 約5分間、【集結の絆】パーティ全員を3倍強化付与バフさせるスキルだ。


「――〈神の加速ゴッドアクセル〉!」


 ザラタンが攻撃を仕掛ける前に俺はその場から消えた。

 一瞬で奴との間合いを詰めた。


 ぎりぎり射程距離外だったか……。


 このまま右目の〈蠱惑の瞳アルーリングアイ〉で魅了してやりたいが、生憎対モンスター用ではない。

 魅了できるのは人族や魔族のような知的種族に限られている。


「ならば聖剣グランダー!」


 俺は飛翔し、鞘から聖剣を抜刀した。

 すると刃は伸長し、ザラタンの硬質された下嘴を切り裂く。

 流石は聖剣だ。

 所有者の意のままに形状を変化させ、おまけに斬れ味も抜群に優れている。


「グギャァァァ!」


 攻撃したことで時が戻り、ザラタンは悲鳴を上げる。

 咥えていたカナデを離した。


「カナデ!」


 俺は素早く移動し、彼女を両腕でキャッチし抱きかかえる。

 そのまま滑り込む形で水面に転がった。

 酷い損傷だ……血も多く失っている。

 しかし辛うじてだが息はあるぞ。


「ギイェェエェェ!!!」


 一方で嘴を斬られたザラタンは怒り狂い咆哮を上げた。

 通常なら口から破壊エネルギーを吐くらしいが、俺が与えた斬撃は舌まで達しており、それができないようだ。

 しかしザラタンの武器はそれだけじゃない。

 鋭い爪に巨体を活かした体当たりなど、強烈な攻撃力を持つ。


 反撃される前に、何か打つ手が必要なのだが……今はそれよりも一刻も早くカナデの治療を優先する――。


「シャノン、すぐ来てカナデを治癒してくれ! 他はザラタンを一時的でいい、食い止めろ!」


「わかりました、アルフさん!」


「任せろ、〈鋼鉄壁アイアン〉!」


「〈超四重奏炎爆烈魔法カルテットエクスプロージョン〉!」


「〈分身幻影攻撃術アバターイリューシン〉!」


「アルフはアタシが守ってあげる――〈幸運フォーチュン〉、ラッキータイムよ!」


 俺の指示を受け、仲間達は的確に動き出す。


 ガイゼンが固有スキルを発動し、大楯でザラタンの爪攻撃を防いだ。

 パールは超強力な爆炎を放ち、ザラタンの頭上に浴びせ両目を焼き尽くす。

 その隙にシズクが技能スキルで自分の身体を四体に分身させ、ザラタンが立位する後ろ足の膝裏を短剣ダガーで連撃を与えた。


 またピコのスキル〈幸運フォーチュン〉が発揮され、俺の幸運度がMAXまで底上げされる。

 こうすることで仲間達が放った攻撃の影響を受けないよう、空間が歪曲化され全て都合よく回避されていく。



 ズドン!



 ザラタンは立つことができず、仰向けで転倒し巨体故の地響きを鳴らし空間内を激しく揺らした。

 甲羅の重量と後ろ足のダメージもあって起き上がることが困難のようだ


「アルフさん、カナデのことはわたしに任せて戦ってください!」


「わかった、シャノン――〈神の加速ゴッドアクセル〉!」


 彼女にカナデを託し、60秒が経過した俺は固有スキルを再び発動した。

 範囲30メートル内、自分達以外の時間がほぼ止まっているに等しい状態となる。


 俺はザラタンの腹部に乗り、狙い定めて聖剣グランダーで連続斬りを浴びせた。

 流石、聖武器だけあり凄まじく圧倒的な切れ味だ。

 硬質を誇るモンスターだろうと、紙切れ同然に斬り裂いていく。


「――タイムアップだ。密輸された不遇のモンスターとはいえ、人に危害を加えるのなら処分対象だ」


 聖剣を鞘に収めたと同時に、ザラタンは絶命した。

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